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コーヒーを伝えるのは人。接客が最高の文化と空間をつくり出す | GARAGE COFFEE 杉田大地

JR宮崎駅から中心市街地へ向かってまっすぐのびる宮崎駅前商店街(通称:あみーろーど)。アミュプラザからほど近い四つ角に、ホワイトを基調とした壁、大きなガラス窓が目を引く店舗がある。お店の扉を開けると香ばしい匂いが漂ってきた。


自分のつくったお店からあえて距離をおく


ここはスペシャルティコーヒーの専門店「GARAGE COFFEE」。自家焙煎の豆から丁寧に抽出されたコーヒーが人気のお店。コーヒーのお供として考案されたスイーツも好評で、連日人が絶えない。現在では店舗営業だけでなく、コーヒー豆の卸売やウェブサイトでの商品販売など活動の幅を広げている。

GARAGE COFFEEは店主の杉田大地さんの「コーヒーで宮崎を盛り上げたい」という思いから2017年6月に宮崎市下原町にオープンした。しばらく営業を続けたあと、2018年12月に現在の場所にてリニューアルオープン。

杉田さんは宮崎市出身。高校を卒業後は福岡県に渡り、鉄道会社でサラリーマンをしていた。
旅好きな杉田さんは、その後バックパッカーとして南米を3ヶ月ほど旅をする。そして、コーヒー農園へ足を運んだことが転機となった。

旅を通じてコーヒーに興味を持った杉田さんは帰国後、「SHIROUZU COFFEE」「ハニー珈琲」などのスペシャルティコーヒーの名店で修行を積んだ。コーヒーに関することだけでなく接客や商品管理など店舗運営のイロハを学ぶ日々はとても刺激的だったと振り返る。


店舗をあみーろーどへ構えて以降、自家焙煎をはじめたり、従業員を雇用するなど規模が大きくなっていったが、当初から抱いている構想は変わっていないという。

「コーヒーで成功したい、宮崎に雇用をつくりたい、自分は自由でいたいという思いは最初から変わりませんね。宮崎で一番のコーヒー屋になりたい。そのために何をするのか、ずっと仕組みを考え続けています」

コーヒー屋をはじめる前から人を雇い入れることは考えていたという。お店を続けていくなかで常連客からスタッフとして加わったメンバーもいる。その数も1人、2人と少しずつ増えてきた。杉田さんは現在GARAGE COFFEEの「オーナー」ではあるが「店長」ではない。店舗運営をほかのスタッフに任せるようになってから、自身は焙煎作業や渉外、バックオフィス業務に専念している。

「次の展開や売上をどうつくっていくか、構想を組み立てる時間をつくりたかったんです。あと、自分がずっとお店に立ち続けるのも、お客さんからすると飽きるだろうなと。自分が立たないことで『大地に会いにくるお客さんが減って売上が下がるよ』という声もありましたが、気にしていませんでしたね。それぞれのスタッフにちゃんとファンができると思っていましたし、実際そうなって以前より売上も上がっていますからね。

やっぱりスタッフもお客さんも流動性があったほうがいい。当初からお店を『たまり場』にはしたくないなって思っていました。お店を好きでいてくださるのは嬉しいのですが、初めてのお客さんが入りづらくなるし、入っても居心地悪くなってしまう。それだとお店もお客さんもいい関係を築けません。幸い、僕らのお店には常連さんはいるけれど、居座る方はいませんね。みなさんいい距離感を保たれてるなって感じます」

接客は才能。システムや機械では代用できない


良いお店づくりに欠かせないのはお客さんとの関係性、そしてコミュニケーション。コーヒーにこだわることはもちろんだが、杉田さんは接客にも力を入れる。

「お店で接客する人の能力って、お店のあり方に直結するなとはよく感じるところです。お店の信用であったり、売上という数字にも表れます。先の常連さんのお話にも通じますが、スタッフにはあえて常連さんはほっといていいから新規のお客さんにはお声がけしてと伝えていますね。初めての場所で緊張しているかもしれないし、そのひとことから接点が生まれることもあります。

接客は才能によるところが大きいですね。システムや機械では替えがききません。その人の個性が出る部分でもあって、そこに惹かれてファンがついてきますから」

それぞれの接客の能力を生かしたほうがお店のためになる。杉田さんはきっぱりとそう語る。また、スタッフの人数が増えるに伴い、彼ら彼女らのアイデアを積極的に取り入れるようになった。期間限定スイーツ、定期的に開催される「夜カフェ」などはスタッフ自ら考え、形にしてきたもの。杉田さんの関わり方はあくまでアドバイス程度。それらが功を奏し、新たなお店のあり方がつくられ、新たな人流も生まれている。

