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父について

小雨の降る銀座の街を歩いて、
深みのあるウッド系の香水を買った

昨年還暦を迎えた父に、
何か贈ろうとずっと考えていたのだが

ある程度のものは自分で変えてしまう父なので
なんとも長らくピンとくるものがなかった。

そんな中でこの香水ならばきっと大事にしてくれそうだと思えるものを見つけ、ようやっと1年越しに還暦祝いを拵えることに成功した。

ファッション、美容等のセンスを前世に置いてきた父にぜひこの香水でイケオジの第一歩を踏み出してほしい。

今でこそ、こうして父へものを贈ることを嬉しく思えるようになったが、
幼き頃はこの父親のせいで、この家族の、わたしの平穏が崩されているんだとさえ思っていた。

多くは省くが、一言でいえばわたしの父は「良き父だったが、良き旦那ではなかった」ということだ。

家では娘に少ない休みを捧げ、なんでも買い与え、そして母を毎日のように泣かせている人だった。(母にも原因はあった)

家には常に日付を超えてから帰るし、母へのあたりは常にキツかったし(当然愛の言葉なんて聞いたことはない)、それなりに外で遊び、家事をしているところは見たことがない。
※特殊な絆のある夫婦なので詳細は省くが決して母は悲劇の女ではない

そんな父から、わたしの男性観は大きく歪められ
形作られている。

父の背中を見て、わたしは勝手に一つのことを悟ったのだった。

この世は主に2種の男性に別れているということ。仕事のできるサイコパスか、心優しい稼ぎ無ししかいないということ。

父はそれなりに1つの事業を回しているような人で、働き方は私が知る限り激務だが仕事の愚痴や弱音は聞いたことが無かった。

だから、幼き日から父の子供であることに、ある種の誇りを感じながら、こういう奴とは絶対に結婚したくないし、一緒になるなら稼ぎがなくても優しい人がいいと思っていた。

そして一つわたしは社会人になる直前の大学4年生の冬、父に聞いてみたのだった。
この、仕事のできるサイコパスの仕事観を聞いてみたい、と。

私は父に聞いた
「ねえ、お父さんにとって仕事って何?」

父はいくつか言葉を探すような枕詞を置いた後こういった。
「若い頃はそりゃあ、食べていくために稼ぐのに必死だったけど、今はあれだ、うまく行くかわからないことをするのが楽しいからやってる」

その場で何を返事したのかも覚えてないけど、やっぱりこの人の娘でよかったなと思ったのは覚えている。

今仕事と向かい合うわたしは、いつか「今はうまく行くかどうかわからないことが楽しいんだ」と言える人になりたい、とまっすぐがむしゃらに走っている。

ふと気づけばわたしも、選んで苦しんでいるわけではないんだけど、それなりに総合職として懸命に勤めている。

将来こういう人とは結婚するもんかと、最低だと思っていた父だったが、その後ろを走るような感覚に親子とつながりは伊達なものではないと思い、私は購入した香水を帰省用の鞄に詰め込んだ。

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