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徹底整理!ビジネスに本当に役立つ世論調査・社会調査の手法とは?――国勢調査からWEBアンケート、身近な情報検索のコツまで

※ 本記事は、2016年12月に当社オウンドメディア「データ流通市場の歩き方」に掲載された内容を一部改変の上転載しています。記事内の情報は初出の時点におけるものであり、現在の状況とはそぐわない部分がございますので、ご了承ください。

「世論調査なんて当てにならない?」

世の中には社会調査・世論調査があふれています。学術研究だけみても、日本では年に300本以上の「調査」が行われます。ビジネス分野の調査技術も日進月歩で変わっていて、調査業界自体のトレンドや意識を追うだけでもひと苦労。データの解釈をめぐって論争になることも……。どうにかならないでしょうか?

(福田 千津子・本誌編集部)

1.「社会」は「調査」であふれてる!

編集部:今回は、社会調査に関するトレンドについての意識調査をしていこうと思います。

記者:えーっと、「社会調査に関するトレンド」とは、調査方法にも「流行り廃れ」があるということしょうか? そのトレンドについての意識を調査するということ? それは、記者自身の意識という意味でしょうか?

編集部:そのすべてです! 一口に「社会調査・世論調査」といっても無数の手法があって、業界内での流行り廃りも、学術トレンドも、ビジネスマンの理解も様々です。そこでまずは、世の中にはどんな調査手法があるかを記者さんに実際に調べていただきながら、その作業のなかで気づいたところ、面倒だと感じたこと、不安に思うことなどをざっくばらんに語っていただきます。その会話を通じて、「そもそも社会調査とは何なのか」「よくある疑問は何か」「実務では何が面倒になりやすいのか」などの問題意識を浮き彫りにしようという企画です。

記者:なるほど……よくわかりました(困惑)。

編集部:詳しくは、Q&Aを重ねながら、掘り下げていきたいと思います。さっそくですが、「社会調査」と聞いたとき、すぐ思いつくのはどんなイメージですか?

記者:調査と聞いて、ちょっと前に読んだ新聞記事を思い出しました。

子育てと家族の介護に同時に直面する「ダブルケア」をする人が、全国で少なくとも25万3千人いることがわかった。女性が16万8千人で、男性が8万5千人。女性により負担が偏っている実態が浮かび上がった。内閣府が28日、初の推計結果を公表した。
2012年の就業構造基本調査で「ふだん育児をしている」「ふだん介護をしている」の両方を回答した人を「ダブルケア」の担い手と定義し、推計した。この「育児」の対象は未就学児に限られており、内閣府は実際の人数はさらに多いとみている。(伊藤舞虹/編集部にて抜粋)

――伊藤舞虹「育児しながら介護「ダブルケア」25万人 内閣府推計」[朝日新聞デジタル2016年4月28日](1)

編集部:「就業構造基本調査」の推計を元に書かれた記事ですね。これは、どんな調査ですか?

記者:「5年ごとに行われる公の調査で、2012年調査で初めて育児ならびに介護に関する設問が追加された」程度のことしか、理解していません。

編集部:「初めて追加された」ところが重要ですね。定期的に行う調査でも、世間の流行や質問者の問題意識によって、設問が大きく変わります。昭和23年(1948年)に行われた「国民生活(都市住民)に関する世論調査」には、「小麦粉は完全に白くすると量(配給量)が1割位減りますが,白くした方がいいでしょうか。今のままがいいでしょうか?」といった質問があって、終戦後の食卓事情が窺えます。

記者:設問だけを年代別に追いかけても、面白い発見がありそうですね。調査は時代の写し鏡というか、流行っていないものを調査したところで、需要がないですもんね……。

編集部:依頼者の興味をとことん掘り下げる調査もありますよ。探偵の浮気調査みたいに。

記者:それなら何でも「調査」になりますね。社会について調べれば社会調査、世論について調べれば世論調査、人々の意識について調べれば意識調査、市場について調べれば市場調査、誰かの素行について調べれば素行調査……。世の中は調査にあふれているのかもしれません。

編集部:ちなみに、「科学研究費助成事業データベース」で検索すると、2010年から2017年までに開始された研究で、件名に「調査」という単語を含むものは、60,722件ありました。「意識調査」だけに絞っても、1,481件。企業や政府、非営利団体の調査も含めると、社会ではもっと多くの調査が行われているのでしょう。

2.どんな「手法」があるのかわからない!

編集部:調査の手法には、どんなものがあるでしょう?

記者:ざっと調べてみたところ、前述の「就業構造基本調査」は、訪問面接調査です。調査員が対象者の自宅へ足を運んでいます。「郵便調査」「FAX調査」なら調査票を紙で送りますし、電話で質問するなら「電話調査」で、パソコンやスマホを使うものは「ネット調査」と呼ばれます。「会場調査」は対象者に1か所に集まってもらいますが、街角で質問する「街頭調査」もよく見かけます。うーん、あと、何がありますかね……。

編集部:調査に用いるメディア(媒体)ごとの整理ですね。他にはありませんか?

