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ファニーと怒れる日本人たち 愛国者学園物語 第203話

 

 ファニーの本を読んで日本人至上主義者は激怒した

。それは、彼らが大切にしている日本の文化や伝統をファニーが批判したからである。


 

 ファニーは日本社会の男尊女卑や家父長制に触れ、それがもとで日本社会では女性の地位が低いと断言した

。しかも、国民が選挙に行かないせいか投票率も低いので、社会を変えようとする動きはなかなか実を結ばない。日本社会では、年長者の意見や、多数決で選ばれた意見に無条件に従うことが多く、それが間違った意思決定を助長していると、彼女は書いた。

 また、日本の政治は70歳、80歳の高齢男性が仕切っており、国会議員では50歳でも若い人間だと言われることもあると紹介した。それゆえ、女性の議員の数は少なく、先進国で最低レベル、国会議員で大臣の職か政党の幹部職を経験した女性議員は数えられるくらいしかいないことも付け加えた。



 ファニーは、これらの理由からか、

ジェンダー・ギャップ指数


では、日本の地位は先進国の中でも最下位であり、全体においても下から数えた方が早いほどの低評価である。日本は男女平等の国ではなく、女性の地位はひどく低く、発展途上国と比較しても最下位レベルであることは事実である」

と付け加えた。


 そして、ファニーが日本でフランス語のテレビ講座のアシスタントや、レポーターとしての活動をしていた時に、様々なセクハラやパワハラにあったと、その実例をいくつも挙げて、日本人男性を非難した。さらに、そのような社会を変えようとしない「従順な」日本人女性の言動に疑問を投げつけた。

 日本ではセクハラの被害者は泣き寝入りすることが多い。それは日本の男性中心社会には女性を大切にする意識がほとんどないからである。女性は男性のアシスタントであり、上司である男性に従順な女性が良い女性とされる。日本人女性は社会の主役にはなれないのだ」


と厳しく指摘した。


 ファニーはこれらに加えて、

学生の制服

を批判した。それを着ることを学校側から強制されていること。しかも、いくつかの学校では、校則で女子学生の下着の色まで決められており、校則に違反した下着を着用していないか、チェックする作業は男性教員も行っていると伝えられていることも書き、自説を述べた。


私は日本の男性教育者は変態であると思う

。それは、未成年の女子学生に、制服として、下着が見えそうなほど短いスカートを履くことを強制・あるいは許容しているからだ。これは慎みがなく、淫らであり、それを未成年の女性に強要する教育者たちの精神がまともなのか、私は疑っている。これもまた、日本社会が未成年の少女を性的に消費する社会であることの、一例に過ぎない」


 彼女の次の話題は、日本人至上主義者たちについてであり、それが本全体の3分の1を占めていた。後にその部分を読んだ読者から、
「日本人至上主義者への恨みがあるのか」
と言われたほど内容は詳しく、それを厳しく批判していたのだ。そういう彼女だから、明治時代の大日本帝国を懐かしみ、それを21世紀に再現しようとする彼らの

21世紀新明治計画

「狂気の沙汰である」
と書き、日本人至上主義を子供に叩き込む教育をする愛国者学園やそれに類似した学校を評して、
「ナチスドイツの少年学校のようだ」

と結論した。

 

このようなファニーの日本批判に対し、日本人至上主義者たちの動きは素早かった。

ファニーの本が出版される前から、その内容を嗅ぎつけた彼らは、あっという間に団結した。そして、ファニーのことを激しく非難し始めた。ファニーを恥ずかしい人間だ、と言うぐらいならまだ冷静なほうで、恩知らずだとか、フランスのスパイだと批判した者はSNSで膨大な数の「いいね」を獲得した。

彼女を恩知らずだと主張した、ある女性作家は、

「ああいう外国人には、日本の義理や人情が理解出来ない」

と書いて、大いに賞賛された。
「義理は親兄弟との絆より大切だ」
と言ったのは某人間国宝であり、彼の言葉は多くのテレビ番組や新聞で紹介されて、時の総理大臣・野上は彼を称賛した。


それぐらいなら、まだ穏やかなコメントであった。日本人至上主義者御用達のネット番組「愛国砲弾」の常連で、作家の赤城智彦(あかぎ・ともひこ)はファニーを評して、

ああいう外国人はスパイだ

。笑顔で我々を騙し、こちらの親切につけこんで、日本社会を破壊するのだ。(中略)私はあの女が日本で人気者になった時から、怪しいとにらんでいたんだ。日本人の純粋さにつけ込むような活動をしていたじゃないか。外国人に騙されちゃいけない。奴らは日本を破壊する反日勢力だ。私たち日本人至上主義者こそが、偉大な祖国日本の守り手なのだ」

と言って、外国人に騙されるなという自説をあちこちで披露し、喝采(かっさい)を受けたのであった。

 彼らほど怒り狂っていなくても、ファニーが日本で活動していた時に彼女のファンになった多くの人々は深く悲しんだ。そして彼らは、彼女の心の内を察することなく、辛辣(しんらつ)なことを言うようになった。

「ああいうことを言う人間だとは知らなかった」
「ひどい人」
「裏切り者。フランス人なんか大っ嫌い」
などというコメントが、日本社会だけでなく、ネットを通して世界を飛び交った。


「なにが親日家の彼女を、日本に憎しみを持つ人間に変えたのか」
「彼女の本に書かれた日本の実情は、国際社会から見て変なのではないか」「ファニーの批判は厳しいが、その指摘は間違っていないのではないか」

このように、ファニーがもたらした問題を冷静に考える人々は、日本には少なかった。三橋美鈴が働くホライズン・メディアと外国のメディア、それに日本の左派系メディアや一部研究者が、その数少ない勢力であった。



つづく
これは小説です。

ジェンダー・ギャップ指数と下着チェックの話は実話です。
21世紀新明治計画はこれを。



次回第204話「日の丸の子」。ファニーの日本批判の本は日本社会に衝撃を与えました。そして「あの子」が行動を開始します。さて、その行動とは? 次回もお楽しみに!


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