eスポーツの大会構造を分類・解説します

競技大会が開催されているゲーム(いわゆるeスポーツタイトル)は数多くありますが、各タイトルにどのような大会があり、複数の大会がどのように組み合わさっているかはまちまちです。

この記事では、eスポーツタイトルの大会構造を分類し、それぞれの特徴や課題、近年のトレンドについて解説します。

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オープン大会型

誰でも参加できる大会を繰り返す形式で、多くのタイトルがこの形式から競技シーンをスタートさせる。

大規模なものは、決勝大会や国際大会など招待制の大会がセットになっていることが多く、プロリーグができる前のShadowverseモンスターストライク、ワールドツアー以前のTEKKENが該当する。
また、大乱闘スマッシュブラザーズなど、公式の大会制度が未整備のタイトルも必然的に当てはまる。

参加のハードルが低いことが特徴で、一つの大会に勝つだけで「チャンピオン」になれる。オープン大会型は「参加させるための形式」と言えるだろう。

反面、プレイヤーが長期的な見通しを立てづらいので、競技シーンの発展には継続的な開催や、スケジュールの公表などが必要だ。

サーキット型

競技シーンが発展すると、大会の数が増え、複数の大会で安定した成績を残す選手を評価すべきという声が高まる。
このとき、各大会にポイントを割り振り、一定期間に獲得したポイントの合計でランク付けを行うのがサーキット型だ。

ポイント上位者のみを招待した大会が行われることがほとんどで、「決勝大会」として最高額の賞金が支払われる。選手の収入を安定させるため、ポイント上位者に賞金が支払われたり、シード権などの優遇措置がとられることもある。

Street FighterTEKKENFortniteFIFAなどの個人タイトルで採用されることが多く、2018年までHearthstone、Magic: The Gatheringでも採用されていた。また、Dota 2もこの形式だ。

この形式には多くの大会が必要なため、パブリッシャー以外の第三者が主催する大会にライセンスを付与し、ポイント対象大会とすることが多い。格闘ゲーム、TCG、FPSなど、非公式大会が盛んなジャンルに向いた形式だろう。
ゲーム内に競技モードを実装して、公式オンライン大会を行うことでも実現できる。

大会の出場者が有名選手であることは、プロモーションの面で都合が良い。
また、実績のある選手を競技面、資金面で程よく優遇することによって継続的な参加を促すことができる。

リアルスポーツでは、テニスや米国のプロゴルフがこの形式である。

統一リーグ型

オープン大会型やサーキット型と異なり、一般プレイヤーには参加できない1つの「プロリーグ」内で、頻繁に試合を行うのが統一リーグ型だ。

OverwatchCall of DutyNBA 2Kなどのチームゲームが採用している。
これらのリーグはどれもフランチャイズ制であり、チームとして参加するにはリーグ運営の許可が必要である(試合の結果による入れ替わりがない)。

プロシーンの形成には、

・興行としての試合の面白さ
・試合の頻度
・ファンの獲得
・プロの経済的な利益

が必要で、
これらは、出場選手の顔ぶれが固定されている方が達成しやすい。

サーキット型は有名選手を適度に優遇することで目標を達成しようとしていたが、統一リーグ型は「参加の容易さ」を切り捨て、「興行性」に特化した形式と言える。
大会構造の設計において、参加選手・チームをどの程度制限するかは重要な要素だが、この形式には選手・チームを厳しく絞り込む意図がある。

アマチュアとプロの断絶が発生しやすく、アマチュア競技シーンの衰退が問題になることが欠点だ。そのため、アマチュア用の大会構造を別途設けているケースが多い。

リアルスポーツでは、野球やバスケットボールがこの形式になっている。
(野球やバスケットボールにリーグは複数あるが、リーグ間の試合は行われない)

地域リーグ型

同一国や同一地域のリーグ内で頻繁に試合を行い、地域リーグの上位が代表者として国際大会に招待されるのが、地域リーグ型だ。

League of LegendsSMITEPUBGRainbow Six SiegeRocket Leagueなど多くのチームゲームがこの形式を採用している。また、Clash Royaleは2017年まで個人戦のオープン大会型だったが、2018年よりチーム戦の地域リーグ型になった。

統一リーグ型は全てフランチャイズ制だったが、地域リーグ型では下部リーグとの入れ替え戦が行われるタイトルや、入れ替え戦出場をかけた予選大会が行われるタイトルがある。

入れ替え戦の利点は、アマチュア競技シーンとプロシーンの接続だ。入れ替え戦があるタイトルはプロに繋がるアマチュア大会を継続的に行っている。代償として、プロチームは降格のリスクに晒され、反発するチームも多い。League of Legendsは入れ替え戦を廃止して、フランチャイズ制に移行した。

プロリーグを、興行性に特化するため一般プレイヤーを締め出す仕組みとするなら、入れ替え戦は締め出しを緩める抜け穴と言える。

地域リーグ型は多くのタイトルが採用しており、興行としてのクオリティは高くなりやすい(特に国際大会は盛り上がる)。
しかし、複数の地域に独立したプロリーグを作る必要があるため、非常にコストがかかるし、拡大にも時間がかかる。展開する地域を絞っているタイトルが多いのもそのためである。