記者:いくらでも見つかりますよ!(怒)(調査法をまとめたリストを渡す)

編集部:ちょっと整理しましょう。私たちが誰かに何かを聞きたいとき、どんな風にして教えてもらうかを考えてみてください。細かく分けるとキリがないですけど、とりあえず、4区分で考えてみたら、どうですか?

  1. こちらから相手に「訪ねる・問いかける」

  2. 相手を「呼び出す・教えてもらう」

  3. 実際に「試してもらう・見せてもらう」

  4. 許可をもらって、「追いかける・尾行する」

記者:こうですか?

図1:マーケティング調査手法の分類(仕掛かり)

編集部:いいですね。ひと口に「調査」といっても、何十種類も手法があります。新手法も、メディアの進化に伴って、どんどん増えています。でも、抽象化すれば、手法は4区分で、使えるメディアもざっと9通り。だとすると、せいぜい36パターンしかありません。

図2:マーケティング調査手法の分類(用いる媒体別)

記者:かなり整理されましたが、36パターンはそれなりに多いですね……。

3.どれを選べばいいの?

編集部:では、上司やお客さんから、「自前で調査してよ」と言われたら、どの手法を選びますか?

記者:え、なんか急にハードルが上がりませんか!? うーん、まずは予算ですよね。使えるお金がいっぱいあるなら、やっぱり餅は餅屋、調査会社に丸投げしちゃいたいですね(笑)。そんな余裕がなくて、自前で実施せざるを得ないなら、郵送費や通信費がかからないほうがいいですかね……。となると、Webアンケート調査になるのでしょうか。調査会社の業界団体が行ったアンケート調査でも、「パソコンによるオンライン調査」が断トツで多いです(76.5%)。

図3:調査会社による各調査手法の使用状況

編集部:面白いですね。調査概要をみると、回答者は「調査企画・設計業務」(65.7%)「実査対応業務」(44.6%)「集計・分析業務」(47.9%)などの担当者。「仕事で調査をする人たち」でも、調査手法を手軽さや簡単さを目安に選んでいるように見受けられます。

記者:ネットの普及は、調査業界にとっても画期的だったのでしょうね。それにしても、調査手法って、こんなにあるのですか!? どれを選べばいいのか、迷ってしまいそうです。

編集部:それこそ、「調査手法に関する調査」が必要なくらいですね。

4.何から始めればいいのかわからない!

編集部:ところで記者さんは、「よくわかっていないこと」を調べるとき、何から始めますか?

記者:ベタですが、やっぱりネット検索でしょうか。思いついた用語を片っ端から入れて、関係ありそうなページを探してみます。ただ、がむしゃらに検索しても、余計な情報ばかりヒットして、なかなか肝心のものが見つけられないこともよくありますけど。

編集部:そのうち面倒になって、「とりあえずニュースだけ見ておくか」とか「あとで詳しい人に聞けばいいや」なんて思っちゃうんですよね。

記者:その通りです。実は、冒頭でご紹介した新聞記事も、「お、ダブルケアについて調査したのか」と目を止めたものの、そのまま自分で追加取材せず、放置していたんですよね。

編集部:では、もし「ダブルケア」について、さらに深くと調べてみるとしたら、何から始めますか?

記者:まずは、周りの人に「ダブルケアって言葉、知っている?」と聞いてみます。どの程度、認知されているか把握しておきたいので。

編集部:その後は?

記者:「知っている」と答えた人に、「どこで知った?」と訊ねますかね? それが雑誌の記事だったら、読んでみるだろうし、TV番組だったらどんな内容だったか探ってみるだろうし……。

編集部:小さなとっかかりから、少しずつ深掘りしていく感じですか?

記者:なんだか遠回りな気もするんですが……。短い時間で面白い資料を見つけてくる人っていますよね。ライターの仕事をしていると、必要な情報を端的に集められる術が求められるので、そういう人は本当に羨ましいです。編集部では、どのように資料を集めているんですか?

編集部:編集部内で聞いてみたら、こんな答えが返ってきました。得意な守備範囲がちがうみたいです。

図4:「調査方法に関する意識調査」(n=3)

記者:やっぱり、みなさん、それぞれ独自に磨き上げてきた検索テクニックがあるのですね。こちらは、早くも情報の海に溺れそうですが(涙)。

5.面倒だし、専門家に聞いたほうが速い?

記者:データベースが色々あるのはわかるんですが、記者はコツコツとした調べものが苦手で、すぐに詳しそうな人に直接、聞いてしまうんですよね。でも、テクニックさえ身につければ、すべての答えが資料やネットで見つかるんでしょうか?

編集部:いえいえ、これだけ調べても、欲しい情報にはなかなか巡り合えません。そこでようやく、新たに調査をする必要が出ますね。私の場合は、先入見を増やしたくないので、リアルな対話は優先度を下げています。

記者:文献を調べられるだけ調べて、それでもわからないときに初めて人に会いにいくのですね。

編集部:「何を調べるのか」「誰を訪ねるのか」は、本当に人それぞれです。専門家に聞くのは後回しにして、まずはSNSで下調べ的に口コミを読んでみる人も、身近な誰かに話を振って「みんなの知識量」をなんとなくつかんでおく人もいます。

記者:記者と同じタイプですね! 資料を探す時間が人より余計にかかるせいもあるのですが、やっぱり情報の鮮度にこだわりたいんです。ものすごいスピードであらゆる物事が更新される昨今、「必要な情報をようやく見つけたときには、既に他で新しい情報が発表されていた」なんてことが、いくらでも起きる気がします。

編集部:競争ですからね。

記者:貴重な時間を使って、あるのかどうかわからない調査結果を探すより、自分で足を動かして「活き」のいい情報を入手したいと思ってしまうのは、あまりに短気過ぎるでしょうか?

