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雨と宝石の魔法使い 第六話 図書泥棒ー中編1

僕は東大の学内で見かけた昔の話し方でしゃべる少し変わった超絶美少女の露露ちゃんと知り合い、成り行きで図書泥棒を探すことになってしまった。

「でも、やはり泥棒案件なら警察に任せた方が良くないですか?」
「阿呆が。この大学は最高学府で歴史も古い。つまり、国から払い下げられた貴重な蔵書が多い。それを100冊も盗まれたなんてことがバレてみろ。どうなると思う?」
「罰せられるんですかね」

「補助金が出なくなるかもな。学費があがるかもしれん。場合によっては貴様ら生徒は一人も図書館に入る事が出来なくなるぞ。文献なしに貴様はここで何を学ぶのだ?そんな大学に意味があるのか?そもそもなんだ貴様は。学ぶ気があるのか?ああ?アテネのポリスに住んでいた貴族の方がまだマシだぞ。ああ?」
「あ、いや、なんかすいません。アテネとかよくわかりませんけど」
「アテネのことはいい、忘れろ」
「とりあえずわかったら黙ってついて参れ」

「ちなみにその喋り方は、何かのキャラ造りですか?」
「ん?なんじゃキャラとは、甘い砂糖菓子か、柔らかい。あれはうまい」
「いえ、あのキャラクターです。キャラメルではなく」
「なんだ、そうかつまらん。つまらんことを言うな」
「はぁすいません」

二人は図書館に入った。今は電子管理されているため、実際に棚に行って調べることは少ない。
「ところで露露殿、具体的にはどのような本が盗まれているのですか?」
「そうじゃな、エーゲ海の歴史書・風土記、エトルリア人の歴史書・建築史、世界各国の鉱石の出土履歴、鉱石に関する言い伝え、ギリシャやイタリアの歴史書・文化史書などだ」
「なるほど、僕の研究にも繋がりそうな分野だな」

「これは何かの陰謀に違いない。儂に対する挑戦か?いやまさかな。まさか、まさかアイツが来ているわけではあるまいな…」
「アイツってのは?」
「いやなんでもない気にするな」
「しかし、100冊なんて数どっかでわかりそうなもんですけどね」
試しに検索エンジンで「エーゲ海風土記」を調べた。
「貸出中」
とある。いつから貸出中か受付で聞きましょうか。
「そうだな、知恵が働くではないか」
「ありがとうございます」
二人は受付に行って、目当ての図書に対する貸出開始の日付を調べた。
どれも4月7日とある。

「4月7日か。何かあったんですかね」
「そうだな。儂がここに来てから7日後か…」
「あれ4月に来たんですか露露ちゃ…じゃなくて露露殿は」
「ああ」
「それなら僕と同じですね」
「ああ、それはどうでもいいが、俺が来てから7日とは、俺が来ることを待っていたかのようだな」
「確かに」

「あ、この貸出中の人ってのは誰か教えてもらえますか?」
「それは個人情報なので申し訳ありません」
「そこをなんとか」
「実はこちらは貸出中と記載しているのですが、大学の方でまとめていまある機関に貸し出しているのです。なので暫く戻らないとのことです」
「ある機関ってのは?」
「申し訳ありません、それはわかりかねます」
「そうですか」

綱は露露に向き直った。
「これ以上は難しそうですね」
「ああ、そのようだ。でも大体わかった」
「わかった?犯人がですか?」
「ああ。どうやら一般人の手に追えそうもない相手だ。やはり私と同じ穴のむじなだったか」
「どう言うことですか?」
「綱、短い間だったが、師弟関係を結べて楽しかったぞ。またいつかどこかでな」
「え、どういう…」
露露は綱を置き去りにして去って行った。その表情には鬼気迫るものがあり、綱は追いかけることが出来なかった。

***

翌日、綱は2限の講義に出ていた。ギリシャ哲学史であった。龍ヶ崎火矢と言ったなんだか仰々しい名前の講師は別の大学から来ているようであったが、歳は30歳と若くかなりのイケメンで金髪だった。そんな奴いるのかと思ったが、女子学生からカリスマ的な人気があった。

