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日本の"自分で始めた女たち"#6 原田諭起子さん「大切にしていたものを全て手放したとき、行くべき道が見えてきた

原田 諭紀子さん(アクセサリーデザイナー・プロデューサー)
第2回(全4回シリーズ)

(第1回はこちら

原田さん コロナの時、集めていた布を全部、人にお譲りしたんです。
 
中村 noteに書いてらっしゃいましたよね。(https://note.com/matsuyoi/n/nde7d5ebf12cd
 
原田さん 「すごい生地があるから見に行こう」と誘われて行った京丹後で衝撃を受けて。こういうものを使うべきじゃないかと。古いものではなく、いま生み出されるものを「つなぐ」。自分の次の仕事はそんなプロデュースじゃないかと思ったんです。
私がここまで来たのは「人の縁」です。いろんな人と関わることで(自分のステージを)引き上げてもらい、価値をあげることにつながってきた。これからはそんな機会を人に提供できるようにならないといけない。
 
中村 原田さんはどうやってそんな人やお客様と出会っているんですか?
 
原田さん 人の紹介です。あと、展示会に出ていろんな人に知ってもらうのも大事です。最初は手作り感満載のブースで、よく声をかけてもらえたなぁと思うこともあります。でも、それがよかったのかもしれない。
 
中村 そういうときに、つなぎたくなる人と、そう思えない人とがいると思うんですよ。ご自分の「こういうところがよかったのかな」ってあったりします?
 
原田さん なんだろうねぇ?創るものに関しては競合があるわけではないんですよ。「独自性が面白い」と言っていただくことが多くて。「この人何をするんだろう」っていう期待感を持ってもらっているのはあると思うんですよね。
それと、中村さんもそうだと思うんだけど、女の人に好かれるでしょ。
 
中村 いや私、そうでもない。10年にいっぺんぐらいすごいの(中村のことが大嫌いという人)がくる。

共感性が高いから、似合うもの、ほしいものがよくわかる

原田さん そうなの?私、女の人にあまり嫌われないんですよ。男の人に嫌われることが多いかも・・・ポジションが男なんでしょ(笑)。前職の研究職が男社会でしんどくて。
私、共感性が強いんです。仕事でもオーダーの時に「この人にはこれがいいな」と分かる。人とシンクロする感覚が自分は強いのかなと思う。
店頭や商談で話をする相手は女性が多いので、仕事もしやすい。
 
中村 なるほどな。そういう能力、自分にも欲しいです(笑)
 
原田さん なんとなくわかるじゃないですか。ここが糸口だなって。そこを引いていく感じです。
 
中村 ああ、それは分かります。ここを押すと喜ばれる、逆にここは怒らせるというのは分かる。
 
原田さん 共感性の中で仕事すると、マウント取られちゃうときもあったりしますね。「いいように使ってやろう」みたいに思われる相手もいたり。
 
中村 そう。難しいですよね・・・
 
原田さん 「あ、これは(危険)…」って。仕事し始めた時はそこがうまくいかずに、何かあった時には徹底的にやりこめられることがすごく多かったですね。でも仕事の積み上げとともに、だんだん言われにくくなる。それがよかったなと思います。
私、狭い市場の中で、物理的にも経済的にも疲弊していたときがあって。でも自分のマーケットが大きくなればなるほど、そんな目に遭いにくくなることに気づいた。

過去よりもうひとついいものを作る、という積み重ねが、ブランドのありかただと思うんですよね。新しいことを積み重ねて、信用も積み重ねていく。それを体力的・資金的にどれだけ続けられるか。文句言われなくなったのは、それだけ積み上げてきたからというのはあるんじゃないかな。
それに、自分の活躍する場所が上がっていくとき、周りにいる人も変わってきません?
 
