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ちょっとの現実とたっぷりの妄想

とんでもねぇ。

『私のことはほっといてください』/北大路公子著

新聞に著者のコラムが載っていた。noteで2回も本書の紹介記事を読んだ。

三顧の礼を受けたからには読まずに失礼、と思いながら、しばらく積ん読のままだった。

いままで読んでおらずごめんなさい。

どんなに評判の作家さんでも、実際に読んでみなければわからないなぁ。百聞は一読にしかず。いっぺんにファンになった。


映画館でジャッキーチェンを観た帰り、みんな自分が強くなった気がしたのを思い出す。

北大路公子さんのエッセイを読むと、自分も爆笑エッセイが書けそうな気がした。

ウソだ。こんな文章を書ける気がしない。


学びも気づきもない。なんのためにもならない。ひたすら楽しい。よく考えると、たいした出来事は起きていない。でも、なんか、すごい。感動すら覚える。


「学びも気づきもない」というのは、ウソだ。ひとつひとつのエッセイは10ページ未満と短いが、一行目から惹きこまれる。

たとえばこんな感じ。

この秋、新しい友達ができたのだが、さっそく絶交したい。
(『私に友達ができた日』)

一行目から起承転結の「転」である。なにがあった?といきなりツッコミたくなる。


長すぎないか、冬。
(『「邪神」と闘う運命を背負って』)

良くできたキャッチコピーのようでいて、どうにもならないことに対する明らかなクレームである。題名との関連も想像がつかない。こういう書き出しってズルい。すごい。


その夜、父は厳かな口調でわれわれに向かって宣言した。
「俺が直す」と。
(『国中の魔女からの呪い』)

題名からして、トラブルが起こったのは間違いない。もう気になって読み進めずにはいられない。


ワクワクしながら読み進めると、展開は予想の斜め上である。強引に差し込まれる妄想。飛躍しすぎたかと思いきや、しっかり着地、しかもテレマークまで決めて。短いエッセイの中に見事な構成が感じられる。


最後に、本書でいちばん心に残ったワードを記しておく。

内なる猫の力

なんなんすか。たまりません。



※本書を読むきっかけとなったnote記事はこちら


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