編集部:不安に感じるのもよくわかります。仕事をしていて、メールするより電話したほうが楽だとか、会って話さないと伝わらないと感じるときがありますよね。この視点でメリット・デメリットをまとめると、調査手法ごとの使い分けも考えやすいです。

図5:調査手法ごとのメリット・デメリット

記者:なるほど。でも、ただでさえ、資料を探すのが苦手なのに、その使い分けまで考えていたら、ますます時間がかかってしまいそうです(涙)。既存の調査手法や資料から、必要なものだけを効率的に見つけられるようになるまでは、まだまだ長―い道のりです……。

編集部:何十年もかかる調査を、ライフワークにする研究者もいますからね。

6.調査に予算がかけられない!

記者:いろいろ調べていくうちに、「調査」ってまだまだ敷居が高いなぁと感じてしまいました。もうちょっと身近で、手軽にできる調べ方はないものでしょうか?

編集部:無理に自力でやらずに、他のひとの「調査」を探して読むほうが気楽ですよ。できれば、お気に入りの「探し場所」を覚えてしまと早道です。分野によって、メタ論文、レビュー論文、書評集、用語集、ガイドブック、白書・年鑑、要覧・総覧、全集・辞典、目録・カタログ、データベース、アーカイヴ、レファレンス等々と呼ばれますが、役割は同じです。

記者:この記事の調査中にも、編集部の方からたくさんの資料をいただきました。例えば、「「比較しろ」って簡単に言いますけどね――質的調査VS量的調査 岸政彦×筒井淳也」(SYNODOS)という記事がありました。社会学者(生活史, フィールドワーク)と社会学者(計量社会学)の対談です。こういう資料を、どうやって入手されているのですか?

編集部:その記事を見つけた編集部員は検索スキルがやばいんですよ。「Twitterを眺めてたら、たまたま流れてきた……」とか言うんです(苦笑)。本人(部員C)に聞いてみましょうか?

記者:ふだん、どうやって情報収集してるんですか?

部員C:検索ですね。

記者:何で検索するんですか? 検索キーワードをすぐに思いつく?

部員C:いや、自力ではほとんど考えません。知らないことを思いつけるはずないので……。適当に無料データベースを「はしご」して、検索キーワードの「候補」を仕入れていきます。無料の専用ツールも多いですし、その紹介記事も5年前くらいから無数に書かれてるので、珍しい話(収集方法?)ではないと思います。速い企業はもう、この手の検索作業すら機械化してるんじゃないですか。

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記者:全部を毎回調べるのですか?

部員C:とりあえず思いついたものだけですね。全部を調べるとキリがないので、テレビ番組をザッピングする感じで、目に入ったものをメモするくらいです。

7.GOOGLE検索すればなんでもわかる?

記者:そのあと、検索キーワードの候補を使って調べていく?

部員C:他に、いくつか「小技」を持っておくといいです。これも検索すればいくらでも記事が出てくるので、大した知識でもないと思いますが……。

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編集部:「検索の小技も、検索すればすぐ見つかる」と知っていないと、そもそも試そうと思えないんじゃ……。

部員C:SNSのタイムラインをRSSの代わりに使ってるんですよ。ニュースサイトとか、インディーズの雑誌とか、論文データベースを紹介するようなアカウントを大量にフォローして(註:RSSとは、Webサイトの更新情報を他人に自動で伝えるための配信フォーマットや、それを使ったサービスのこと)。

記者:それをいつも使っている?

部員C:いつも使うのとは別ですね。情報収集用です。昔は、知りたいテーマごとに関係者を50人くらい集めたリストを作っていました。最近はあまり使っていないんですけどね。まぁ読み切れないので、暇なときに気が向いたやつを眺めるくらいでした。でもこのやり方はたぶん古くて、最近はみんなSlackのRSSとかIFTTTとかFeedlyとか使っているんじゃないですか。その設定も面倒ならNewspicsとかGunosyとかカメリオとか。そのうちMastodonで専用インスタンスを作るひとも出てきそうですが。

記者:資料を見つけるコツは? そのときのご縁?

部員C:勘ですね。Twitterに限って言うと、フォロワーが何万人もいる人は、ほとんどポジショントークしかしないので、基本的に避けてます。まとめサイトとかキュレーションサイトのURLをひたすらシェアするような人も、当てにならないので、無視してますね。むしろ、フォロワー数200人くらいで細々とやっている人を探します。研究所の一般職員とか、業界団体の担当者とか、地方の図書館司書とか。

記者:でも、そんな人、すぐには見つからないですよね?

