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経営再建は覚悟で決まる〜福生のクラブをV字回復できた僕はどうして失敗したのか

80万部を超えるベストセラーとなった、三枝匡さん著「V字回復の経営-2年で会社を変えられますか」は、ある東証一部上場企業の子会社をメインモデルとした企業再生のストーリーです。

素晴らしい本です。

大企業だけでなく、小さな個人経営者の方にも役に立つ経営の極意が詰まっています。

ですが、読めば読むほど、本の内容を理解するだけではダメなんだ、ということを痛感させられます。

この本には「覚悟」という言葉が31回登場します。

「覚悟を決める」というのは、自分の内面的な壁を乗り越えて、海に飛び込むこと。

それが一番大事なことであると同時に本を読むだけではどうにもならない難しい部分だと思います。

そして、覚悟を決める、ということには当然大きな代償を払う可能性があります。

僕がそうでした。

僕は、2008-2010年の2年間、東京都福生市で潰れそうになっていたクラブの経営を託されてV字回復させた経験があります。

でも、その過程において大失敗をしました。

まさにいまこの記事を書きながら、読後すぐには気付かなかった、この本に書いてある教訓を噛みしめています。

結局、覚悟を決めたつもりでしたが、できていなかったのです。

この記事では、自分なりに見えてきた本書の根底にある「改革のサイクル」というものを解説しながら、小さな店舗の再建を託された自分がどのように成功し、そして失敗したのか、を書いていきます。

改革のサイクル

自分なりに本書の根底にあると感じる「改革のサイクル」は、このように回っていきます。

スポンサー(経営トップ)と改革リーダーとの信頼関係、スポンサーの「覚悟」が必要。

改革リーダー本人が改革を断行していく「覚悟」が大前提として必要。

チームが「覚悟」を決めて行動する

成果が出る

結果をスポンサーがどう判断し行動するかで、さらにサイクルを回せるかが決まる。

それでは、説明していきます。

覚悟を決める(スポンサー)

多くの本は冒頭に著者の言いたい本当のポイントが書かれています。

本書もプロローグ1ページ目には、

改革を行うとなれば「毒を食らわば皿まで」の覚悟でトコトンやらない限り日本企業の体質は変わらないことを、私は多くの体験から思い知った。

とあります。

まずは経営トップである「スポンサー」が覚悟を決めなくては改革自体が始まりません。

本書では第一章でグループ会社社長の香川五郎が覚悟を決めるところからスタートします。

「莞太、私は何があっても、徹底的におまえをサポートするからな……同じ船だよ。」香川は黒岩にそう言い切った。社長は腹を固めていた……どのみち他に頼める人材はいない。この男に託してダメなら、誰が乗りこんだところでダメだろう。

僕の場合は、福生でクラブを経営するTさんという方から、このままだと閉店しなければいけないくらい経営がやばいので店をまかせたい、と相談がありました。

見に行ってみると稼ぎ時の土曜ピークタイムに5人しかいない、みたいなひどい状況でした。

月売上は200万ちょいしかなく、支出を削りまくって赤字を最小限にしようとしていていましたが、その代り策も打てずに悪いサイクルに陥っていました。

僕は自分がやるにあたっての3つ条件を出しました。

ひとつは、いまの店は閉店し、店名はもちろん、内装やオペレーションなど全てを一新すること。

2つめは、実際の運営方針や予算など僕が全ての意思決定権を持つこと。

3つめは、外部には僕がオーナーということにして、Tさんはこの店には一切関わっていないことにすること。営業中には店には一切立ち入らないこと。

なぜ、このような条件にしたかというと、僕の運営方針は彼が今までやってきたことを根本から否定するところからスタートするので、彼には100%信頼してもらわなければならないし、彼のプライドを傷つける可能性があるので、その覚悟を持ってほしかった、というのがひとつ。

さらに、僕がリサーチしたところ、町の人たち、取引先であるイベントオーガナイザーなどにたいして彼の信用が全くないということがわかりました。

彼の運営やコミュニケーションの仕方に問題があり、彼が関わっている店に協力したいと思うひとがほぼ皆無だったのです。

福生のような小さな町で、それは致命的でした。

さらに、彼が来るとスタッフが緊張してしまいってのびのび働けない、という理由もありました。

結局、彼はこの条件を飲んだので、覚悟は決めてくれました。

決まったあとではありますが、自分の場合はTさんに対して、リニューアルに必要な資金の一部を貸付けたことで、さらに覚悟が伝わったと思います。

今にしてみると、なぜ借金してでも店ごと買わなかったのだろう、と悔やみます。

当時はそういうことが全くわかっていませんでした。。

覚悟を決める(改革者)

