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『ローズマリー に出会えたら』(ショートストーリー)

作・Jidak


あの子が、来た。
今日は、友だちと一緒。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは。マスター、今日の日替わり、何ですか?」
「今日はね、ジャージャーパスタ」
「へぇ、楽しそう! それにしようかな? ね! じゃ、それを2つ!」

ツヤツヤの髪で、
口角を上げて、コロコロと笑って。
やわらかい風が、一気に吹いてくる。

ジャージャーパスタ。
「え、ジャージャー麺じゃなくて?」
って、普通は言うところ。

だけどあの子は、「楽しそう」って言う。
それが、楽しい。

「あ、初めて見る! これ、どんなのですか?」
新メニューを見つけると、好奇心いっぱいの瞳で、
ググッと問い詰めてくる。

これですよ、これ。

「あなたがいるから、僕がいる」
この状況で使っても、間違いじゃないはず。
あの子のようなお客さんがいてくれるから、
まだまだ工夫しちゃいますよって、思ってるのは事実です。


「あ、そうだ、マスター。あれなかなか見つからないんです、
マリーゴールド」

お水を持って行くと、あの子がちょっと困って言う。

「え?」
「ほら、この間ランチのデザートだったグレープフルーツのマリネ。あれ作りたくて。マリーゴールドと白ワインで煮るってやつ」

とっても悔しそうな顔をしている。
あの子は、いつでも全力で。

えと…。
ローズマリー 、のことかな。
うん、きっとそうだね。
マリーゴールドは、お花だね。歌にもなってるね。

「スーパー、何軒か行ったんだけど全然売ってなくて…」
「そっか。それは…」
「でね、とりあえずグレープフルーツは買っとこうって思ったのに、なぜか八朔買っちゃって…」


うん、いい。
いるんだね、一生懸命が、こんなにかわいい人って。


「早く出会えたらいいね、ローズマリー に」
「はい! ありがとうございます!」

あの子はちょっとだけ怪訝な顔をした。
あ、いいよ。今、気づかなくても。


「ねぇ、このケイジャンチキンも新メニューだね。
 韓国の料理かな? なんかおいしそう!」


韓国の料理は、ケジャンだね。
ケイジャンチキンはね、アメリカ・ニューオリンズで生まれた
ケイジャン料理の一つだよ。


そして、お友だち、ただただニコニコと。
彼女も、あの子の魅力の虜だね。


カラフルな空気が、この店を満たしていく。

あの子が、ローズマリーに出会えたら。

その瞬間(とき)を、想像する楽しみをありがとう。


(終わり)

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