部員C:もちろん最初は、メジャーな話題を探すところから入りますけど、記事本文をちゃんと読めば、「専門家によりますと」とか言って紹介されてる人とか会社とかあるじゃないですか。その名前で調べたら、論集とか評論を出している出版社とか著者とか研究者がすぐ見つかります。面倒だから私はSNSでしかやらないですけど、新聞とか雑誌のデータベースでも同じことはできて、他にも図書館の検索エンジンとか、論文データベースとかで調べると、まとまった情報がわりと効率よく見つかります。

編集部:もし見つかっても、その著者や研究者の評判や立場は、すぐにはわからないでしょう?

部員C:まぁそこは見極めなきゃいけないですけど……イメージとしては、こういう感じですね。本の売り上げとか、Web記事の人気とか、貧富の差とかも、大抵こういう分布をするんですよ。

図6:部員Cによる「べき分布」

編集部:「べき分布」と呼ばれるグラフですね。

部員C:で、世間で「トレンド」だと思われているのはここ(頭頂部)なんですけど、ここ(頭頂部)では新しいことが滅多に起きないです。逆に、こっち(底部)にもなるべく行かないようにしていますね。土地勘がないので、有益な情報の探し方・見つけ方がよくわからないんですよね。

図7:部員Cによる「べき分布」2

編集部:頭頂部は「ドラゴンヘッド」、底部は「ロングテール」と呼ばれることもあります。

部員C:先にここ(中間部)を整理することをいつも考えてます。それで、この点についてもっと知りたいなってときはこっち(底部)に行く。しばらくいたら、またこっち(中間部)に戻る。でも、何年か経つと、こっち(中間部)にいた面子が、こっち(頭頂部)か、こっち(底部)にいっちゃう。ここ(中間部)に留まれる人って、なかなかいない。

記者:ベストセラーになる書籍と大きく売れない書籍に二極化していて、人気が出過ぎず、コンスタントに売れる人って少ないですよね。実際にネット書店の売上データを分析した論文も見つかりました(参考)。テレビ番組も、似たような状況かもしれません。

8.アンケート調査、社内でどうしてる?

編集部:ちなみに、そもそも「アンケート」って何でしょうか?

記者:改めてシンプルに問われると困りますね。Wikipedia先生のお力を借りましょう。

元々は対面による会話なども含めていたが、現在は調査研究の方法として、質問紙法をさす場合が多い。社会調査の手法の1つとして知られている。アンケートという語はフランス語に由来し、英語ではサーベイ(survey)またはクエッショネア(questionnaire)という。複数の人に対して、同じ質問をすることによって、比較できる意見を集める。さらに回答も定型化することで、意見を明確化するという目的がある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンケート

編集部:ポイントはどこだと思いますか?

記者:「同じ質問」「回答を定型化」という辺りですか? 記者はもともと女性誌中心のフリーライターだったので、「読者アンケート」を例に挙げると、確かに同じ質問をたくさんの読者に定期的に投げかけるのが常です。「今回の特集でどのテーマが一番気に入りましたか?」とか「次にやってほしい連載は何ですか?」とか。あとは、「今月号の付録は気に入りましたか?」と質問して、「大いに気に入った」「まあまあ気に入った」「あまり気に入らない」「すごく気に入らない」などとスケールを設けることもありますね。
ハガキとして雑誌に綴じ込みになっているものや、モニター登録していただいた方にメールやFAXで送ることがほとんどですね。

編集部:ぜんぶ編集者さんやライターさんが読むんですか? 調査会社の方にお任せですか?

記者:編集部内で読んでいますね。配信前の質問票もそうですし。ライターにも回答いただいたハガキなりFAXなりを「ドーン!」と渡されます。

編集部:いつも、何人くらいから回答がありますか? 参考になる答えはどれくらいありますか?

記者:n数は、ハガキの場合は雑誌を購入された方、モニター登録の場合は回答いただいた方ごとに異なるので、それぞれが多いのか少ないのか記者には判断できません。でも、斬新な発見も、それなりにありますよ。集計結果を特集テーマ別のランキングにして、予想を裏切る結果が出ると、「まだまだ読者のニーズを掴み切れていないな」と反省したり……。

編集部:集計作業は、どうしていますか?

記者:編集部によると思いますが、新人社員に任されたり、アルバイトの大学生がやったり。大量のアンケートデータを扱う場合は、調査会社に委ねることもあると思います。

編集部:読者全体から見ると、何%くらいの人が回答してくれていますか?

記者:これもアンケートの種類によると思います。ネット調査なら気軽に答えやすいですし、「ご協力いただいた方の中から抽選で○○をプレゼント」などとインセンティブを用意すれば、当然回答率は上がりますよね。

9.どう解釈すればいいかわからない!

編集部:やっぱりそうですよね。意識調査は、回答者全員(母集団)からサンプリング(無作為抽出)して行うことが一般的です。薄謝や特典のある調査も、当たり前に行われていますね。

記者:無作為抽出……くじ引きのように適当にピックアップして、その人たちにだけ調査するのですよね? でも、「作為が無いこと」と「偏りが無いこと」は別問題じゃないですか?

