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僕も道化師(ピエロ)になれる

衝撃的な知らせが、師走の忙しさを駆け巡った。

さだまさしが、あのさだまさしがついに紅白で「道化師のソネット」を歌う。こんな日がやってくると思わなかった。しかも、このタイミングでだ。誰もが悲しんだ知らせの後に、この歌を歌うのだ。

わたしたちの世界では「文脈」という言葉がある。あまりにも多用されがちで、感動するものの道理や証拠として消費されるものだ。そんなものさしで見ると、この曲が多くの人目を浴びる中で披露されることは、恐らくどれほどのパワーがあるものなのか、きっとあなたも想像がつくだろう。

ピエロになるとは、何か

誰からも理解されない想いほど、悲しくなるものはない。何かを期待されまくるほど、辛いものはない。人生の中で、そんな思いを抱かない人はきっといないだろう。誰もが心の中に悲しみを抱え、誰もが心の中に辛さを抱え、それでも覚悟を決めて生きていく。この曲は、そんな思いを持った曲。

「道化師のソネット」を一言で表すと「優しく強い覚悟」であると私は思う。たとえたくさんの悲しみに気づいても、きっとこの「道化師」は、彼たったひとりで背負ってるわけじゃないと、あなたはすぐに気づくことができるだろう。彼は誰よりも、やさしいのだと思う。

もしこの優しさが、“ただ支えてくれるもの”だと君が言うなら、彼はきっとそれすらも、優しく諭してくれるだろう。人は誰もが一人じゃない、そんなことはわかってる。彼は、誰もがそう分かっているわけではないと誰よりも知っているからこそ、ピエロとして覚悟を決めて「せめて」と言うのかもしれないと、大人になった今だからこそ考えるようになった。

人を楽しませるために、誰かの幸せがねじ伏せられる世界を、私は望まない。

あしあと

この曲は、最初から「笑ってよ」という歌詞で始まる。しょっぱなからである。あまりにも残酷だ。悲しんでいる人の前で、笑ってよと言われるのがどれほど辛いことなのかは、同じ立場になってみれば、きっとわかるだろう。

だけど、一つ一つあしあとをつけて進んでいくと、彼がなぜ辛い優しさを見せるのか気づくことができる、そんな仕掛けになっている。彼だって、悲しさに気づいているのだ。それを知ったとき、あなたはこの歌に込められた想いを、やっと知ることになるだろうと思う。

さだまさしという語り部は、人によって評価が真っ二つに分かれる。ある人は人生の救世主といい、ある人は尊厳を理解できない偽善者と罵る。それでも、今もなお多くの人がさだまさしに惹かれていく。当時聞いていた人々が大人になり、自らの子供が生まれて、なおその数は増え続けている。

最終的にどんな想いを紡がれるようになるのかは、私には全くわからない。ただ、それでも私は伝えたい。この歌はたくさんの人々の命を紡いだ歌である。そして私もそのうちの一人なのだと。

いきるかなしみ、つむぐよろこび

根も歯もない風評や、正しさを持った暴力に、何度か(そして今も)強烈に心を痛めることがある。そんな時に僕が欲しかったのは、ピエロではなかった。「彼」だ。彼の存在が、クリスマスのプレゼントに欲しかった。

現代に生きることは、とてつもなく悲しいことなのかもしれないと、時々思う。どこか遠い世界で強い存在に転生したり、アレンデールの中で自由になる願いが叶うことすら、ぼくらは一生叶わないかもしれない。それでも「彼」なら、受け入れてくれるかもしれないと、何度かすがる。すがったところで、世界はこれっぽっちも変わらない。だけどきっと、あなたの河は紡がれている。それを信じて、ぼくらは今日を生きる。

あのニュースがあった日、「こち亀」の一シーンを挙げている人がいた。「悩んだら“生きる”モードに切り替えろ」という有名な場面だ。たしかにそうだ。だけどこの話は、「両さんが馬券の発券場の前でさまざまな“欲”を表す文字に押しつぶされる」というオチで終わることを知っている人は、どれくらいいるだろう。どこまで行っても明日がある、とドン・ガバチョのように貫く両さんを、今が楽しければいいという刹那的な生き方はやめるべきだと改めようとする中川。あのコマの後、そんな展開があることを知っている人は、どれくらいいるだろう。どちらがカッコいいか、なんてない。ただ、「さまざま」なのだ。

あなたにも夢がある

半年ほど前、こんな企画があった。

この企画の中で、たくさんの夢が生まれた。

生きていてよかった。そう思った瞬間が、何度かある。この記事を読んだ時は、まさしくそうだった。

「大嫌い」の声が生まれていた時を、僕は直接この目で見たわけではない。何年か経った後、それを知った時には、もうすでに手負いだった。それでもなお命を紡ぎ続けて、やっとこの時を迎えた。

生きていれば、きっと素敵なことがある。これは嘘ではない。だからきっと、彼は今でも「笑って」と言うし、今からだってわたしも道化師になれるのだ。大好きを貫くのは覚悟がいる。それでもなお僕は貫くだろう。

いつの日か、あなたも笑って話せるように。

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