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ベイビーわるきゅーれ

柳さんと見た!

殺し屋ガールたちのお話。
実はこの映画公開当初から気になっていたが県内の映画館では公開されておらず、評判だけを先にTwitter見ていて(見たいなぁ……)とハンカチを噛んでいたので、NetflixやAmazonプライビデオで配信が決定したのを知った時はかなり感慨深かった。

ベイビーわるきゅーれの予告映像を見てからまひろ役の伊澤彩織さんのことが頭から離れず、伊澤さんのインタビュー記事を読み漁ってみたり、伊集院光氏のラジオにゲストで出演されていた回などを聴いていたくらいだった。

いざベイビーわるきゅーれを見てみたら、その動きの鋭さにメロメロになった。
物語後半であるひまりの側近(作中ずっと彼氏だと思って見ていたんだけど、Wikipediaを読んだら側近だった)の渡部との戦闘シーンではずっと画面を見ているのにやっていることがすごすぎて目がついていけず、2人が今何の動きをしているか見えない瞬間とかがあった。異次元すぎる。

なのにコミュニケーションが下手くそで、口下手でものすごくモニョモニョ喋る。
あんまり他の映画じゃ聞いたことのないようなモニョモニョ喋りっぷりだった。
口をあまり大きく開けない人特有の舌ったらずな喋り方。

冒頭で面接中のコンビニの店長(ラバーガールの大水さん)を殺す妄想をして、そこには自分の相棒でもあるちさともいて、二人でそこの店の極悪の店員たちを殺してやるんだ!のシーンからそのコミュニケーションの下手くそさが存分に出ていた気がする。
頭の中で自分が一番得意な事をして他者を圧倒、制圧する妄想。目の前の面接からの現実逃避。
受け答えすらあまりスムーズにはいかなくて、でも店長が野原ひろしの名言とか出してくると「いやそれ野原ひろし言ってないと思いますけど……」とか正論突きつけちゃう。
このヒリヒリするようなコミュニケーション不得意な人のリアルな描き方よ……

この野原ひろしの名言もそうだけど、ちさとが「バイト先にジョジョの名言をやたら使ってくる人がいてウザい!ジョジョしらねーし!」ってまひろに愚痴るシーンとか、殺し屋二人が面接に行ったバイト先の責任者が打ち上げの会話中「クセが強いんじゃ!」とねじ込んで場がしらけたりとか、ちょこちょこ監督兼脚本家の坂元裕吾氏の「こんなユーモアが嫌い」が滲み出ていた。
その上でちさとがドルチェ&ガッバーナの香水を使っている演出をこまめに挟んで、ヤクザを殺したのがちさとだとバレた理由が「ドルチェ&ガッバーナの香水のせい」とか言わせたりする。
映画であからさまに脚本家の自我が見えることってあんまりないので笑ってしまった。
あとちさとにちくわをまるまる一本横で咥えさせるシーンがあるのもおそらくちさとやくの高石あかりさんが舞台鬼滅の刃で禰󠄀豆子役をやっていたからなんだろうな。
こういうのをサラッと挟み込んでくる。

この映画って「ちさととまひろのアクションを見せたい」「一緒に住んでいる二人の生活を見せたい」という2大主軸があるのでそれ以外のノイズが少なくて良い。
ちさととまひろがソファでゲームしたりスマホで動画見てたりしながらダラダラ会話してるだけの温度感がたまらない。しかも内容が完全に友達との会話なのが良い。
途中二人ともあまり生活が得意じゃなさそうなのに生活ができている理由は二人がもしイラッとしてお互いに手を出してしまったとしても、応戦できるため簡単に死なないからというのが判明した瞬間もかなり良かった。

まひろがちさとと一緒なら苦手なバイトも頑張れる気がするから一緒のバイトしても良い……?って言ったのに、バイト先がメイド喫茶だったので結局接客もうまくいかず、店員同士で馴染むことができず、自分を差し置いて他の店員と仲良くしているちさとが恨めしくなって帰ってきたちさとに「よくあんな萌え萌えきゅ〜んとかできるよね笑 恥ずかしくてやってられないわ……」ってボソボソ言う場面、それを言ってしまうまでのあまりにも思考が理解できすぎて見ていられなかった。
人は当然のようにできているのに自分ができないことって馬鹿にしたりくさしたりして一線を引いてしまうのが一番楽だもんね……

その結果揉めてしまって、怒鳴り合いとか手は出さないんだけど険悪な雰囲気になってしまうのがかなりリアルな喧嘩だった。
実際怒鳴り合う喧嘩なんてすごく稀で、日常の喧嘩ってああいうグラデーションだもんな。