お昼休みは毎回20名ほどの女性とが彼を囲み、お弁当を渡したりして、校内の中庭で壮大な昼食会が行われていた。

しかし、講義自体はとても興味深く、特にプラトンとアリストテレスに詳しかった。実際に会ったことがあるのではないかと思わせる話ぶりは情熱的で、博識であった。密かに僕は憧れていた。

「そこの君」
綱は自分のことだと思わずに、取り巻きの女子の間を掻い潜り教室の出口に向かった。
「待ちたまえ、露露といた君」
僕は足を止めて振り返った。露露と言ったからだ。

「そう、君だよ」
そう言うと取り巻きを宥め、僕の元に歩いてくる。超絶イケメンだ。

「何か?」
「君は露露の友達?」
「え、いや、私は知り合いです」
「そうか、露露は今どこにいるかわかるかい?」
「あ、いえ、よくわかりませんけど…お昼は広場にいることが多いかも…です」
「そうか、ありがとう。連絡先なんか知ってたりする?」
露露ちゃんと親しげなのに連絡先を、知らないのか。まぁ俺も知らないけど。

「いえ」
「そうか、ありがとう。ではまた。手間を取らせたね」
そう言うと再び取り巻きに戻って行った。

僕はまたいつものように広場に行ったが、やはり今日は露露ちゃんはいなかった。代わりに龍ヶ崎が取り巻きと一緒に広場に来ていた。キョロキョロしているが露露ちゃんを探しているのだろうか。

結局お昼は露露ちゃんは現れなかった。僕は3限に向かって廊下を歩いていた。
「おい、小僧」
「うわ!」
露露が立っていた。

「おまえ、今日龍ヶ崎とかいう講師に俺の居場所を聞かれていたな」
「え、あ、はい。聞かれました」
「で、なんと言った?」
「お昼に広場にいるかもって」
「馬鹿もん!そんな情報を教えるなんて助手失格だぞ!」 
さっき僕は助手首にならなかったっけ?と思ったがここは仕方ない。甘んじて受けよう。

ドMだから。

「ごめん!露露ち、殿!一応龍ヶ崎さんも先生なので嘘はつきづらくて」
「儂が行かなかったから良いものを。もし鉢合わせていたら、あの場の者全員が死んでいたかもしれんのだぞ」
「そんな大袈裟な…」
「貴様は何もわかっていないな。ど阿呆が。今回の泥棒はあいつなんだぞ」
「え、まさか?だってなんの関係もないでしょう」
「貴様、今日のあいつの講義を聴いて、やけにプラトンとアリストテレスに詳しいと思わなかったか?まるで会ったことがあるかのように話していなかったか?」
「よくご存知ですね!そうなんです、とてもワクワクしました。正直哲学なんてつまらないですからね。龍ヶ崎先生は話がとてもうまいんですよ」
「会ってるからな。当たり前だ」
「へ?」

「いや、何でもない。とにかくだ、今後アイツに私のことを聞かれても絶対喋るなよ。そして、出来るだけアイツに近づくな。いいな?」
「いいな…って言われても。週一で講義あるしなぁ」
「馬鹿な…とはいえ生徒としてはそれも致し方ないな。ほんとにろくでもない奴だ。よし、綱、これをやろう毎日必ず首に掛けておけ」

露露は綱にサファイアのネックレスを渡した。
「え、何これ、本物?この宝石」
「当たり前だ、儂を誰だと思っておる」
「いや、露露ちゃんだけど。本物って幾らするの?要らないよ」

「いいから受け取れ。ただみたいなものだし、お前の安全のためだ。しなかったら死ぬからな。それでもいいならいいが。儂は警告したぞ」
「わかったよ」
綱はネックレスを身につけた。しかし、なんだか身体が軽くなったように感じた。露露ちゃんからアクセサリーを貰えるってのもかなりのラッキーだ。

「さてと、儂はもう行く。達者でな」
「あ、ああ…」
露露は校舎から出て行った。綱はそれを見送って、再び3限へ向かった。

やはり俺の力を調べている。アテネの時の封印を解こうとしているのか。厄介な奴だ。静かにしておいてやればいいものを。
露露は龍ヶ崎を気にしながら校内から出て行った。

***
続く




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