「お店を任せているのに、スタッフのやりたいことを僕個人で止めるのは良くないなと。やりたいことをお店を活用して実現してもらったほうがその子の長所を生かせますし、モチベーションにもつながります。どんどん任せたほうがお客さんも喜んでくれて結果的にお店にも跳ね返ってくるんです」


お店にとってはいいことしかないと話す杉田さんだが、最初から何でもやってOKというわけではない。まずはお客さんにしっかりと話せるくらいコーヒーの知識を身につけること、そしてお店を問題なく回せるようになること。お店の基礎を身につけたうえでやりたいことを実行に移すのが望ましいという。

「目先の利益には走りたくないんです。たとえば、見栄えが良くて、おいしいスイーツを率先して出せばもちろん利益は上がっていきます。ですが、うちのポリシーはコーヒー屋であること。接客する側にコーヒー屋としての知識がないと生き残れないなと思ってて。僕らが実店舗をやる意味ってそこにあるなと思うんです。コーヒーや豆を買いに来たとき、ちゃんとした接客や知識による安心感にお金を払っていただきたいなって思っています。その土台や前提があるなかでバランスよく新しいことをやっていきたいですね」

コーヒーの現状を知り、時代に合ったお店のあり方へ


時の流れとともにお店のあり方は変わっていく。しかし、コーヒー屋としての軸はぶらさない。メンバー間でその思いを共有することで結束が強くなり、新たな挑戦も可能となる。それこそ、杉田さんの頭の中は「やりたいこと」でいっぱいだ。

「次のステップとして海外に出たいですね。コーヒー農園や現地の状況を自分の目で確かめたい。僕らが扱っているのはスペシャルティコーヒーですから、コーヒーの質だけでなくトレーサビリティやサステナビリティといった味以外の要素も含んでいます。生産農家さんのこと、コーヒーの流通経路のこと、環境負荷のこと。そういった部分をちゃんと見て知っておきたい。それを今後のお店のあり方に反映させていきたいですね」

海外で学んだことを次店舗の構想に生かしたい。2023年2月現在、GARAGE COFFEEは2店舗目を計画中だ。そのうち路面店や、中古ビルを改装しポートランドのエースホテルのような宿泊所とカフェが併設された施設もつくりたいという。杉田さんが夢を話すその姿は、子どものようにはしゃいでいる。

「そうするためにも焙煎も含めてお店のことをすべてスタッフに任せて、僕はあっちこっち動くほうがいいんですが、困ったことに僕現場が好きだってことに最近気づいてしまって(笑)現場に戻って接客したくなっています。そこが悩ましいところですね(笑)」



(取材・撮影・執筆|半田 孝輔

【杉田 大地】
GARAGE COFFEE 代表
宮崎県宮崎市佐土原町出身。高校卒業後、九州旅客鉄道株式会社に勤め24歳で退社。
その後、南米をバックパッカーとして旅をする。帰国後、福岡のスペシャルティコーヒー専門店ハニー珈琲とSHIROUZU COFFEEで働き、コーヒーの面白さに魅力を感じコーヒーの道へ進もうと決意。山崎満広さんの著書『ポートランド - 世界で一番住みたい街を作る 』との出会いで
ポートランドの街づくりやコーヒー文化を学びながら暮らすように旅をする。2017年、GARAGE COFFEEを地元宮崎にてオープン。独学で焙煎を学び、生豆の仕入れから焙煎、管理、抽出まで一貫して行う。

【GARAGE COFFEE】
営業時間:11:00〜19:00
定休日 :不定休
住所  :〒880-0806
宮崎県宮崎市広島2丁目6-14 中川ビル1階
HP:https://garagecoffee.official.ec/
Instagram:@garagecoffee.ro

(2024年4月26日追記)

新店舗がついにオープンします。
プレオープン日は2024年4月29日(月・祝)。
プレ期間は4月29日〜5月31日まで。
月火木金土日:10:00-17:00(定休日:水曜日)
◯店舗住所
〒880-0122
宮崎県宮崎市塩路1690-4(白い建物。駐車場あり)

グランドオープンは6月1日を予定。
詳しくは新店舗のInstagramをご確認ください。




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