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小春日和


LUMIXギャラリーの隣のコンビニでは赤い髪の女が缶コーヒーを手にして、セルフ・レジで会計を済ませた。
お正月の大雪の日にも缶コーヒーをCOLDで販売するその店を利用するのは久しぶりだ。
大雪の寒い日に冷たい缶コーヒーを販売している。その店の姿勢に無意識に発した「クソッ」を店員に聞かれたように思った。
赤い髪の女は友人レジの店員と顔を合わせたくなかった。
赤い髪の女はイチョウ並木の方向へ向かった。
春一番がすれ違う他人の手に持ったコートを吹き飛ばそうと大暴れしていた。女の赤い髪も風に流されていた。
赤い髪の女は神宮外苑の外周で膨らみ始めた桜の蕾と缶コーヒーを並べて写真を撮った。そして、友人に写真をメールで送った。
「冷たい缶コーヒーが美味しい季節になった。」
赤い髪の女はつば九郎の巨大ポスターの前で声を張って、SOLTの「春はすぐそばに」を唄った。
聴衆はつば九郎のみ。だから思い切り唄えた。
気持ちの良い春の風に女の歌が飛んでいった。
つば九郎は無言の笑顔で応援してくれた。
唄いたいのではない。唄わなければならないのだ。
小春日和の春の陽射しを吸収した風を切り開いて、自分の声で道を切り開かなければ墜ちそうだった。
毛布のように彼女を包んでくれる春の風を吹き飛ばさなければいけなかった。
赤い髪の女の唄に切り開かれた春の風は彼女の背中に推進力を与えた。
#詩
#神宮外苑
#桜

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