編集部:そこが難しいところです。もちろん、統計学では、得られたデータが母集団と比べて偏りがないかを推測する手法が考えられていますが……。ほとんどの人がその手法の存在すら知りませんし、付け焼刃で使おうとすると、データの理解を誤る原因にもなります。専門家に解説を頼むのも一手ですが、その説明と理解に苦戦するあまり、肝心の会議が進まないといった光景をよく目にします。進行が滞るのを不快に感じるからか、せっかく調査したのに、結局はその場の雰囲気や、決裁者の直感と経験で話が進んでしまうことも。そもそも、日常的に行う調査にそこまで手間・暇をかけられない企業もあるでしょうしね。

記者:どれも容易に想像できますね。「何かを知りたくて調査するのに、かえってわからなくなる」という不条理も起きそうです。

編集部:設問設計が上手くできなくて、欲しい結果が出なかったり。集計の手際が悪くて、正しい解釈ができなかったり。データの理解を誤って、むしろ思い込みを強化してしまったり。そうした種々の躓きから、専門家による調査が、生活者をどこまで深く、幅広く捉えられているのかと疑問視されるのはよくある話です。

記者:良い結果を出すために、実験設計を調節しすぎて、現実離れしたデータや、実務に使いづらいデータを作ってしまうこともありませんか? スポンサー付きの調査で、不正確だったり、偏りがあったり、対象が狭すぎるなど、測定値が都合よくねじ曲げられていないかと感じることもあります。

編集部:企業のマーケティング調査は、純粋な正しさばかり追い求められないのが実情でしょう。事業企画の売り込みをするのに、「消費者からの支持が得られていない」とする調査は使われないでしょうし、「満足度が高い」と主張したい人は、満足度が高くなりそうな調査設計をするでしょう。

記者:そりゃそうですよね。

編集部:公表バイアス(出版バイアス)といって、そもそも悪い結果が世の中に出にくいことは、専門家の間で広く知られています。その偏りを知るために、複数の調査データの信頼性を見比べる、メタ・アナリシスという学問もあります。

記者:正しいデータを適切に解釈することより、思い込みを払拭することのほうが難しいのかもしれません。不安を感じる人は、「安全基準を満たしている」と言われても、「安心できない」と言うでしょうし。

編集部:だから、個々人にとってはちょっとした無理解でも、積み重なると深刻な社会問題になってしまいます。

10.調査対象に偏りがあるんじゃない!?

編集部:社会調査を行うとき、よく疑問に挙がる偏り・バイアスをまとめてみました。他にもありますので、詳しく知りたい方は、社会心理学や認知心理学、メタアナリシスの入門書を手にとってみてください。

【注意】
(1)利用メディアの偏り
当たり前ですが、電話調査は、電話をかけた時間帯に、電話に出られる人にしか質問できません。訪問調査は、その時、その場にいなかった人の考えを聞けません。スマホ調査の回答者はスマホユーザで、パソコンやテレビの利用状況は、別に質問しないと分かりません。オンライン調査は何かと便利ですが、ネット通信サービスを利用できない人の声は拾いづらい(途上国調査や、高齢者調査で問題になりやすい点)。

(2)回答者の偏り
例えば、新しいメディアを使った調査は、普及率の低さや利用者の分布から、「回答者が若者に偏らないか?」と指摘されます(LINEアンケートや電子書籍の評価など)。反対に、郵送調査は「高齢者に偏っていないか?」と言われます(調査の日時によるバイアス)。
もちろん、なるべく均等に、世代別に、機械的に対象者を選ぶ手法も考案されています。とはいえ、その日・その場の状況を完全にコントロールするのは不可能です。すべての国籍・性別・年齢のひとが100%使うメディアなど存在しませんし、調査会社も回答者パネルを無尽蔵に集められるわけではありませんから、「中高年が多い」「若年層が中心」「高齢者が主体」など、調査会社ごとに得意な守備範囲があることは知っておきたいですね。

(3)回答方法によるバイアス
モニター数や設問数を増やせば、回答の質が上がるわけではありません。曖昧な回答や、解釈しづらいデータが集まってしまったのでは意味がありません。Webショッピングで使えるポイントなど、報酬がもらえるアンケートもありますが、これを目当てに複数の調査会社に重複登録して、虚偽の回答をするモニターも問題視され、各社が様々な対策を行っています。

(4)質問表現によるバイアス
対面の雑談と同じように、「聞き方」を変えれば、もちろん「答え方」も変わります。単一回答とするか重複回答を許すか、ラジオボタンを使うかチェックリストを使うか、5段階評価にするか2択にするか。どんなキーワードを盛り込むか、賛否を問うか意向を問うか、そもそも何について質問し、どれくらい下準備してもらい、どれだけ時間をかけて答えてもらうか。国際調査の比較では、言語ごとの微妙な機微や用法の差が、とりわけ問題になります。他国語圏の質問票を直訳して使うことで、現地の人々にとっては失礼だとか、押しつけがましいと感じる設問になってしまうことも。

(5)インセンティブによるバイアス
商品や電子マネーに交換できるポイント、謝金なども、回答内容に影響を与えないかと心配されることは往々にしてあります。回答者が調査に協力してくれるかどうかや、そもそも調査の実施に気づいてくれるかどうかなども問題になります。報酬など無ければいいのかと言うと、返礼なしに善意で回答してくれる方は、調査対象全員からみたら、偏った属性の方かもしれないのが難しいところです。

(6)公表バイアス(出版バイアス)
世間に公表される調査が、無数に行われた調査の一部分であることはよくある話です。調査する人が、良い結果だけを公開したくなる気持ちも分かります。そうした意図が、調査結果を歪めてしまうことも。第三者による追試や再試を行ってこれを防ぐことも行われていますが、今度はその追試や再試の方法の正しさも気にかかります。そこで、学問の信頼性を守るために、それら複数の調査の偏りを見極める方法を研究する分野も生まれています(メタ・アナリシス)。

11.世論調査は当てにならない?

