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普通の人々 愛国者学園物語39

 愛国者学園とそのコピーは、日本社会で増殖した。

 そして、それを支える日本人至上主義の盛り上がりを、国際社会は厳しい目で見ていた。日本が「再び」ファシズム国家になるのか。民主主義国家でありながら、過度の愛国心を振りかざし、国民皆兵を押し付ける危険な国に変身するのか。そんな愛国心がもしも爆発したら、世界はどうなるのだろうかと。

 しかしながら、世界で日本の過激化を心配していたのは、インテリや日本とビジネスをするビジネスパーソン、あるいは政治家だけではなく、普通の人々もたくさんいた。彼らは、アニメや漫画、それにラーメンなどの日本文化に偶然触れて、それらに関心を持ったことから日本を好きになった人々だった。

 その国籍も性別も人種も日本との関わりもバラバラで、共通項を見つけることが難しかった。

 日本のバイクが大好きなフランスの女性ニュースキャスター、ファニー・ジョフロワや、米国の情報機関である国家安全保障局(NSA)の副長官マイケル・ゴンザレス米空軍中将、インドの日本語研究者でテレビのコメンテーターとして有名なイルファーン・チャンドラセカール博士のような人々は、日本に長期滞在し日本語が流暢で日本文化に通じていた。


 その一方で、日本へ行ったことがない人々が、身近にある日本文化に触れることで日本に愛着を持つようになった。


 西アフリカ・モーリタニアの女性は、漁師をしている夫がヤマハ製エンジンを愛用していた。イランの小学生は、彼のおばあちゃんが楽しんでいた「おしん」は好きになれなかったが、「ドラえもん」を見て日本に行きたくなった。タイの女子高生は、道路を埋め尽くす無数のトヨタ製タクシーから、日本の存在を感じた。


 そういう普通の人々の関心が高じて、日本社会の過激化や過度の宗教賛美を考えるようになっていた。どうして平和な日本が、21世紀の繁栄を謳歌する日本が、日本古来の宗教である神道を絶対視するようになったのか。それはまるで日本が第二次世界大戦当時にしていたように、神道を国家の宗教として国家神道として崇めているのと同じではないのか。21世紀の日本は宗教国家になるのだろうか。そして、なぜ今になって日本は過度の愛国心を賛美するのか。それは平成の次の時代に、日本が徴兵制度を復活させたからなのか。普通の人々は自分の国のことを思うように、日本のことを考えていた。


 それになぜ愛国者学園の子どもたちは、皇室に対しあのような激しい情熱を持つに至ったのか。世界には多くの王がいて、彼らは国民から愛されていることが多い。だから、その王が死ねば国民は悲しむだろう。しかし天皇家のおひとりが亡くなったとはいえ、マスコミが伝えたように、愛国者学園の子どもたちはどうしてあのように泣き叫ぶのだろうか。


 彼ら日本好きの、日本への愛情は強力なパワーになった。後年、世界各地で日本の過激化に反対するデモやイベントが数多く開催された。だが、それに参加した人々の大半は政治活動家でも、反日分子でもなく、ごく普通の日本好きたちだった。

 彼らはイベントでも冷静さを保って日本への思いを語っていたことは、日本の現状に激昂するインテリや政治家たちと、まさしく対照的であった。彼らは組織化されておらず、リーダーもおらず、ただ日本が好きという理由だけで、ファシズム国家になろうとしている日本にノーを突きつけた。

 彼らはファシズムに反対し、ネットに彼らの言葉で、日本を愛し、日本社会の過激化を心配するコメントを書き込んだ。そして、逆に、日本に対して攻撃的な行動に出ようとする者たちに対し、反対の意を示すか、あるいは強い言葉で懲らしめた。

 なぜなら国際社会には、愛国心を過度に主張し過激化した日本に対し軍事攻撃をすべきだ、21世紀の世界で脅威になった日本を破壊しようという動きもあったからだ。それも少なくない数の国とその国民たちがそういうことを思案していたことは、各国のマスコミが暴いたとおりである。


 しかし、普通の人々はそのような行動をよしとせず、彼らなりの静かな方法で抗議し、その無数の愛情が、結果として、各国の圧力と、攻撃的な日本人至上主義者の脅威を減らした。彼らは、日本が危険な方角へ進もうとしている最中に、それを正してくれた存在、という意味で、日本は良き友人に恵まれたというべきだろう。


 そして最終的に、そのような普通の人々が、激しい感情の高まりを見せる日本人至上主義者に勝ったことは特筆に値する事実であった。彼ら普通の人々の、日本や日本人を思う気持ちが、過激で排他的な感情を包み込んだのだ。しかしながら、普通の人々が勝利を手にするまでには、多くの犠牲者も出た。次はそれを語ろう。いくつかの辛い事件があったが、その一つはあの有名なフランス人女性の話だ。


続く 


大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。