次に改革リーダーである自分が覚悟を決めることが大前提。

それができなければ何も始まりません。

これは内面的なことで、これが僕が本書の内容を理解するだけではダメだと書いた理由です。

実際に行動するかは結局は本人次第なのです。

本は背中を押してくれますが、実際に海に飛び込むかどうか決めるのは自分自身です。

そして、覚悟が必要なのは改革リーダーだけではありません。

経営責任を問われない立場でも、どんな少人数であろうと管理する立場であれば、今までのシステムを変える際になにかしらの軋轢は必ずできます。

中間管理職、 店長、マネージャーなど全ての人間がなにかしらの覚悟を決めて行動する必要があるのです。

チームで覚悟を決めて行動〜成果

会社を元気にするためには、その会社の「戦略」を大きく組み替えなければならない。あるいは「仕事のやり方」をドラスチックに変えなければならない。しかし、何よりも大切なことは、危機感をバネに「心」と「行動」を束ね、皆で一つの方向に走ることだ。

プロローグ2ページ目にはこのように書かれています。

本書で一貫しているテーマは、覚悟を決めた改革者がどのように行動すればチームが一丸となり、その改革者を信じて同じ方向に走れるか、です。

そのための極意がわかりやすく体系化され「改革の9つのステップ」として解説されています。

単なる精神論ではなく、実際に企業で起きた一部始終を生々しく疑似体験しながら、自分ならこういう修羅場に遭遇したらどう行動すればよいか、を考えることができます。

いま現在そういった問題に直面している方に取って本書の迫力あるエピソードの数々は目から鱗なのでは、と思います。

僕の店はどうしたかというと、次に、既存スタッフ全員と個人面談をしました。

高いスキルがあるベテランスタッフが何人もいましたが、本当に真面目で、Tさん流の運営方針が絶対的に正しい、と信じ込んでいました。

何年も信じてやってきたことをある日いきなり否定されて全く正反対のことを言われるのは普通に考えてもつらいです。

面談では、理論で説得しようとせずに、とにかく信じてくれ、と言って「覚悟」を決めてほしい、という話をしました。自信と熱量を伝えました。

実際、自分もTさんのやり方が100%間違っているとは思ってなく、ただこの町でこのサイズの店で、このシチュエーションであれば、逆のことをやらなくてはいけない、という結論になっただけでした。

コアメンバーが全員残ってくれ覚悟を決めてくれました。

あの素晴らしいスタッフのみんなが信じてついてきてくれなければ成功はありませんでした。

↑グランドオープニングの日の全体MTG

何を変えたか、という具体例を少し書きます。

以前は店長もスタッフも裁量が与えられず、商品は全て均一化されていて、マニュアル通りに運用するという完全に管理主義でした。

それを、スタッフそれぞれ自分がお店を良くするためにどうしたらよいかを考え、その結果自分で判断できるように変えました。

Tさんのときはドリンクはオール500円で、必ず計量カップで30ml計る。濃いめが好きな客には60ml注ぐ代わりに2倍の料金を払ってもらっていました。

新店舗ではドリンクは100円値上げして600円に。原価が安いものは500円。高いヘネシーなどは800円、など変化をつけました。

スピードアップのため、できれば計量カップを使わず、ハンドと呼ばれる技術を身につけてもらいました。(熟練するとカップを使わずに30mlキッカリ入れることができるようになります。)

特に基地のアメリカ人は濃いお酒が好きなのですが、濃いめがほしい客にはいくらでも濃くしてよい、と言いました。

以前は割れるからといってプラスチック製のカップだったのですが、強化ガラスのグラスに変更し、少しだけ高級感を出しました。

入場料はTさんのときは1000円1ドリンク付きで均一。いわゆるゲストと呼ばれる無料招待枠はナシ。例外は認めないスタイル。

新店舗では入場料は1500円1ドリンク付きに500円値上げ。これは1000円がスタンダードだった福生では異例で、スタッフの中でも疑問もありましたが、結果的に成功でした。

その代り、地域の音楽アーティストや飲食店関係者に対して無料招待枠をつくりました。

全てのお店でこれが有効なやり方ではないかもしれないですが、このケースでは当たりました。

一番重要だったことは、僕はスタッフを信じたことです。

スタッフがお客さんにお酒を奢ってあげても怒ったことはありません。本人が店の売上をあげるためにホスピタリティとしてやったことで、やりすぎと思えば説明すればよいだけです。

Tさんのときは、とにかくルールを厳格につくり、そのルールは絶対でした。

スタッフを信用していなかったのです。

やはり、一番はスタッフ全員がお店を愛してくれたことが大きかったです。

余談になりますが、そのほかにやったことはこんな感じです。

・有力なオーガナイザーをブッキングして集客成功。
・レイアウトを変えて、人が入っていなくても良い雰囲気になるようにしたこと。
・逃げ場的なミニバーをつくり踊らない人も楽しめるようにしたこと。
・DJの一晩の流れや選曲をディレクションして滞在率アップ。
・渋谷から店までのツアーバスを出した。(実際は採算合わずに1週で辞めたけど、福生の町では話題になりインパクトがあった。)
・とにかく地域密着!こまめに居酒屋、バー、スナックを回った。

でも、やっぱりスタッフ。スタッフに尽きます。

スタッフがハッピーだから、お客さんはもちろん、それがDJやオーガナイザーにも伝わる。

お店が繁盛して売上が上がると、酒の仕入れやセキュリティスタッフの増加、イベンターへの支払いなどコストも増えるので、損益分岐点は上がり、300-350万くらいでしたが、売上は倍増以上の400-500万くらい出ていて、それも初月からパンパンに入っていたので、まさにV字回復でした。

↑GRAND OPENING PARTYの様子

スポンサーとの信頼関係

サイクルは最後に経営トップである「スポンサー」に戻ってきます。

成果をどう判断するか。キャッシュフローはどうなのか? 継続できるのか?

