【翻訳】P.G.ウッドハウス著 マックの店(原題:THE MAKING OF MAC'S 旧題:Kちゃん)

 

#翻訳 #小説

 マックのレストランー誰もマックファーランドのなんて言わない--は不思議だ。普通じゃない。今どきじゃない。宣伝もしない。オーケストラよりもピアノソロに近い、でも、そんなことにもかかわらず、繁盛している。うらやましくて、立派な夕食レストランが軒並み電灯の色を白から緑に変えてしまいかねないほど、劇場地区で特別な地位を占めている。これは不可思議なことだ。ソーホーだってかなわないし、落ち目のピカデリーならなおさらこうはいかない。ソーホーがかなうとすると、たいてい裏にはどこかでなにか色恋沙汰がある。誰かが私にふとした折に言ったのだが、年寄りのウェイターのヘンリーが、開店からマックの店で働いているそうだ。
「わしが?」午後のひまな時にきかれて、ヘンリーは言った。
「もちろん!」
「じゃあ何のはずみで、最初に上向きの風に乗ったのかってきいてくださいよ。どうやってこんなに繁盛しちまったのかってね。どうやって--」
「どうやって幸先よくスタートしたのか、そう言いたいのかい?」
「そうとも。どうやってさい先よくスタートしたのか、教えてくれないか?」
「わしが?」ヘンリーが言った。「もちろん!」
 そうしてヘンリーが私に話してくれたのは、開闢以来のロンドンの、書かれていない歴史におけるこの1章だった。

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