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Raspberry Waltz (30首)

短歌連作です。



 Raspberry Waltz   丸田洋渡



ボトルシップの船引きあげる銀色のピンセットは鋭利でありがたい

わたしはよく動揺する。よく想像する。海に浮かんで暮らす自分を。

コンソメスープが喉を滑って落ちていく体の中と体の外に

白菜に包丁と手と水がいる 私が必要になってくる

照明の足が布団を噛んでいる そういうのそういうの 親心

 ○

生活を急変させるのはいつもおもしろくない事柄 雪に傘

音楽と思えるときは良い調子 コンビニ前の十人を横切る

この一年を乗り越えたのは偉かった と 思わない年はなかった
 
旬が無いことが頼もしい スーパーの後に薬局へとはしごした

ブレーカーをつまみ上げるとこの家の体重が分かるような気がする

万年筆に蜜柑の匂い友だちは痴話喧嘩慣れしてきたらしい

スプーンを死ぬほど曲げて今と同じ魔法の力でスプーンを戻した

動きに合わせて床が軋んだ ぶちまけたラズベリーと両足とのワルツ

上手いこといったらつまらないもんな 上手いことできてる 感心する

右目から流れていって左目がますます濡れた 布団のおかげ

 ○

褒められると調子でないんだよなって そこが良いとこですって返した

絨毯と孔雀とピアノ 渋滞につかまった頭はトゥー・クリーン

スーパーが潰れたあとの田んぼにはしゃきっとレタス色のカマキリ

死ねと言わないのがせめてもの優しさ、なのかなあ  迷路めいた国道

縛られて光るんだから相当な変わり者だろう街路樹は

擬人化された花が訴えかけているポスター まるで人みたいだな

(止められるのは私だけ)あのちょっと その線は越えたらだめですよ

血相を変えて走ってきた犬に死ねと言われた 分かっています

生クリームみたいな雪のかたまりに体を舌にして飛び込んだ

玄関を一息ついて越えたあと目に入る座椅子 全開

うどんから立つ白い湯気そこはかとなく焼きそばの匂いをさせて

生きていることの報酬 生きていることの応酬 乾いた砥石

春がこぼれる 写真家だけが持っている勘が欲しくて写真家になる

手のひらは鳥の形を真似できる それだけが取り柄 この小さな手

苺の中にかすかにラズベリーがいる そういう生き方に憧れる



〈他過去作品〉

Eternity


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