これはスポンサーの判断となります。

僕の場合は最悪のケースで、オーナーのTさんが経営していた別のレストランの赤字を、こっちの店の利益で補っていて、僕への支払いが滞りました。

さらに、米軍基地の規則が変わって、突然米軍関係者が夜遊びにでれなくなってしまって売上が激減したり、など決して順風満帆ではありませんでした。

そんな中、Tさんが連絡が取れなくなってしまい、スタッフへの給料が払えない状況のとき、僕が自腹で払ったこともあります。

自分への支払いが滞ったときに途中で辞めるのが本来最良の選択肢だったと思いますが、責任者として逃げることはしたくありませんでした。

福生という町のみなさんからの期待も大きく、若手アーティストなどから「こんな店をつくってくれてありがとうございます!」と感謝されて、その期待に応えなければ、という思いもありました。

2年間お店をやって、最終的に自分の貯金もつき、都内での仕事も全てなくなり、消費者金融からの借金だけが残りました。(完済してます)

特に最後の半年間は、なんとか店に出ていて酒の力でこなしていましたが仕事をする気力はありませんでした。

自分自身の「覚悟」の代償を払うことになったのだと思います。

敗因

いま、この記事を書きながら気づいたことがあります。

それは店は成功したのにも関わらず自分がなぜ失敗したか、です。

僕は今の今までずっと不義理なオーナーが悪い、自分がオーナーとの契約や金銭の管理をしっかりできなかったのが甘かった、と思っていました。

それもそうなのですが、もう一つ大事なことがありました。

僕は自分の状況をスタッフにはほとんど伝えていなく、1人で抱え込んでいました。

でも、この本を読んで、気づきました。

チームに対しては覚悟を決めてもらいながら、自分の弱い部分をスタッフに正直に話すという大事な「覚悟」を僕自身が決めることができていなかった。

それが敗因です。

そしてもうひとつ、Tさんは人間として最低だと思っていますが、彼に対して出した条件すなわち彼が決めなくてはいけなかった「覚悟」は、彼には耐えられず、それが彼が裏切った原因のひとつになったのかもしれません。

彼はもともとDJで、自分の店でプレイしていました。

自分の店でプレイできないどころか、営業中に自分の店に行くことすら許されない。

そんな状況では、彼にとっての店をやる喜びというものを僕は奪ってしまったのでは、と今思います。

彼が「利益」という残った唯一のものを得るために僕を裏切ったのはある意味必然だったのかもしれません。

相手に対して過度な「覚悟」を強いることは歪を生み、いつか自分に対して代償として返ってくるのでは、と9年たった今、感じています。

おわりに

この9年前の経験を語るうえで、あらためて福生のみなさんには謝らなくてはいけないです。

福生の皆さん。僕がオーナーということで大変な協力をしていただきましたが、実はTさんがオーナーでした。

申し訳ありませんでした。

途中からそういう話は町で出ていたのは知っているので皆さんご存知だったと思いますが、なし崩し的に伝わっていて自分的には嘘をついていたのが辛かったです。

弁護士から止められていたという理由もありましたが、自分がオーナーだと言っておきながら、お店がやばくなったときに、今さら別にオーナーがいるとは言えませんでした。

皆さんには感謝しかありません。

大好きな福生の町にはいつか恩返ししたいと思っています。

そして、信じてついてきてくれたスタッフ、DJ、セキュリティ、オーガナイザーすべての仲間に感謝しています。

今さらこのようなネガティブなことを言って、せっかくの良い思い出を曇らせてしまったら、ごめんなさい。

今回たまたまこのような書く機会があったけど、自分的にはすごく必要なことでした。

みんなとの思い出が最高だったことには変わりありません。

さいごに、この本は、田端大学という僕が参加するオンラインサロンの定例の課題図書でした。

書評を書いていき、実体験を掘っていくうちに、自分が人生の中で語ってこなかった超リアルな部分に踏み込まざるを得なくなりました。

そして、今までずっと後味が悪かったこの体験をこの記事を書きながらはじめて俯瞰して見ることができました。

自分の何がいけなかったか理解できて、初めて納得できたような感覚になれました。

著者の三枝匡さん、そしてこの本との出会いをつくってくれただけでなく、さらに書評を書くという自分の実体験を俯瞰する機会をくれた田端信太郎さんに心から感謝しています。

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