連載小説『ロックバンド・バラード』①

ロックバンドのツアーに参加した。
私が髪の長いその男に恋をしたのは、2ヶ月ほど前だった。マイクを手に、自分を表現する様は、私にとって天使だった。男だが、白いドレスが似合うほど、キュートな天使が私の目には映っていたのだ。
人は生まれた時から、透明人間だ。そんな役割を負っている。
『CUBE BEAR』と名付けられた彼のバンドは、混沌とした時代にねじ込まれたテディベア(良い言い方をすれば)なのだろう。と私は思う。
他のファンも、気付いているだろう。

爆発的なボーカル力はともかく、惹かれたのはそこじゃない。彼のバンドが醸し出す凄みだ。パープルな・雨色の・イカしたバンド【CUBE BEAR】!!
全くもって、届かなくていい。此の興奮は。だが、なんとも形容詞しがたい、言語化をこれほどまで畏怖した経験は無い。飲み込まれそうになるグルーヴと熱波に、私はついに失神した。

外見は、そうね。
ボブ・ディランほど格好良くはないが、地味というわけでも無い。そのバランスさがまた、ツボを突ついた。『ロックバンド・ブルース』というCUBE BEARの曲は、紛れもなく名曲だ。

彼の名は、TOMという。
事件に巻き込まれていくのは、長いこと私がこのバンドについて、語る中で独白しよう。

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