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TCG・DCG

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トレーディングカードゲーム・デジタルカードゲームに関する記事
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記事一覧

Magic: The Gatheringのリミテッドが初心者に向いていない理由

Magic: The Gatheringの初心者に対して、ブースタードラフトやシールドなどのリミテッドフォーマットを勧めるべきという主張をたまに目にします。 筆者はこの主張にはまったく賛成しておらず、リミテッドは初心者には不向きなフォーマットだと考えているのですが、その理由を掘り下げてみると「ゲームの『初心者向け』とは何か?」というより広いテーマに関するヒントが得られたため、ひとまず考えたことをメモしておきます。 リミテッドが初心者に向いていない理由・選択が多すぎる ・選

彩色キューブ・ドラフト攻略メモ

最近『MTG Arena』でドラフトをよくやっています。 同じ環境をやり込むより様々な環境でプレイするのが好きなので週替わりの環境でよく遊んでいるのですが、彩色キューブ (Chromatic Cube) ドラフトは攻略記事があまり多くなく、通常環境のやり始めに頼りにしている17Landsも未対応っぽいので、自分の印象をメモしておきます。 彩色キューブって何?強力なカードと多色土地だらけの独自カードセットでドラフトするカジュアルフォーマット。年に1回(?)開催され、今年は6

Magic: The Gatheringの「禁止」についてのメモ

『Magic: The Gathering』のスタンダードで、新たに3枚のカードが禁止されました。 今回の禁止やWizards of the Coast開発部メンバーのQ&Aを見ると、前回の自分の記事は、Wizards of the Coastの方針をおおむね言い当てられているため、スタンダードの運営方針について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。 さて、そんなわけで今回は予想範囲内の禁止でしたが、SNS上では様々な意見があったようです。前回の記事は少し長いので、

M:tGのローテーション期間が3年になった件の解説と感想

『Magic: The Gathering』のスタンダードのローテーション期間が2年から3年に変更されるそうです。 ローテーション期間の変更は過去に何回か行われたことがありますが、カードセットが使える期間は1年半から2年程度で、スタンダードの範囲が2年を越えたのは28年の歴史で初めてです。 多くのTCGが『Magic: The Gathering』のスタンダードを参考にしたローテーション制度を採用しており、今回の変更はTCG全体で見ても大規模な変更となるため、背景の解説と感

デッキの「多様性」ってどういうこと? - 環境を多様に見せる手法を考える

TCGのゲームバランスにおいて重視される要素に「多様性」があります。 「デッキが多様であることは望ましい」という見解を、多くのタイトルが公表しています。「デッキが多様である」とは、様々なアーキタイプ(デッキタイプ)が試合で活躍できる状態を指しています。この状態が望ましいことは、多くの人が同意するのではないかと思います。 ここで思考実験をしてみます。例えば『Magic: The Gathering』に以下のようなカードがあるとしましょう。 平たく言えば「引けば勝つ」カード

Magic Spellslingersの特徴まとめ・雑感

『Magic: The Gathering』のスピンオフDCG、『Magic Spellslingers』がひっそりとリリースされていました。 20時間ほどプレイしたので特徴と所感をメモしてみます(8月21日追記あり)。 ルールの概要ベースは『Hearthstone』です。とは言え、Hearthstone系のDCGの中では特徴的な箇所が多いので、主な違いを列挙していきます。 ・戦闘は防御側主導 『Hearthstone』は攻撃側のユニットが自由に攻撃対象を選べるが、『M

Magic: The Gatheringのハウスルール「マネドラ」を紹介します

Magic: The Gatheringには様々なハウスルール(ローカルルール)があります。後に「統率者戦」になるElder Dragon Highlander(EDH)に代表されるように、ハウスルールは勝敗よりも、仲間内で楽しく遊ぶことを重視するものが多いですが、勝敗を競うことを重視するルールもあります。 そのうちの1つがチーム・ドラフトの一種「マネドラ」です。マネドラは20年以上の歴史を持つハウスルールで、一部の競技志向のプレイヤーから熱烈に支持されていますが、インター