記者:そう言えば、昨年の大統領選で、世論調査ではヒラリーさんの方が優位だったのに、蓋を開けてみたら、トランプさんの勝利でしたよね? 「世論調査って当てにならないなぁ」と首を傾げた人も多いのでは?

編集部:はじめは、「大統領選の世論調査を行った企業が、トランプ支持層の声を上手く掬い取れていなかったのではないか」と言われていました。けれども、調査手法が不適切だったわけではないようです。予想を外した調査は複数あって、手法も郵送調査とWeb調査のどちらもあったとのことですから。

記者:「上手く掬い取れていなかった」理由が知りたいですね。

編集部:データ・ジャーナリズム専門サイト「Five Thirty Eight」のネイト・シルバーは、事前の結果予想で、クリントン優勢としつつも、「まだ決めていない(Undecided)」有権者の割合が高いので、彼らが「より不確かな結果」を生み出すことがあると注記しています(出典:Final Election Update: There’s A Wide Range Of Outcomes, And Most Of Them Come Up Clinton)。また、ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーアが、「“投票に行く意向のある人”を対象にした調査では、ヒラリー陣営はたったの4 pointしかリードしていなかった」と主張していたのも印象的です(出典:5Ways To Make Sure Trumps Loses)。

記者:「投票に行く意向のない人」に調査してもあまり意味がない気がするのですが、そういう調査が多かったということでしょうか?

編集部:いえいえ、「意向のない人」がどれくらいいて、どの政治家の何を支持しているか分かれば、「行く気にさせるメッセージ」や「行きたくなるイベント」を考えられます。だから、それはそれで有益ですよ。厄介なのは、調査方法が正確でも、その説明や解釈によって、調査報告を読む人の受け止め方が大きく変わってしまって、事実からかけ離れた理解をされてしまうことがあるのです。

記者:なるほど。

編集部:現に、得票数や得票率では、ヒラリー陣営はトランプ陣営を上回りました。けれども、アメリカ大統領選は選挙人制度と有権者ID法を採用しています。今回の勝敗を決めたのは、選挙人の人数が多く、両陣営の支持層が割れている激戦州で、トランプ陣営が勝利したことです。しかし、その背景には、アメリカ国内の人種・経済・政治上の格差がいくつも横たわっているのだろうと指摘されています(参考:ヒラリーは本当は何に負けたのか)。

記者:選挙人制度の特性をトランプ陣営の方がよく理解していたということでしょうね。作戦勝ちというか。

編集部:それも、よくわからないんですよね。トランプ陣営はそこまで意図してなくて、アメリカ国内の政治情勢が、今回たまたま彼らに味方しただけかもしれない。ヒラリー陣営も、選挙人制度を熟知しているはずですし。

記者:それこそ、調べてみると面白そうです。「どうして投票に行った(行かなかった)んですか?」と。

編集部:少なくとも言えるのは、「調べ方」「まとめ方」「伝え方」「読み方」のどれかが不適切だと、ある調査から事実を知るのは難しいということです。今回の大統領選でも多くの企業が世論調査を行っていますが、現地メディアが扱える情報には限りがあります。メディアごとに贔屓の政党や主要論調も違います。さらにその一部が翻訳されて、日本で報道されるわけです。でも、関連報道にくまなく目を通す人は少数派でしょう。世論調査の出所や仕様を自力で確かめた日本人は、もっと少ないはずです。

記者:情報源からどんどん遠ざかってしまいますね。

編集部:データ自体の正しさとは別の、「誰に、どこまで詳しく読んでもらえるか」の問題です。これは、調査に答える人にも言えることですが。つまり、「誰に、どこまで詳しく伝えられるか」。

12.良い結果が出るように細工してない?

