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人類のつくりあげた技術の濃密さを技術家庭科の教科書にみる


はじめに

 中学校の教育指導要領改訂にともなう新たな教科書が、令和3年4月に配られた。今回は各教科で電子教科書が取り入れられ、音声や動画資料の充実が図られるなど、さまざま注目される改訂だ。

 ここでは技術家庭科の紙の教科書に注目したい。コンパクトなページ数で家庭や社会で必要最小限の生きるための要素が盛り込まれている。中学生がいない世帯でも常備したいぐらいの充実ぶりだ。

盛り込まれている分野や単元のなかから、実技教科の勉強もみている学習サポートの主宰するものとしていくつか紹介したい。

情報のめまぐるしい変化

 中学校において技術家庭科は、技術科と家庭科に教科書が2冊に分かれている。これらの2冊を中学3年間で各学校の状況におうじてつかい、適宜いずれかをえらんで先生の裁量で時期ごとに教えられる。単元についても選択の幅がひろい。

まずは技術科教科書についてわたしが把握できているここ数回の改訂本と比較しつつふれよう。

新教科書(見本)をパラパラめくると、とくに情報に関して顕著にさまがわりしている。同分野の人材確保が急務であることから、ようやく動きはじめたといえるかもしれない。これは令和4年度に登場し、高校1年生のなまぶあたらしい教科としての「情報Ⅰ」にもあらわれている。こちらの記事をごらんいただきたい。


プログラミングはどうかというと

 今回の改訂でプログラミングに関しては、必修となった小学校から高校(「情報」でとりあげる)まで一貫して触れることになった。両者の橋渡しとして中学校なりのとりあげ方になっている。

一例として開隆堂の中学校教科書の紹介ページをあげる。この教科書紹介のHPには、新教科書の特徴のいくつかをとりあげている。そのなかで、

プログラミングが充実 双方向性のあるコンテンツのプログラミング体験

開隆堂
令和3年度用 中学校技術・家庭 技術分野教科書

とある。たしかなまなび、多様な人への対応などとともに柱にあげている。一例をあげると、Scratchをもちいたプログラミング実習などだ。

慣れてくると授業の限られた15~20分間ほどでひとつのゲームをつくりあげるなどする。中学生に概念を理解させるくふうが見られる一方で、指導力の差が顕著に出そうだ。

じっさいにいくつかの中学校から通っているわが学習サポートの生徒たちにたずねると、じっさいの授業では単元によってとりあげ方がかなりちがうと感じた。

用語の量は

 いずれの教科でも、中学校で学術用語や社会で使われている語をとりあげ、小学校でいったん触れてきた概念をあらためてそれらの用語の定義にしたがいつつまなびを深める。

したがって情報の単元ではカタカナの用語がめだつ。用語に関しては若干荷が重い。ちらりと脳裏をかすめたが、テスト向けの暗記中心にならないことをいのりたい。

さらにインターネットのみならず、ネットセキュリティーや暗号化などの要素を意識したとりあげ方がされていると感じた。

わたしたち世代がほぼ独学でやってきたことを学校で学べるありがたさを感じる。素養としてこれだけは身につけさせたいという編纂者らの意図が見てとれる。

日常生活でDIYに困らないように

 木工や金属加工などのものづくりに関しては以前からとりあげられている。しかしより簡略化がすすんでいるようだ。生徒たちにたずねると、のこぎり、金づち、ドライバーを数回使う程度らしい。

20年ほど前の教科書ではハードを重視し、電子部品や回路についてくわしく盛り込まれていたが、それらは掲載されていたとしても付録やコラムへ。たしかにとりあつかいかたなどの記載はあるが、理科にまわっている部分もある。

ちょっとした修理、加工、くふうなどを取り上げ、修理業者を呼ぶほどでない家庭内での免許のいらないレベルでの最低限のトラブルなどには適用可能だ。この点は最低限の実用上の技術の紹介といえる。

栽培の事情

 栽培についてはコンパクトにまとめられ実用的である。とくに農業を実践シていたわたしには野菜の育て方のみならず、家畜の育て方や養殖(これらはもちろん選択)までとりあげられているのは驚きだ。

DIYや家庭でのレベルを凌駕し、むしろ職業教育の初歩といっていいほど。地域に応じて選択して指導することを意識しているのだろう。

家庭生活の内容では

 家庭科教科書にうつりたい。まず目につくのが育児。とくに乳幼児の成長にあわせて世話の仕方や発達のようすについてくわしい。これはたいへんわかりやすく、育児休暇を取り、まず何からすべきかと迷っている社会人には育児を概観するうえで役に立つ内容だ。

さらに家庭での食事のあり方に関しては、健康を維持するうえでのポイントがわかりやすくしっかり描かれている。もちろん従来からの栄養成分に関する記述が豊富だ。具体的な調理についてつくりやすく経済的な献立例などにつなげているので、一見の価値がある。

逆に、目をみはるほど変化しているのは被服の分野だ。すでに身につけるものを布からつくる単元のページはごくわずかで補修程度。むしろ既製服をTPOに応じてどう選ぶか考えさせるほうがめだつ。リサイクルやリユースの方法もとりあげている。

ただし、小学校でミシンを使うことはすこしだが残っている(学校により異なるようだが)と聞く。

ワークや動画資料の充実

 生徒たちの通学時の教材・教具の重量が増し、負担となるほどで問題視されている。実技教科書、資料集、辞書類などは学校に置いたままでよいなどの措置が一部でとられつつあるようだが、タブレット端末もふえ限界に近い。

教科書内容の理解を進める目的で利用されるワークや資料集なども同様で、さらに電子化がすすめられている。こちらもうまく使いこなせるか、負担が増さないか心配な面がある。

おわりに

 技術家庭科の教科書の変遷を改訂のたびに目にしてきた。日本の産業構造が20~30年間ですっかり3次産業へシフトし、ハードからソフトへと変化してきたことと連動している。

もちろん生活スタイルがさまがわりしてきたので当然ではあるが、こどもたちの未来に何が必要な要素で基本なのか、よく考慮された教科書づくりが行われているようだ。

技術家庭科の教科書はまさに人間が積み重ねてきたテクノロジーを次世代に託していくうえで、意外と重要な役割をになっている。まさに「生きる力」を体現するものだ。技術家庭科に関してはむしろおとながてもとにたずさえておきたいぐらいだ。

今後ともあくまでも手をうごかすこと、みずからくふうして編みだすことのたいせつさを教科書の柱として維持してほしい。

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