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となりにおいた色とのあいだで相乗作用がうまれることがある

(2023.9.4加筆)


はじめに

 絵をえがいているとさまさまな気づきがある。絵のせかいだけでなく服の色をえらぶなど生活に身近なところでもおなじかもしれない。かたちをキャンバスの上にうつすデッサンしかり。さらにそののちの色をのせていく段階でもそう。

単色の下がきからはじめていよいよ対象の色をそれぞれの場所においていく。ここがいちばん試行錯誤の連続。ああでもないこうでもないととなりどおうしにこころもち実際より彩度のたかめの色をおいてみる。するとあることに気づく。

きょうはそんな話。

色をのせるたのしみ

 そろそろ絵を描きたくなる時期。昼間に手汗をかかなくなり、さいごまでスケッチブックがさらさらのままえがけるようになるといい。それまでは室内で静物を対象に。たのめるならば人物もいい。

それぞれテーマとなる主要な色がある。えのぐをチューブから出してそのままの色をのせることはまずない。まず鉛筆や木炭でデッサンし全体をみわたして修正したうえでフィキサチーフで定着させる。

そのあとの下がきはアンバーなどのえのぐをテレピン油でうすく溶いた液で水彩画のようにさらさらとえがく。おつゆがきとよばれることも。テレピンの松やにのよいかおりにかこまれる。もう一度デッサンを筆でし直すかのように対象をみながらすすめていく。

画家の先生がこうおっしゃっていた。「デッサンでも下がきのどの段階でも絵としてかたちになるように描こう。」と。それを意識するとたしかに完成してからの満足度が得られやすい。

下がきが乾いたら、チューブからえのぐをだしてパレット上にならべる。そのなかからえのぐをえらび溶き油と1対1に混ぜて色をキャンバスにおいていく。完成まで溶き油の分量をへらしつつこの作業がえんえんとつづく。色をおく試行錯誤の時間。ここが油絵のいちばんの醍醐味だとおもう。

色どうしでおこること

 こうした色をあてる作業をつづけると気づきがある。見えるままの色でない場合も。たとえば水面をあらわしたいとき。これに水色をつかうことはまずない。水の色をおくわけではない。池や湖ならば、その背景を水面は反映している。したがってその背景を180度反転させたように水のゆらぎにあわせつつ色をおいていく。

光沢のある金属。これも同様に銀色を置くことはない。そもそも通常の油えのぐに銀色は常備されていないし、まずつかわない。水面と同様、かがやく金属の表面にはまわりの風景や室内がうつりこむ。その金属のかたちにあわせて変形しながら映りこむようすを再現する。

かべなどの平面も注目しはじめると奥がふかい。かんさつするとひとつの平面(かべなど)は部分ごとであかるさがちがう。それをさかいめなく色でもって再現すると質感、奥ゆきや空気感など、ただ単色を置いただけではあらわせない要素がうまれてくる。

メイクもそう

 顔などの肌の色もそう。色が変化しつつ連続して曲面をかたちづくる。これすら日々の化粧の際に顔に色をくわえていく作業でかんじること。わかりやすい例が歌舞伎。

武者などはあえて奇抜なメイクの色どうしをあわせたくまどりにより豪壮なようすに。女形はそれとはことなりしろぬりのうえにおしとやかに。役柄にあわせてメイクを極端にデフォルメする。これはもしかしたら現在のゴスロリやしばらくまえのヘビメタのメイクなどに通じるのかも。

油絵にかぎらず色どおしをとなりに置くとそれぞれ相互に影響しあう。これは中学の美術でならう。実際にわたしたちはふだんの衣食住、たとえばたべもの、着るものや生活の場(インテリア)などで無意識の感覚で日々接しえらんでつかっていること。

油絵では色をおくたびにおなじ色であっても置くところやなにかでまったくちがってみえる。それはヒトの感覚によるもの。そうした相互作用があるから色をのせる作業はおのずと奥深いものになる。

おわりに

 油えのぐは混色するほど彩度がおちる。したがって混ぜるのは2つか3つまで。そのすくないくみあわせでなるべくちかい色をつくり、あとは上にかいたように、となりの色どうしの相互作用を利用しつつ、目的のその場所の色にちかづけていく。ときには乾いたうえに、かすれさせたり透明色を重ねておいたり。

これはほんとうにやりだすときりがない。適当にやってしまうとその場所にそぐわない、そこだけ違和感のかたまりのようになるからふしぎ。これは服のコーディネートやネクタイえらびなどふだんの生活でおこるし、経験することとおなじかもしれない。

色だけでない。筆さばきや技法で質感もだす、毛髪の表現などはその例かも。筆先と根元であえてまぜないままでえのぐをのせて髪のウエーブにあわせてすぅ~とひく。こうしたいくつものファクターがからみあい絵の表現はきりがない。


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