30歳を前に

人はそれぞれのライフ、とくるりは歌っている。

最近のわたしは、30歳(みそじ)になるという事実にあまりにも打ちのめされすぎている。

歳をとる、というのはまったくネガティブなことではない。
むしろ、わたしは早く人生経験を重ねて、50過ぎくらいになりたいとすら思っている。

50過ぎくらい、というのは現在の母の年齢で、母はこのくらいに2人の子供をほとんど1人で独り立ちさせ、ようやく久しぶりに自分の人生を謳歌し始めた。
若い頃は悩みまくっていたけど、いまは悩みはほとんどない、人生が楽しい、これらははったりかもしれないけどよく口にしていて、そういう風になりたいから、安直に50歳くらい、と思っている。

最近いろんな人と会って、いろんな話をしたら、いくつか気づきがあった。
わたしたちが話していることは大体、“転職したい”、“引っ越したい”、“脱毛したい”の3点セットなのだけど、とある人が言った、“人生において、何を大切にするか”だという話が、なんだかすごく心に残っている。

いまのわたしは一言で言うと、働きすぎだ。
働きすぎて、疲れ果てて、日々を消耗している。
振り返ると、大学の頃は課題に追われて徹夜も当たり前だったし、新卒で入った会社は残業代多いのに残業代もボーナスも出ないまあまあなブラック企業で、転職した会社は残業も休日出勤エグいブラック企業。特に20代後半は、仕事しかしていなかったような気もする。
コロナ禍でリモートワークが可能となり、休みの日はゆっくりと働いているし、社内SNSによって常に職場と繋がっていることで、心が休まる完全な休みが1日もなくなってしまった。

“何を大切にするか”じゃない?とヒントをくれたのは、同じ職場の先輩だった。
わたしの最近の願いは、“心穏やかに過ごすこと”なので、もしかしたらいまの職場にいるのは間違いなのかもしれない。

振り返りは無意味だと分かっているけど。
30歳になる前に、人生を少しだけ清算したくなった。
それは、放置してきたが故にもう解決することのない、家族との確執だったり。
病気で亡くなった大好きだった祖父が、まだ夢に出てきて涙で枕がびしょ濡れになることや、これから家族の形がまた一つ変わろうとしていること。
強烈に脳裏に焼きついている父親からの暴力や暴言、某事務所の問題が報道されるたび思い出す、学生の頃に身の回りに起きた痴漢や盗撮。
出会って、付き合って、そしてもう会うことのない別れた人たちのこと。
人に言うまでもない“生きたくない理由”が100個以上あって、それらが些細なきっかけで顔を出して苦しめてくること。

それらすべてを関係ないとすべて振り払いたい、という至って前向きな気持ちこそあるものの、どこかに痞えるきっかけが潜んでいる。
それと同時に、何でもないようでしっかり日々を重ねてきたんじゃん、とも思う。

30代はしんどかった、と言う人と、楽しかった、と言う人がいる。どちらにせよ、20代があっという間だったので、きっと30代もあっという間なのだろう。

周りとの差が如実に出てくる20代後半から30代。
歳をとると説得力が出てくる、と上司に言われたから、それはいいなぁと思っている。

昔から知っている男友達と久しぶりに会ったら、サラッと自分はセクシュアルマイノリティだと告げられた。
家族にも言っていないという真実を、「なんか自然と言えちゃった」と笑顔で話してくれたことに喜びすら感じつつ、でもやっぱり多少なりともびっくりはした。
母に最近彼と遊んでいると話したら、何も知らない母は「この人どうなの?」と度々聞いてくるし、実はわたしも付き合うならこういう人がいいな、と思っていた人だったけど。
なんなら最近わたしもマイノリティなのかも、と思い始めてたりして、なんだか遠い未来で答え合わせができたような。

「人を好きになることが、どういうことか分からない」と、ともに悩み、そして時に決して良くはない関係を持ったこともあった友人が、絵に描いたようなプロポーズを受けて婚約した。
「初めて女の子の親友ができて嬉しかった」と手紙をくれた男友達は、ドラマ「いちばんすきな花」のゆくえと赤田のやり取りを見てから遊びに誘いづらくなった。
中学の頃から一緒にアイドルを追いかけ、「晩婚だと思う」と言っていた親友は、すでに一児の母だ。
同級生の中には、二児の母がいたり、ペットを迎えていたり、家を買っていたり、車を買っていたりする人もいる。

こういう人生の変化が身近な人に訪れるたび、脳内にはくるりの「JUBILEE」が必ず流れる。
この曲では、失われたものの行先、そして歓びについても歌われている。だから、周りとどうしても比べてしまい、立ち止まったときにハッとさせられる。

大なり小なりの変化がありながら、人はそれぞれのライフを生きている。
何も知らずに飛び込んで、なんとかなっていた昔に戻りたいとは思わない。
そして、これからも戻らずに、この曲とともに進み続けるだろう。


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