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上級ハムを目指す人へ

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第2級アマチュア無線技士(2アマ)の無線工学の基礎問題を、高校物理と高校数学の範囲で解いてみる試みです。
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上級ハムの試験問題を理解する試み

上級ハムの試験問題を理解する試み

 先日、こんなことを呟いたところ、意外と反響がありました。

高校数学や高校物理をただ受験のためだけに使うのはもったいないので、試しに平成31(2019)年4月期の問題を解いてみることにします。

この問題は、電気量と電流の関係を理解しているかどうか、そして、オームの法則について正しい知識を持っているかを問いています。

 まず、電流というのはその名前の通り電気の流れで、ある断面を1秒間に通過する

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上級ハムの試験問題を理解する試み(補足)

令和元年8月期の問題です。

この問題を解くにあたって、交流電流、電圧のベクトル表示について説明します。交流は時間とともに電流や電圧が変化するので、時間の要素をどう扱うかについて、ちょっとした図形的なトリックを使います。

まず、電流や電圧が振幅と等しい円を用意します。x軸から反時計回りにθをなす、半径I₀の円周上の点(矢印の先端=ベクトル)はI=I₀ sinθと書くことができます。ここで、θ=2

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上級ハムの試験問題を理解する試み(2)

上級ハムの試験問題を理解する試み(2)

続いて、平成30(2018)年8月期の問題A-3を解いてみましょう。

物理学で重要な考え方に、保存量があります。ある条件のもとでは、つねに一定の値をとる量を保存量と言い、質量、運動量、エネルギー、電気量がその代表的な例です。電気回路の閉回路(一周してもとに戻ってくる回路)を考えると、エネルギーと電気量が保存されます。つまり、電気量が変わらないので、閉回路に流れる電流(断面を通る単位時間あたりの電

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上級ハムの試験問題を理解する試み(3)

上級ハムの試験問題を理解する試み(3)

平成31(2019)年4月期のA-3を解いてみましょう。

まずはスイッチsが開いている場合を考えます。閉回路を流れる電流はどこでも等しいので、これをIとおくと、キルヒホッフの第2法則よりV=IR1+IR2が成り立ちます。ab間の電圧はIR2ですから、Iを消去すると VR2/(R1+R2)が得られます。このような回路を分圧回路と呼びます。問題文によってR1=R2=40[kΩ]であることが分かってい

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上級ハムの試験問題を理解する試み(4)

上級ハムの試験問題を理解する試み(4)

令和元(2019)年8月期の問題を解いてみましょう。(これまで書くのを忘れていましたが、いまのところはすべて2アマの問題です)。

直流ブリッジ回路の一般の場合(平衡していない場合)を扱うの大変ですが、平衡している場合は簡単に求められます。RA, RB, RC, RXの4つの抵抗と、Rの抵抗の働きを分けて考えます。平衡とは、Rに電流が流れない状態のことを言い、Rのところには実際には検流計などのよう

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上級ハムの試験問題を理解する試み(5)

上級ハムの試験問題を理解する試み(5)

令和元(2019)年8月期の問題です。

静電気に関するクーロンの法則は、重力における万有引力の法則と似ています。2つの電荷の距離の2乗に反比例し、それぞれの電荷が持つ電気量の積に比例した力が働きます。重力のときは負の質量というものがありませんので、つねに引力となりますが、静電気力の場合には同符号では斥力(反発)、異符号では引力(吸引)となるのが特徴です。これは、問題を解くというより、基本的な性質

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上級ハムの試験問題を理解する試み(6)

上級ハムの試験問題を理解する試み(6)

私が2アマの試験を受けた頃(もう40年近く前)は記述式でした。その後、現在のような選択式に変わりますが、おそらく一番の変化は電磁気学の基礎を問う問題が出題されるようになったことでしょう。2アマの無線工学の難易度が高校物理程度に合わせてあることが、より明確になったと感じます。

