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#2 公共施設の断熱化はなぜ必要なのか?

 初めまして。
 脱炭素マニアこと、NPO自治経営・FMアライアンス所属の梅木です。普段は北九州市の職員(建築職)をしております。
 本日より月1くらいのペースで、公共施設のファシリティマネジメントの視点を絡めながら、脱炭素に関するお話しをしていきたいと思います。


1.公共施設の断熱化が必要な理由

 まず初回は、行政の持つ庁舎建物や学校など「公共施設の断熱化はなぜ必要なのか?」というテーマについて考えます。
 結論から言うと、

  1. 2050年カーボンニュートラルに向けて、公共施設はすべてZEB化(断熱+ 省エネ設備+再エネ導入)する必要がある

  2. そもそも、建物のライフサイクルコストを計算すれば、建物の断熱化に初期投資しておく方が、圧倒的に有利である。

  3. 執務空間や生活空間が快適になるため、業務効率も上がっていいことだらけ。

 ということになります。
 もちろん、①のカーボンニュートラルのために、どの程度公共が役割を負うべきか検討することも重要なことですので、別の機会に触れたいと思いますが、今回は公共FMの視点から②のトータルコストが安くて、③良いものができることを、オフィス建築を例に見ていきます。

2.ライフサイクルコストを算出すれば自ずと分かる

 次の図は、新築の事務所ビル(3F建て/ RC造/延床1,150㎡/工事費約3億円)を、省エネ基準(2025年に義務化される最低基準)で建てた場合とZEB(エネルギー消費量を50%以上削減)で建てた場合の比較をシミュレーションしたものです。
 30年間運用した場合、電気代の差はなんと7,500万円!
仮に年3%電気料金が上昇すると1.2億円!!にもなります…。)
 建物の断熱工事費に掛かる初期費用を、仮に工事費の10%かかったとしても+3,000万円。約13年で元がとれますね!

 実際には、建物の断熱をきちんとすれば、冷暖房に必要なエネルギー量は減るので、エアコン等などの冷暖房設備は小さくして(あるいは台数を減らして)十分賄えるようになります。
 例えば、初期投資2,000万円かかるものが1,000万円ですんだとすると、▲1,000万円。これが、10~15年置きにくる設備機器の更新の度に安くてよいと考えると更にお得です。

BIM sustaina for EnergyによるLCC比較(電気料金上昇なし) 【資料提供】㈱one building
BIM sustaina for EnergyによるLCC比較(電気料金年3%上昇)【資料提供】㈱one building

3.生活空間の質を上げるためにも断熱は必須

 これだけにとどまらず、キチンと断熱された建物は、生活空間の質を劇的に改善させることができます。執務空間はどこでも一定の室温に保つことができて温度ムラもなく、隙間の少ない建物なら換気もスムーズに…。
 とても快適な環境で、仕事もはかどるに違いありません。

4.国内外の先進事例

 先進事例を見てみましょう。
 まずは、国内事例から。
 2020年に福岡県で初めて既存建物を『ZEB』改修した事例です。

【提供】エコワークス㈱ (同本社が入居する賃貸ビル)

 鉄骨2階建ての元々は斎場だった賃貸ビル(延床600㎡)を事務所へ改修。断熱工事(窓に内窓設置、屋根断熱180mm、壁断熱105mm、床断熱80mm)をはじめ、冷暖房設備の更新(小さめの部屋は、家庭用エアコンでダウンサイジング←これが超重要!!)、エコキュート設置、太陽光パネルの屋上設置(45kW)などを行っています。
 この結果、57%(BEI=0.43)のエネルギー消費をカット、60%(BEI=▲0.17)のエネルギー創出により、プラスエネルギービル(使うエネルギーよりも、創るエネルギーが17%多い!)に生まれ変わっています。
 私の方で簡易的な試算をしてみたところ、ZEBの掛かり増し費用は、なんと7年で投資回収可能な結果に…。
 賃貸ビルの改修をテナントが費用負担してまでやっているところも凄いですね!

著者による簡易試算結果

 海外の先進事例も見てみましょう。
 下の写真は、スイス(気候は日本の東北地方に近い)のバーゼル・シュタット準州・環境エネルギー局です。

【著者撮影】バーゼル・シュタット準州 環境エネルギー局庁舎(黒い外壁は太陽光パネル)

 外壁の全面に太陽光パネルが貼られているのが特徴的なのですが、地場産材をふんだんに使用した木造の高度な省エネビル(日本の『ZEB』以上に高性能)になっています。
 すべての窓がトリプルガラスなのは当たり前ですが、キチンと建物外皮を断熱することにより、なんと冷房設備がありません。夜間に窓を自動開閉して自然換気を行うことにより、室内や建物躯体を冷却し、冷気をため込んでおくのです。
 暖房はごみ処理発電が主体の地域熱供給で賄われていますが、驚くべきことに、2037年までに準州内の都市ガスすべてを廃止し、再エネ化することが決まっています。
 これに、外壁面のほとんどにファサードソーラーを設置(屋上は緑化のためパネル設置なし)することで、必要なエネルギーをすべて賄っています。(パネル設置面積1,148㎡、1,450フラン/㎡、6~7年で投資回収)
 因みに、この建物だけでなく、準州内の電力は100%再エネです。

 また、フリーアドレス方式を採用することで職場面積を削減し、かつカフェテリア等のコミュニティ設備を充実させるなど執務空間も快適に設計されています。

5.次回のお題は、「日本でZEBが増えない理由とは?」

 いかがだったでしょうか?
 この2つの事例を見てもわかる通り、建物のZEB化は(きちんとやれば)超お得、かつ快適で、実現可能なものなのです。
 これをもしビルオーナーさん達が理解したら、どんどんZEB建物は増えていくはずですし、公共施設もどんどんZEB化されるはずです。 
 ところが、日本では下図のようにまだまだ普及していません。なぜなのでしょうか?

【出展】ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業調査発表会2023資料

 詳細は、次回以降にお話ししていこうと思います。お楽しみに♪^^

 最後に、オフィス建築の話からスタートしましたが、役場庁舎のZEB化を考えよという使命を受けたけど、どうしていいかお悩みの自治体職員の方も多いのではないでしょうか?
 そんな方々へ処方箋を授けるべく、オンラインセミナーを企画しました。

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 講師には、長野県庁舎ZEB化にアドバイザーとして関わり、ドイツや日本で最先端の省エネ建築に取り組まれている金田真聡さんをお迎えし、各地で公共FM に取り組んできたNPO法人自治経営のメンバーがその詳細に切り込みたいと思います。
 ぜひご参加いただければと思います。参加料金の早割を設定していますので、参加申し込みはお早めに。
 では、また次回^^


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