ジェフリー・ハラダ

Jeffrey Harada 日本文化研究、サブカルチャー評論。 日本育ち。好きな食べ…

ジェフリー・ハラダ

Jeffrey Harada 日本文化研究、サブカルチャー評論。 日本育ち。好きな食べ物は、へぎそば、ルンダン、ハロハロ。 @jeharada

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  • ニッポンの近代文学

    日本近代の小説、詩、エッセイ、評論などを紹介します。不定期掲載。

最近の記事

清貧の書・屋根裏の椅子

林芙美子については、どうしても『放浪記』を読んだ印象から、人生の酸いも甘いもを見てきた生命力のたくましい女性というイメージが、自分のなかで強かった。 ところが、本書の冒頭におかれた「風琴と魚の町」をひもとくと、尾道の舞台にアコーディオン弾きであった父親の記憶が、その音楽や音とともに語られるので、自分が経験したことのないかつてそこにあった日本社会やその風景がほうふつとされてきて、陶酔させられるような没入感があった。 「ええーーご当地へ参りましたのは初めててござりますが、当商会

    • 私の東京地図

       欧米では、ここ20年ほど人新世や人類学の存在論的な転回ということがいわれて、脱人間中心主義的な視点から、モノや動物と人類の関係を考え直していこうという思想的な動向がつづいている。  佐多稲子の『私の東京地図』という本を読んでいると、「マルクス主義が」というよりは、戦前から戦後の時代において、日本列島でマルクス主義を受容した人びとのなかに、ある種の唯物主義的な志向があったと感じられ、そこに、ある種の脱人間中心主義的なものの見方があったのではないか、と思えてくる。  この連作

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      • 老妓抄

        記憶のかたち 以前、ちくま日本文学シリーズの『岡本かの子』を読んだことがあったが、今回は新潮文庫で『老妓抄』を読んだ。 表題作の主人公である小そのという老妓は、若い発明家かぶれの柚木という男のパトロンになる。そんな老妓と柚木、若い芸妓たちが初夏に荒川放水路の景色を見てまわる場面がある。むかしの鐘ヶ淵の名残が感じられ、名物のねむの木が少し残った風景を見て、その光景から過去の記憶が彷彿とされてくる。 向島の寮に囲われていた時分、若い頃の老妓は旦那の目を盗んで荒川の土手まできて、

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        • 冥途・旅順入城式

          内田百閒の短編集  内田百閒の文学は以前から読んでいたが、今回は岩波文庫の『冥土・旅順入城式』というふたつの単行本を収録した文庫を、主に民俗学的なエッセンスがいかに使われているかという観点から読み直してみた。 冥途  『冥途』のなかに、人偏に牛と書いて「件(くだん)」という掌編があるが、文字どおり「からだが牛で顔丈人間の浅ましい化物」に、語り手がなってしまう話である。見事であるのは、冒頭で空に月が浮かぶ風景を描き、とんぼが飛ぶ描写をしてから、広い原の真んなかで語り手は、

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