では、令和元(2019)年4月期の問題を解いてみましょう

この問題は、平行板コンデンサの公式を知っていればただの計算問題

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上級ハムの試験問題を理解する試み(7)

上級ハムの試験問題を理解する試み(7)

平成30(2018)年8月期の問題です。

この問題も公式を覚えて代入するだけなら簡単なのですが、公式がどうやって出てくるかを理解する方がより大事です。コンデンサに電荷を蓄えるためには、次のような回路が必要です。

コンデンサ両端の電圧をV(t)とすると

Q(t)=C V(t)。

ただし、Q(t)はコンデンサに蓄えられている電荷であり、

Q(t)=∫I(t)dt

となります。ここで、I(t

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上級ハムの試験問題を理解する試み(8)

上級ハムの試験問題を理解する試み(8)

平成30(2018)年12月期の問題です。

この問題は、コンデンサに蓄えられる電荷Q, 静電容量C、電位差Vの間にQ=CVが成り立つことと、電気量が保存されることを理解していれば難しくありません。

条件として、C1,C2,C3,C4のコンデンサは静電容量が等しいとありますので、これをCとします。まず、C1,C2,C3の直列回路を考えてみます。直列回路に充電するとき、電気量が保存されることを考慮

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上級ハムの試験問題を理解する試み(9)

上級ハムの試験問題を理解する試み(9)

平成29(2017)年12月期の問題です。

コンデンサを直列、並列接続したときに合成容量がどうなるか。いろいろな理解の方法があるとは思いますが、ここでは抵抗とのアナロジーで考えてみます。

長さL,断面積S,電気抵抗率ρの電気抵抗RはR=ρL/Sで表されます。抵抗R1, R2をを直列につなぐのは、長さLが大きくなるのと等価ですので合成抵抗はR1+R2になります。一方、並列につなぐと断面積Sが大き

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上級ハムの試験問題を理解する試み(10)

上級ハムの試験問題を理解する試み(10)

令和元年(2019)年12月期の問題です。

電磁気学の基本法則の名前を知っているかどうかという問題です。ここにある法則はすべて覚えておく必要があります。単に覚えるだけではなく、実際にこれらの法則を使って必要な計算式をたてられるようにならないと、上級ハムの問題を解くのは難しいでしょう。

1はキルヒホッフの第1法則
2はキルヒホッフの第2法則
3はファラデーの電磁誘導の法則
4は静電気に関するクー

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上級ハムの試験問題を理解する試み(11)

上級ハムの試験問題を理解する試み(11)

平成30(2018)年8月期の問題です。

磁力線というのは、磁界(磁場)の様子を図示するために導入された仮想的な線のことで、単位断面あたり磁力線が貫く数によって磁界の強さを表します。磁力線は、N極から出てS局に入り、その接線の方向が磁界の向きを表します。磁力線どうしは交わらず、隣り合う磁力線は互いに反発します。

磁界が強ければそれだけエネルギーが高い状態にあります。したがって、それが変化できる

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上級ハムの試験問題を理解する試み(12)

上級ハムの試験問題を理解する試み(12)

平成30(2018)年12月期の問題です。

磁界中でその向きと垂直に導体を動かすと起電力が発生します。これを電磁誘導現象と言います。「起電力」とは、実際には電池と等価な働きを示しますので電圧が生じます。磁界の大きさをB、速さをv、長さをl、起電力をeとすると、e=Blvという関係があります。

上級ハムの試験問題を理解する試み(13)

上級ハムの試験問題を理解する試み(13)

令和元(2019)年12月期の問題です。

コイルの性質は、レンツの法則によって説明することができます。磁束Φが変化するとそれを妨げる向きに起電力が発生する、つまり、起電力の大きさが-dΦ/dtに比例すると言えます。一方、アンペールの法則によって電流Iの周りには磁界が生じます。磁界Bと磁束Φとの関係は、Φ=BSと表すことができます。ここでSは面積です。以上を組み合わせると、
コイルに電流を流したと

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