TCGのニッチな戦略が許されない理由

TCGのゲームバランスについて、デッキや戦略の多様性・自由度の観点から、ニッチな戦略が許容される環境にしてほしいとの主張がされることがあります。 特定のタイトル・環境に関する話ではなく、あくまで一般的・抽象的な話ですが、ゲームデザイナーの意図したバランスが実現されたとき、ニッチな戦略は最高でも「対策されると弱いが、対策されなかったり、対戦相手との相性によっては強い」程度の強さにしかならない傾向があります。 なぜなら、そのタイトルにおいてメインとなるやり取り(例えば、場を介

カードテキスト長すぎ問題

まず、この2つの文章を読んでみてください。 望む数の、クリーチャーやプレインズウォーカーやプレイヤーを対象とし、4点分をあなたの望むように割り振る。パーマネント2つを対象とする。マグマ・オパスはその前者群にその割り振ったダメージを与える。その後者群をタップする。青赤の4/4のエレメンタル・クリーチャー・トークン1体を生成する。カード2枚を引く。 (青/赤)(青/赤), マグマ・オパスを捨てる:宝物・トークン1つを生成する。 マグマ・オパス https://mtg-jp.c

ゲームバランスとは何か? - TCGにおける3つのバランス調整目的

ゲームバランスは、対人ゲームにおいて「バランスがとれている」「バランス崩壊」など話題になりやすいテーマです。しかし、何をもって「バランスが良い・悪い」とするのか、明確な定義はありません。 この記事では、トレーディングカードゲーム(TCG)のバランスがゲーム体験にどのような影響を与えるか掘り下げることで、対人ゲームにおける「良いバランス」の正体に迫ります。 バランスを均一にする目的って何?TCG・DCGはゲームバランスが話題になりやすいジャンルだ。ここで言う「ゲームバランス

TCGの未来 - AIとビッグデータはゲームデザインをどう変えるか

トレーディングカードゲーム(TCG)のデジタル化は、ゲームデザインに大きな影響を与えています。この影響は今後さらに大きくなり、デジタルゲーム全般と連動した変化につながる可能性があります。 この記事では、AIなどの技術がTCGのデザインに与える影響を分析し、TCGの未来像を予測します。 TCGのデジタル革命は始まったばかりこれまで筆者のnoteでは、TCGのデジタル化がゲームデザインに与えた影響を論じてきた。 これらはデジタル化によって起こり得る変化のうち、ごく一部に過ぎ

デジタルカードゲーム時代にデッキ構築を面白くする手法を考える

デッキ構築はTCGの中心的な要素でしたが、インターネットやSNSの普及、TCGのデジタル化によって存在感が薄れつつあります。 この記事では現代のデッキ構築が置かれている問題と、DCG開発会社が試みた対処法を分析し、新しい対処法を提案します。 対人ゲーム3要素の1つ「研究」前回の記事では対人ゲームの3要素のうち「技術」と「意思決定」を取り上げた。 今回は「研究」、その中でもTCGの象徴である「デッキ構築」について掘り下げたい。 元来TCGはデッキ構築の「研究」と試合での

Magic: The Gathering vs Hearthstone ゲームデザインに潜む2つのゲーム観

TCG・DCGの世界にはMagic: The Gatheringを始祖とするギャンブラー的ゲーム観と、Hearthstoneを始祖とするアスリート的ゲーム観があり、両者の違いはゲームデザインのあらゆる部分に影響を与えています。 興味深いことに、この違いはTCG・DCGのプレイヤーやデザイナーの間でも十分に言語化されておらず、整合性のない設計によってプレイヤー体験が悪化する事例が見られます。 この記事では2つのゲーム観を比較し、実際のカードデザイン事例と照らし合わせることで

TCGとDCG - カードゲームのデジタル化によるプレイ体験とゲームデザインへの影響

デジタルカードゲーム(DCG)はトレーディングカードゲーム(TCG)をデジタル化したゲームジャンルですが、紙のカードがプレイヤーに与える印象とデジタル化されたカードがプレイヤーに与える印象は、何となく違います。 この記事では、デジタル化による「何となくの違い」を掘り下げるとともに、成功したDCGがこの違いに対応しゲームデザインを変化させていることを解説します。 現金と電子マネーの違い紙のカードとデジタル化されたカードの違いを考えるとき、参考になるのがクレジットカードや電子