リアルスポーツでは、サッカーがこの形式である。

大会・リーグ混在型

オープン大会とプロリーグが混在しているタイトルもある。

プロリーグができてからのShadowverseモンスターストライクと、2019年からのHearthstoneMagic: The Gatheringだ。

統一リーグ型に併設されているアマチュア用の大会は、あくまで補助的なものでアマチュアしか参加しないが、これらのタイトルのオープン大会にはプロ・アマ問わず出場し、オープン大会とプロリーグの主従関係も不明瞭である。

この形式のタイトルはどれも、元々オープン大会型、あるいはサーキット型だったが、後からプロリーグが追加され、今の形式になっている。
そのため、オープン大会とプロリーグの棲み分けがはっきりしないケースが多い。

大会・リーグ混在型の課題

ここでは特に、今年から制度を大規模に変更したHearthstoneMagic: The Gatheringに注目したい。
まず気になるのは、ほかのタイトルのプロリーグがチーム戦であるのに対し、Hearthstone、Magic: The Gatheringのプロリーグは個人戦である点だ。

前述のとおり、リーグは出場選手を限定する仕組みである。
ただし、リーグに参加するのがチームであれば、チームが選手の入れ替えを行うので、新陳代謝は維持される。
言い方を変えれば、試合の結果で出場選手を決めるのではなく、選出をチームに任せることによって、適度な新陳代謝と保護が提供される。

一方、リーグに出場するのが個人の場合、参加者主動による新陳代謝は行われない。そのため、試合の結果による入れ替えシステムを設定しないと、実力やモチベーションの低い選手が滞留することになる。

しかし、元来リーグは参加者を限定して既存の参加者を保護する仕組みなので、入れ替えシステムを強力にしすぎるとリーグにした意味がなくなってしまう。
リーグの腐敗防止と、リーグの目的達成が対立するのだ。

また、選手の負担も大きな問題だ。週1回などの頻繁な試合は、参加者にとって大きな負担で、事務作業や各種サポート、コーチ、代替メンバーなどを提供するチーム組織の存在は、負担が選手個人に集中することを防ぎ、継続性の向上に大きな効果がある。

特に、移動と出入国の問題は深刻で、入れ替え戦のあるプロリーグが地域リーグ型のタイトルにしか見られないのは、頻繁な国際試合に耐えるため、一定以上のチーム運営能力が必要という事情があると思われる。

Hearthstone、Magic: The Gatheringは個人戦なので、頻繁な国際試合は現実的ではない。そのため、代替策としてオンラインによる試合が行われているが、筆者はオンライン化は興行としてのクオリティを大きく損なっていると考えている。

最後に、従来制度からの落差についても触れておきたい。

サーキット型から大会・リーグ混在型になると、プロリーグに加入した選手は経済面、競技面で有利になるが、それは選手全体のうちごく少数であり、リーグ入りできなかった大多数の選手は不利益を被ることになる。

繰り返しになるが、リーグは出場選手を限定する仕組みである。
サーキット型の大会から大会・リーグ混在型への移行は、非プロ選手の競技環境を厳しくし、盛んだったアマチュア競技シーンを衰退させるリスクがある。

以上のことを鑑みると、大会・リーグを混在させたときに、どこを棲み分け、どこを接続するか(リーグ側の選手を大会側でどのくらい優遇するか、大会の勝者をどうリーグに組み込むか、など)は繊細なかじ取りが求められるだろう。

いずれにしても大会・リーグ混在型を採用しているタイトルは、どれも制度の歴史が浅い。
あくまで過渡的、あるいは誤った制度として短期間で消えるのか、新たな形式となるかは今後の推移を見守りたい。

まとめ・近年のトレンド

以上をまとめると、大会構造には大きく分けて

・オープン大会型
・サーキット型
・統一リーグ型
・地域リーグ型
・大会・リーグ混在型

の5つがあり、「オープン大会型」「サーキット型」は個人戦で、「統一リーグ型」「地域リーグ型」はチーム戦で採用されることが多い。

サーキット型には多くの大会が必要で、非公式大会が盛んなジャンルや、ゲーム内での競技モードが整備されているゲームに向いている。

「統一リーグ型」「地域リーグ型」には興行性を高めるために出場選手を絞り込む意図があり、アマチュア競技シーンとの接続が課題になる。
そのため、入れ替え戦のないタイトルは、アマチュア用の大会構造を別途設けていることがある。

「大会・リーグ混在型」は、オープン大会型、サーキット型が後からリーグを追加した結果生まれるもので、オープン大会部分とリーグ部分の関係に注意を払う必要がある。

近年の傾向として、フランチャイズ制への移行や、大会・リーグ混在型への移行が見られる。より興行性が重視されるようになり、競技への「参加」から「視聴」の流れが強まっていると言えるだろう。

筆者は、「参加」と「視聴」の適切なバランスは、ジャンルによって異なると考えている。特にTCG・DCGや格闘ゲームは、伝統的に「参加」が重視されており、「視聴」への傾倒には既存の文化と衝突する危険がある。

このまま「視聴」への流れが続くのか、Fortniteのように「参加」を重視したタイトルが増えていくのか、今後とも注視していきたい。

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