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「進撃の巨人」担当編集者が語る| ロングセラーに不可欠な3つの視点

3月22日にオープンした「JENオンラインコミュニティ」。
エンタメ業界をはじめ、さまざまな業界・業種で活躍するキーパーソンが集うこの場でボードメンバーに登場いただく連続インタビュー企画。
今回は、来月完結となる「進撃の巨人」など数多くの人気漫画を担当する講談社「週刊少年マガジン」編集次長の川窪慎太郎さんに、編集者として大切にしている視点や想いについて伺います。

──川窪さんが長年にわたって担当してきた「進撃の巨人」が、4月9日発売の「別冊少年マガジン5月号」掲載話で、ついに完結しますね。

そうですね。入社一年目の2006年に諫山創さんと出会い、2009年の連載開始から担当編集者を務めてきました。最終話を目前に控えて、「感慨深いでしょうね」と言われますが、今のところはそういう気持ちもなく淡々としています。最終話に向けてのプロモーションやグッズ製作も数多く残っているので、「終わっちゃうのか…」という感傷に浸る余裕もなくて(笑)。もちろん、周囲の期待や注目はこれまで以上に感じています。講談社としても大々的に展開していて、売上も明らかに伸びていますし、「これを機に読み始めました」といった声も数多くいただいています。昨年12月からアニメ「進撃の巨人 The Final Season」の放送も始まり、最終話に向けての盛り上がりを日々実感しています。


──川窪さんが編集者として大事にしていることを教えてください。

「作家の視点」「自分=編集者の視点」「読者の視点」、この3つの視点を同時に持っておきたい。それが僕の理想です。プロットやネーム、作品の今後、プロモーションなど、さまざまなことに思いを巡らせる上で、3つの視点すべてが大きな役割を担います。作家の意向だけを実現するなら、僕ら編集者は必要ない。編集者がやりたいことを推し進めるのも筋が違う。読者の評価だけで判断するわけにもいかない。そのすべてを俯瞰できるのは編集者しかいません。全体の調整役みたいなイメージで、バランスを取ることを常に心掛けています。新人の頃は考えもしなかったですけどね(笑)。「進撃の巨人」が始まったときは諫山さんも僕も若かった。諫山さんは人生を賭けていましたし、僕も編集者人生を懸けて、もがき苦しんで。諫山さんと一緒に仕事をする中で、「大人になっても、こんなに変わるんだな」思うほどの明確な変化や成長があって、そのすべてが今につながっています


──この先、チャレンジしたいことはありますか?

もっと多くの人が小説を読むようになったらいいなと思っていて。漫画のいいところは、一人の世界に入れること。1対1で向き合って、自分の中に何かが蓄積されていく。例えば、セリフに影響を受けて、「生きるってなんだろう」「人に優しくするってなんだろう」と考えることで、その後の人生にいい影響を及ぼす。映画やアニメも同様ですが、そこには音があり、動きがある。知覚に訴える要素が少なくなればなるほど、人間は頭を使って考えるようになります。漫画には音や動きがなく、さらに小説には絵もない。それによって、無限の想像をどこまでも広げることができる。その想像力が人間の心を豊かにしてくれるし、いつの時代においても必要なことだと思います。と言ったものの、僕はすごく面倒くさがりで…自分の中の「想いの量」は、まだ半分も溜まっていない(笑)。もう少し溜めて、あふれ出るときを待ちたいと思います。

──FIREBUGには、どのようなイメージがありますか?

まずは面白いかどうか。そして、誰かがやってみようと思っていることを一緒にやってくれる。FIREBUG≒佐藤くん(FIREBUG代表)みたいなイメージがあって、「そろばん弾くのは最後でいい」という心意気を感じます。そこが付いて行きたくなるところですね。「HUNTER×HUNTER」という漫画の中に「大切なものはほしいものより先に来た」というセリフが出てきます。簡単に説明すると、狙っている金銀財宝を手に入れるためには案内役や助っ人が必要で、彼らと一緒に探しに行く中で、気がつけば当初の目的だった金銀財宝よりも本当に欲しかった仲間が先に手に入っていたと。いいセリフだなと思って。お金や結果よりも、人との出会いや一緒に何かをした経験の方が大事。だから、まずやってみようという姿勢は、結果的に正しいんじゃないかなと思っています。

──最後に、JENオンラインコミュニティに期待することをお聞かせください。

僕は佐藤くんの誘いに対しては、無条件降伏と決めています(笑)。遊びでも、仕事でも、佐藤くんが「やろう!」と言ったことの先には、絶対に面白いことしか待っていないですから。ボードメンバーに誘ってもらって二つ返事で引き受けましたが、僕自身は「この場で何かを実現したい!」という思いは現時点ではなくて。それよりも、このコミュニティに期待している人たち、つまり一緒にこの船に乗った人たちが、それぞれの思いを上手く実現できたらいいなと。僕はシステムや構造といった「外側」を作ることはできませんが、「中身」を考えることはできます。3話分の漫画を1年以上かけて作って、会議にかけて、没になる…そんなことは日常茶飯事。これまで長年にわたって、何千話にもおよぶ起承転結のある物語を作家と共に考えてきたわけですから。その経験を生かせる機会があれば、うれしいですね。


■PROFILE■
川窪慎太郎(かわくぼ しんたろう)
1982年生まれ。2006年に講談社に入社。
以来、「週刊少年マガジン」編集部に所属し、「進撃の巨人」や「五等分の花嫁」など、数多くの作品を担当。「進撃の巨人」ファンからは、担当編集者バックさんの愛称で親しまれている。
https://twitter.com/ShingekiKyojin

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Writer:龍輪剛


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