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人が集い楽しむ居場所のかたちを問う。サバイバルゲームを地域活性の起爆剤に|ラプター株式会社 髙木大資

なにゆえに人は集まるのだろうか。そして、集まりたくなるのだろうか。
目的のあるなしにかかわらず、そこへ行けば何かがあると、ちょっとした希望を持ちながら訪れてみる。過ごした時間が有意義なものであれば、また顔を出したくなる。

人が集まり、交流がはじまることで「場」が生まれる。次第に「場」は誰かにとってはなくてはならない居場所となり、気力や体力がみなぎるきっかけを与える。「場」が持つ力は人を介して地域へ溢れ出ていく。

そんな「場」をつくっている人たちはどんなことを考えているのだろう。
ある経営者はこんなことを言っていた。

「1人だと寂しがり屋なので生きていけない。生きたラジオみたいな人が隣にいるだけでも賑やかでいいですね(笑)」

案外、事業がはじまる、事を起こすきっかけは、そんなシンプルな気持ちからはじまるのかもしれない。
信頼する同僚と2人、今日も自然豊かな土地で人の集う「場」を耕し続けている。


ソーシャルビジネスとしての“サバゲー”


フェイスガードやプロテクターで身を固め、エアソフトガンで遊ぶスポーツ「サバイバルゲーム」。一昔前は一部のマニアが興じるそれこそ“サバイバル”なスポーツだったが、一般的に「サバゲー」という通称が通じるほどに認知されるようになった。

それに伴いプレイヤーである「サバゲーマー」の数も増え、その年齢性別も幅広くなってきた。サバゲー人気に火がつくようになり、公式に遊ぶことのできるサバイバルフィールドも全国的に増加傾向にある。この10年ほどで宮崎県内でもさまざまなフィールドが増えてきた。

そんな状況下、宮崎県川南町には徹底的に利用者の快適さを重視したサバイバルゲームフィールド「Hawk Wood(ホークウッド)」がある。お隣の木城町との境目に位置し、周辺では農業や畜産業が営まれていることもあり、どこまでも開けた土地が広がっている。視線の先には山々が見えるほど澄んだ空気。そんなのどかな風景のなかに、豚舎跡地を改装したフィールドが顔を出す。

Hawk Woodは屋外・屋内双方のフィールドを有しているため天候や季節に左右されずゲームを楽しむことができる。エアソフトガンや迷彩服といったレンタル品も充実しており、装備を持たない初心者にとってはありがたい。毎月「キッズデー」「レディースデー」「ゆるマッチ」など年齢や性別、熟練度に合わせた企画を行い、サバゲーの楽しみ方や魅力を多方面から提供している。

Hawk Woodはラプター株式会社代表の髙木大資たかぎだいすけさんによって2017年2月にオープンした。開業当時、大資さんは25歳という若さ。その年齢からわかるようにキャリアのスタートは起業からはじまった。

「大学を卒業後、不動産に関する国家資格の勉強をしていました。周りは就職していましたが自分は学生のまま。それをコンプレックスに感じていたこともあり自分で何か事を起こしたいと次第に思うようになりました」(大資さん)

髙木大資さん

自分と向き合う時間のなかで思い出したのは大学時代に感銘を受けた授業の一コマ。地域活性化をテーマとしたものだったが、そこで社会問題の解決を目的とするソーシャルビジネスと出会った。自分もそんなことができたらいい、漠然と抱いた想いは日に日にリアリティを増していく。「今は守るものもない、若いうちにしかできない」と起業する決意を固めた。

しかし、何を事業とするのか、それが決まっていなかった。田舎に人が集まり、流動し、お金が地域に回っていく。そんな社会貢献のできるモデルを求め、当初はキャンプやアウトドアといった宮崎の土地柄から連想できる体験事業を模索していた。ただ、どれもしっくりくるものがない。模索を続けるなかで思いついたもの、それはたった2〜3回遊んだだけであったサバゲーだった。

サバゲーをしなくても許される居場所。ガチのサバゲーマーではないからこそ気づくこと

ソーシャルビジネスとしてサバゲーを選んだ理由には何があったのか。

「田舎に人を集める、地域とのシナジー効果を考えるとサバゲーは最適でした。サバゲーの魅力は老若男女が集まって、ごちゃ混ぜになりながらゲームをするところにあります。普通に働いて、生活しているだけでは出会うことのない人たちが集い、交流していることに気づきました」(大資さん)

大資さんが20代前半を過ごしたころはSNSが興隆し、世の中はますますデジタル空間での出会いや体験を求めていた時期でもある。反面、リアルな現場で積極的に人が集うことはあまりなく、実体験に基づく出会いも少なかった。都市型ではない広い土地を活用した体験型のビジネスができれば、直にコミュニティをつくることができる。当時、「本気で」興じているわけではなかったサバゲーを思い至った。

最初は宮崎県でも屈指の観光地である宮崎市青島での展開を考えていた。しかし、川南町が属する児湯郡はアクティビティが豊富な土地であることに気づいた。「土地にあやかるのではなく、つくっちゃえ。ここが目的地になるようにしよう」と判断。児湯郡に来たら「遊べる」ことを推していきたいと大資さんは話す

「僕にとってサバゲーはビジネスの目的ではなく手段でした。かりに本気のサバゲーマーだったら人が集まり楽しむことには目を向けずに、玄人好みのフィールドにしてしまっていたはずです」(大資さん)

そもそもの信念として、趣味を仕事にしたくなかった。自分が夢中になりすぎると俯瞰で物事が見えなくなってしまい、偏った思想を持ってしまう。遊ぶ人たちみんながどんな楽しみ方をするのかフラットな態度で臨みたかったという。

