清貧の書・屋根裏の椅子
林芙美子については、どうしても『放浪記』を読んだ印象から、人生の酸いも甘いもを見てきた生命力のたくましい女性というイメージが、自分のなかで強かった。
ところが、本書の冒頭におかれた「風琴と魚の町」をひもとくと、尾道の舞台にアコーディオン弾きであった父親の記憶が、その音楽や音とともに語られるので、自分が経験したことのないかつてそこにあった日本社会やその風景がほうふつとされてきて、陶酔させられるような没入感があった。
「ええーーご当地へ参りましたのは初めててござりますが、当商会