中村 それはあります。
 
原田さん 「すごい人がいる世界が存在する」というのが、ちょっとずつ分かるようになる。
 

原田さんは日仏経済交流委員会の会員でもある。誘ってくださったのは大手自動車メーカーの秘書だった方。「私が入ってもいいのか」と聞いた時に、「町工場の人でも技術を持っている人は入っている。原田さんのような人にこそ来てほしい」と言われた。世界中分かり合える人にで出会えるから、自分も積み上げて来て良かったと原田さんは言う。


誰かと誰かをつなげる、プロデューサーの道を始めて

原田さん 私、いろんな人を組み合わせてプロデュースしていこうと思っているんです。
でも今のところ打率1割。「やってください」という段階になると、まぁ、できないんですよ。自分から「人を紹介してほしい」と来ても実際はできないということは、自分で「できている」と思っているその器では、原田がやっているものはできないということなんです。でも、そこでどうするかというと、大抵、私を恨むんです。
 
中村 そう来るんや!
 
原田さん そうじゃない人もいるけど・・・。

チャンスは平等だと思って、全員をなんとかしようとしていたんです。でも、ある人に「それは違う」と言われた。「チャンスは、積み上げてきたものの上に知らず知らずのうちに表れる結果であり、ラッキーではない。原田さんを恨む人は、原田さんの努力が見えていない。見えていない人は、自分の持っている器を使いこなせないんだよ」と。
 
中村 「見えてない」ってことは、「やってない」ってことだな。
 
原田さん そう、やってないから分からない。
「この人のこと見てあげて」って頼まれて来る人がいても、売り上げが全然立ってない。お客さんは正直ですよ。チャンスは平等だけど、そういうものなんです。
チャンスは人が積み上げてきた努力。そのことに気づかないのはあなたの才能がないということだと私は思ったんです。

だけどなにかの拍子に、その人と誰かを組み合わせることで、できるものがある。そこで生まれたものを出すステージを作って、仕事として成り立つようにしたいというのはあるんですよね。今後やるんだったら、そういうことになるんじゃないかな。
 
中村 プロデューサーってすごく難しいと思うんですよ。
私が売り手と作り手をつなぐ仕事で経験したのは、両方が同じレベルじゃないとうまくいかない、ということでした。レベルが違うと、レベルの低い側が「今度あいつと一緒に仕事する」みたいに浮足立つ。相手に合わせて自分を高めて持って行こうではなく、いまの自分をそのまま引き上げてもらえると思っている。白馬の王子様を待つみたいに、受け身なんです。

でも、実際は違うじゃないですか。原田さんも「作り手として、お店にどう貢献できるかが大事」っておっしゃっていたでしょう?
本当は、相手に自分がどう貢献できるかを考えるのが成功の第一歩なのに、レベルが低いままで「あなたは私にどう貢献してくれるんですか?」みたいな感じ。「あ、この人ダメだ」・・・
 
原田さん 多いよ、そういう人。だからプロデューサーって「狩り」に近いんじゃないかな。いろんな人が自分のところに「来る」よりも、自分からいろんな人を「見つけて」「ピックアップする」。私はそういうのが上手いんじゃないかなと思っている。
「うわ、全国にまだこういうもの作れる人がいるの!」という人に「多少お金かかってもいいからこんなものを作って。何とかするよ」、そういうのしたいんですよね。

「わたし素材見る目あるんだ」とよく冗談めかして言う原田さんだが、その目の奥には生産者さんへの尊敬がある。原田さんは売り場で、生産者の努力や環境への配慮など、彼らの背景や姿勢も教えてくれる。

原田さん 50代になって「私、自分の見る目は確かだ」と思った。その目は親に養ってもらったと思うんですが、石とか、真珠とか、自分が探しに行って「これ」と思うものって、信じてもいいんだなって。
材料を見つけるような感覚といったらすごく失礼かもしれないけど、日本のいいもの、レベルの高いものを作る人たちどうしを合わせて、いいものをきちっと作りたい。
 

(記事内の写真はすべて原田さん提供)
 
→第3回(2月21日公開)に続きます


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