その考えを象徴するように、Hawk Woodではフィールドとしてのリアリティの追求よりも、利用者の居心地の良さを優先している。広く余裕のあるセーフティエリア(休憩所)、男女別の水洗トイレ、シャワー室を整備。走り回ることの多いサバゲーだが、動くことが苦手なゲーマーでも楽しめるよう的撃ち場も用意。滞在時間が長くてもOK、ずっといたいフィールドであることを目指している。

セーフティエリア

「極論、利用者がサバゲーをしなくても許される場所でありたい、というのはこのフィールドをつくるうえで大切にしている考えです」(大資さん)
 
悪天候のときには一戦交えたあとにセーフティエリアでボードゲームを楽しんだり、DVDを観賞したりと自由に過ごす姿も見られる。もともとはお客としてHawk Woodに通いつめ、現在は営業・運営スタッフとして働く中村竜治なかむら りゅうじさんは、大資さんの登場は衝撃的だったという。

中村竜治さん

「当時の私は『サバゲーは訓練だ!』くらいの勢いだったので趣味ではあるものの遊びの域を超えていましたね。“しごき”に耐えてきた自分たちのチームは強かったのですが、あるとき、それではサバゲー初心者が楽しむ余地がないことに気づきまして。

どこに楽しみ方やおもしろさは見出すかは人それぞれ。強要することはできませんよね。髙木さんは初めてサバゲーをする人が安心してプレイできる環境をつくることを重視していました。“ガチ”のサバゲーマーではなかった髙木さんだからこそつくれたフィールド。みんなが自由に過ごせるのは髙木さんの努力の成果だと思います」(竜治さん)

サバゲーが地域社会に開かれるとき

ニッチな趣味であったサバゲーは世間の動向、フィールドの増加もあり、認知が進み一般に浸透してきた。もちろん、そこには少数派の声やビギナーを大切にしてきたHawk Woodのようなフィールドの努力が関わっている。

しかし、実際の銃火器に似せたエアソフトガンを装備し、迷彩服を着て、戦闘さながらのゲームを行う。その様子から“当然のように”批判を受けることもある。それについてはどう考えているのか。

「物騒に見える理由もわかりますし、批判もごもっともと思うことはあります。しかし、たとえば弓道や剣道といった武道、ボクシングのようなスポーツを思い起こしてほしいのですが、もともとは戦うこと、格闘する技術から発展していったものです。オリンピックにも射撃とスキーを組み合わせたバイアスロンがありますよね。

サバゲーが世の中に広がっていくのなら、そういう肯定的な競技、楽しめるアクティビティとして昇華されていってほしいと思います。実際、競技としてのサバゲーもあります。もちろん、ご批判には丁寧に対応します。そういう方々にこそ、僕らのフィールドに実際に来て雰囲気を感じ取ってほしい」(大資さん)

「理解されにくい部分もあるからこそ丁寧に、慎重になることは多いですね。BB弾でプレイするとはいえプロテクターをちゃんとつけたり、エアガンの置かれ方ひとつにしても銃口の向きに気をつけたり。だからこそルールやマナーを守ることが大切。スタッフ側としては安全・安心に楽しんでもらいたいですから」(竜治さん)

装備の誤った使い方をすると相手に痛みを与え、ケガや事故につながるかもしれない。その怖さをわかっているため「サバゲーをしてる人たちは一番平和主義かもしれない」と大資さん。竜治さんも「正しい知識をつけることで身を守ることになり、楽しみ方の幅が広がります」と語る。

毎月第2土曜日に開催の「キッズデー」では10歳以上の子どもたちや、その家族を対象にサバゲー体験を行っている。保護者の不安を払拭するため丁寧に指導をしていった結果、今では厚い信頼を受け、夕方の終了時間まで子どもを預ける親もいる。

写真提供:ラプター
写真提供:ラプター

「キッズデーでは社会性が顕著に見えますね。長いこと通っている子が成長して、新しく入ってきた子に教えてあげて、またその子たちが…という連鎖が起きています。優しい世界ですよね。フィールドの外でも広がっていってほしい」(大資さん)

起業当初から地域貢献を掲げていたHawk Woodはイベント出展などフィールド外へ出ていく活動を続けてきた。2023年10月には廃校となった宮崎県立都農高等学校跡地を活用して「サバゲー文化祭」を実施。2日間でおよそ800人が来場した。すでに2024年秋の開催も予定されている。

「これからはアクティビティとしてのサバゲーを広げていきたいですね。宮崎県内の宿泊施設さんと連携して、県内外の方が川南町や児湯地域を巡る機会をつくれれば。さらには企業にもアプローチして、サバゲーを社員研修の場として提案していきたい。サバゲーはどんなに戦略を練っても勝てないこともあるので実はPDCAを学ぶ場としては最適なんですよ」(大資さん)

サバイバルゲームを台風の目としてソーシャルビジネスを展開する大資さん。いろんな人が集い、楽しみ、地区を巡り、お金を落とし経済を回していく。その循環の果てにある希望を今、紡いでいる最中だ。


(取材・撮影・執筆|半田孝輔

【髙木大資】
ラプター株式会社 代表取締役
北九州市立大学を卒業後、塾講師として活動、2017年にサバイバルゲームフィールドHawkWoodを創業、2022年にサバゲーを主軸とする会社ラプター株式会社を設立。
サバゲーをはじめとしたイベントを企画、運営する。

【サバイバルゲームフィールド Hawk Wood】
〒889-1301
宮崎県児湯郡川南町大字川南1423-1
TEL:080-8580-3838
営業日:土・日・祝 9:00〜17:00(15:00受付終了)
  平日 ご予約をいただいている日のみ営業(詳細はホームページにて)
Instagram:@hawkwood3838official
HP:https://hawkwood.jp/

【サバゲー文化祭】についてはこちら


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