記者:「Yesですか? Noですか?」と聞かれて、簡単にどちらか選べるほど、今の世の中、単純ではないかもしれません。「基本はYesなんだけど、この点に関してはNo」という時、どちらか一つにだけ丸をつけるのは抵抗がありますね。

編集部:人間ですからね。

記者:「質問紙法」が学問のジャンルとして成立しているという、すごい話も知りました(参考:「<総合研究>質問紙法に関する基礎的研究 : 心理学的臨床の分野における性格表現用語の検討」、続 有恒ほか)。「選択肢に数字を振るかどうか」でも議論があるそうです(「1.すごく好き」と書くか、「すごく好き」と書くか)。5段階評価にすると、回答が「普通」「どちらとも言えない」に偏ったとき大変なので、選択肢として入れるかどうかは要検討、とか。「役に立ったか」と聞いて「役に立たない」結果になると困るから、「満足したか」を質問するとか。

編集部:調査会社には、質問票を校閲する専門チームや担当者もいるぐらいです。

記者:でも、白状しますと、アンケートってあまり好きじゃないんですよね(苦笑)。根掘り葉掘り、しつこく聞かれる感じがしませんか? 「Aが好きな理由について、該当するものを全て選んでください」という質問があったとして、その理由が20個も列挙されていると、それを一つ一つ読むのが面倒なんです。で、途中で飽きちゃって、「えい、もう適当に○つけとこう」となってしまう……。

編集部:それこそ、報酬でもないと答える気になれない?

記者:私たちも読者アンケートで「お答えいただいた方の中から抽選で」とか、「回答者全員にポイントを進呈」とか、ご褒美をちらつかせているので、逆の立場になった場合、「わざと釣られてあげる」ことはあります。でも、さらに多くの追加質問に応えなければいけなかったり、一度協力したばかりに、あの手この手で別のアンケートが届くようになったりすると、「あの時のサービス精神が事態をより面倒にしてしまった」と後悔するんですよね……。それに、自分も偉そうなことは言えないのですが、特典目当ての人の回答ばかり集めたところで、本当に正しい結果が得られるんでしょうか?

編集部:よくあるバイアスのひとつで、「インセンティブの違いが調査協力および回答内容に及ぼす影響」という的を射た調査が行われています。「返礼の有無が調査協力に影響するかはまだよく分からないが、謝礼を選んだ人の人柄や回答は、同額を寄付することを選んだ人とは大きく異なる」ことまでは判明したよう。

記者:うー、やっぱりそうですか。特典つきの読者アンケート、考え直した方がいいかもしれませんね。

編集部:でも、「お礼なし」でアンケートをすると、今度は「ボランティアでも協力してくれる、善意の方」ばかりが集まって、「実は不満に思っているけれど、黙っている方」の声が集めにくくなりますよ。

記者:それはそれで困りますね……。

編集部:先ほどの調査も、「寄付か、返礼か」の比較をしていますが、「返礼ありか、無報酬か」を調べたわけではありません。ひとつの調査で、偏りのない結果を得るのはとても難しいのです。少しくらい偏っていても、それを正しく受け止めるほうが、本当は簡単なのかもしれません。

13.インタビューのほうが簡単じゃない?

編集部:意図や作為をどうコントロールするかは、永遠の課題ですね。これは質問者と回答者のどちらにも言えます。お礼がないと回答を集めにくいけれど、集まる回答にはお礼目当ての回答も含まれてしまう。調査意図を明かさないと不審に思われるけど、明かしてしまうと回答に影響があるかもしれない。

記者:「自由記述」で回答を求める設問が併設されていることもありますよね? 読者アンケートでも、最後はフリーアンサー欄にすることが多いです。

編集部:さっき話に出た「【報告書】リサーチ手法に関するアンケート」(JMRA調査技術研究委員会)でも、「グループインタビュー」(59.2%)と「対面によるデプスインタビュー」(45.9%)は、使用率が高いですね。

記者:どんなインタビューなんですか?

編集部:よくある「グループインタビュー」は、6~8名くらいの生活者を招いて、1~2時間ぐらいの座談会形式で行われます。「デプスインタビュー」は、調査員との1対1で、30~1時間ほどかけてじっくり話を聞き出します。どちらも、大規模なアンケート調査の下準備や補足として行われています。

記者:うーん、インタビューの意義はわかるのですが、これはこれで微妙ですよね。だって、人は嘘をつきますもん! 本人が見栄をはったり、体裁を気にして、脚色を加えて答えたりしませんか? 騙すつもりはなくても、サービス精神から相手が望む答えを口にすることもあると思うのですが?

編集部:語りづらい本音や、見落としていた気づきを聞き出せるかは、調査員の腕前次第ですね。企業が知りたい生活者の素顔は、本人にとっては日常的で当たり前のこと。ありきたりな質問を繰り返すだけでは、なかなか実情を探れません。ちょっとした仕草や視線、表情、声の抑揚などをヒントに、解釈と想像力を働かせなければならないので、ベテランの経験値が活きる分野です。

記者:対面調査は、「該当者が見つけづらい」「予算がない」といった理由から、やむをえず選ばれることもあると聞いたんですが?

編集部:本格的なグループインタビューは、むしろアンケート調査より高額になりますよ。それに、専門家に頼むだけが「調査」ではありませんからね。化粧品会社の担当者が企画に息詰まると、女子高生が集まる駅に行って街頭インタビューするとか、ゲーム開発会社の担当者が海外進出に当たって、現地の子供たちと一緒に何日も遊んで過ごしたなんて逸話も、最近では珍しくなくなりました。親しい人にしか言えない本音や、その時・その場の身体の動き、すぐに忘れてしまうふとした気分を知りたいときは、質問票に頼らないほうがいいとする考え方です。

記者:ありとあらゆる用法で、顧客の意識や深層心理に迫ろうとしているのですね。

14.もっと新しい手法にしたい!

編集部:というわけで、社会調査・世論調査の分野で、最近しばしば話題になることをまとめてみました。

【ちなみに】
(1)実施コストの低下
新しいメディアを使う調査ほど、パネルの募集、質問の配信、個票の整理、回答の集計などを行うコストが下がります。例えばインターネット調査は、郵送や電話と比べて人手もかからないし、調査もすぐに終わります。回答が始めからデジタルデータなので、紙からデジタルへの入力作業も不要です。しかしその分、回答者の肉声、印象、態度などは分かりにくくなりますので、調査予算の豊富な企業では、種々の対面調査と組み合わせた調査計画を立てることが一般的です。

(2)調査サービスの部品売り
調査会社のサービスメニューも多様化しています。要件定義からパネル募集まですべてを依頼できる「委託型」では、購買履歴やメディア接触データの同時収集(シングルソースパネル)、アクセス解析・アイトラッキング・Cookie連携などの組み合わせ分析を充実させています。マクロミル「Questant」や「Google Form」など、調査設計から集計分析までを質問者が自力で行える「セルフ型」も、大学生や個人事業主、NPO団体などに支持されています。

(3)属性情報が豊富に
パネル会員を数百万人規模で抱える調査会社は、調査ターゲットの細かい絞り込みにも対応しています。予備調査(スクリーニング)といって、「誰に質問するかを選定する」調査を行うのですが、「オーディオ機器に興味がある」や「家の買い替えを検討している」「直近3ヶ月間で通院したことがある」など、特定の属性を持つ人だけに質問票を送れます。詳しい条件に当てはまる、レアな対象者を見つけ出せることを「売り」にする会社もありますし、「パネル会員に広告配信可」とするサービスも登場しました。

(4)表現の多様化
さらに、選択肢によって回答ルートを分岐させたり、画像、動画、Webサイトなどを見ながら回答してもらうこともできます。アンケート回答画面で入力制限したり、わざとダミー設問を設置したりすることで、未回答、誤回答、矛盾なども減らせます。回答内容ではなく、答えるまでの時間を計測して、潜在心理を探る手法もあります。アンケートパネルに質問する代わりに、ソーシャルメディアの投稿を分析する企業も増えて来ました。

(5)分析手法の高度化
近年では、定量データから定性価値を抽出したり、定性データを定量的に計測する手法が、熱心に研究・開発されています。そうでなくても、定量調査と定性調査の組み合わせは当たり前に行われています。かつては慣用的に、調査結果を「数値」で分析する方法が「定量調査」と呼ばれ、そうでない調査が「定性調査」と呼ばれていました。今や、「この手法は定量調査なのか、定性調査なのか」と考えるのはあまり意味がなくなっています。

(6)回答者の参加が重要に
一連の動きは、会員個人の裁量が広がり、回答負担が増え、企業に知らせる私生活の範囲が大きくなることでもあります。これを歓迎して、社会調査は、一方向の「質問(Asking)」ではなく、双方向の「対話(Conversation)」「傾聴(Listening)」に向かうべきだとする潮流があります。
さらに踏み込んで、そもそも社会調査の狙いは生活者/消費者/市民により良いサービスを届けることにあるのだから、ワークショップや参加型企画などの「共創(Co-Create)」を行ったほうがよい、との考えもあります。近年では、Web上の行動ログなどの分析をめぐって、提供された個人のデータを、企業が使うだけではなく、個人にも返還していくべきだとの議論も出ています(Data Portability)。

15.終わりに

記者:一言で「調査」といっても、いろいろな論調があり、それに基づいて、日々、いろいろな手法が生み出されているのですね。「本当のところ」を知るために、あの手この手で必死に迫ろうとしている流れがわかり、「調査って面倒臭い。しかも、当たらない調査も多くて、あまり意味ないんじゃない?」などと否定的にとらえていたことを反省しました。

編集部:注意することや厄介なこと、気がかりなことばかりですからね……。

記者:想像や憶測で物事を捉えるのは危険ですもんね。やはり、調査という裏付けをきちんと取って、何か決定するときはきちんと根拠を示すことが大切だと思います。

編集部:自力で調べるのは大変でも、世間は広いですから、引用しやすい調査がきっと見つかると思います。

記者:一方、調査結果を示された側は、それを鵜のみにせず、疑いの目をもって、調査方法から改めて見直すくらいの慎重さが必要ですよね。

編集部:ひとまず、どんな手法があるのかぐらいは、ざっと頭に入れておいていただけたら。

記者:調査する側も、調査される側も、真摯に正直にそのお題に向き合うことが肝心なんだと思います。そのためには、「なぜその調査をするのか」「なぜその調査に応える側に選ばれたのか」という本質を常に忘れてはいけない。調査に応えるのは面倒なことも多いですが、そこにちゃんとした意義を認めれば、それほどいい加減に応えることはない気もします。ちょっと性善説すぎますかね?

編集部:少なくとも、あからさまな嘘やごまかしは、払拭できると信じたいものです。

記者:結局は、調査に関わる人の「どうしてもこれが知りたいんだ!」という熱い想いが、調査の成否を決めるのかもしれません。

参考文献リスト

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