ちさとはその喧嘩の後、そのバイト先にヤクザが来て、そのヤクザがあまりにもめちゃくちゃするものだから店員たちを守るために結局そのヤクザたちを殺してしまってバイト先には行けなくなってしまう。
死体処理業者を頼んだらその業者から頭撃って殺さないでって言いましたよね!?ってチクチクお説教されてしまって、疲労困憊で帰ったらまひろが「おかえり」って言った後にちさとに謝るシーンがあるの。もう、もうこのシーンが大好きで……
人が人に謝るのってすごく難しいじゃん!?映画の中では揉め事があったとしても、その迷惑をかけた相手を救ったりして結局相手が許してうやむやになったりするけど、相手に誠実にごめんって謝罪するシーンってなかなか見られない。
でもまひろは自分が僻みからちさとに言いすぎてしまったこと、これからも二人で関係性を続けていきたいからって言ってちゃんとごめんなさいするんだよ。
しかも二人で一緒に食べようと思ってショートケーキまで買ってくるの。なんて可愛い人なんだ……

その後もよすぎる。
この後いざケーキを食べようとしたらヤクザの残党から電話がかかってきてちさとが呼び出されてしまうんだけど、その呼び出しに付き合って!っていうちさとにめんどくさそうな顔をしていたまひろがちゃんと事情を聞いたら「それを早く言いなよ」ってちさとの顎の下をちょいちょいってして立ち上がってくれるの。
ちさとのためならまひろはめんどくさいヤクザも相手にするんだよ。
そして「二人で生き残ろうね」「帰ったらケーキ食べようね」って言い合うわけ。
は〜……ごめんからのここまでのくだり大好き……
「帰ったら一緒にケーキ食べようね」ってあまりにもささやかな約束が「どうか今から私たちが生きて帰れますように」という重たい祈りになっているとは思わないじゃないですか。
こんな柔らかくて優しい祈りある?大好きだよ。

その後そのヤクザの残党を無事全員殺しきったあと、あまりにも強い敵と戦えたまひろが思わず声を上げてゲラゲラ笑うシーンで初めて彼女の屈託のない表情が見られるところも好き。

サラッと流れて行くんだけど殺し屋ガールたちのマネージャー的な存在である須佐野さん(ラバーガール飛永さん)の話から察するに殺し屋はかなり福利厚生が手厚い職業であると判明するのも良い。
高校生までは寮を提供すること、大学に進学したければ進学すれば良いこと、卒業後は寮を出てもらう(もちろん書類で説明済み)けど、家具付きの家は用意してくれること、殺しの報酬を会社(?)側が積み立てて貯金していること。他にもまだあった気がする。
ちさととまひろから家族や親戚の話が一切出てこないのと学生として会社が保護していて卒業後もある程度生活を支援してくれるところからおそらく殺し屋として育成するために二人は幼い頃引き取られたのかなとか色々想像してしまう。
あえてこの二人のバックボーンを語らないのが良い。
須佐野さんも二人からチクチクしたような事を言われても慣れているのかいなしていちいち突っかからずスルーするのに過去を感じさせる。

というかこの映画全体を通してバックボーンは語らないけどこの人たちにも今まで生きてきた人生があって、今ここに生活があると感じさせる登場人物しかいない。
ちょい役である和菓子屋の店長ですらそうで、商品を購入してくれたちさととまひろに「はい!300万円!」と言いながら小銭のお釣りを渡して楽しそうに笑うところとか、一転ヤクザの親父である浜岡に絡まれた際には引き攣った顔をして痛めつけられたりするだけの人なのにこの人はこういう人で、生活をしてきたんだなと思わせてくれる人間としての説得力がある。

メイド喫茶のちさとの先輩店員である姫子も関西の方言が出ること、お金をたくさん稼がなきゃいけないこと、裕福ではないこと、奨学金で大学に通っていることが会話で明らかになるものの、その会話の流れが全く不自然じゃない。

この作品ではちさととまひろの敵対する組織であるヤクザの親父の浜岡、娘のひまり、息子のかずきの関係性も良い。
浜岡はハンサムで一見すると柔和そうに見えるのに、全く想像だにしなかったタイミングで激情してしまって手がつけられなくなる。
だからこそひまりは“パパ”の前ではわかりやすく明るいバカを演じるし、かずきは“親父”の前では自分の意見を通そうとは決してしない。二人とも浜岡と過ごすことでどうすれば自分の身を守れるかの処世術を身につけている。

特に印象的なシーンは浜岡が言ってみたかったんだよと言ってかずきをメイド喫茶に引き連れてきて、最初はかずきも恥ずかしがっているんだけどだんだん楽しめるようになってきたところで浜岡がメイドにオムライスに「仁義」って書けとリクエストしていざ書いたところうまくいかずバカにしてるのかと激情するシーン。
最初はかずきも浜岡を必死になだめようとして言葉をかけたり、やりすぎだと嗜めたりするんだけど、もう手に負えないと判断した途端浜岡側にコロッと着くシーンが今までのかずきの人生を想起させる。
今までも親父のプツンとなる理由が把握しきれない怒りに振り回されてきたんだろうなと不憫に思う。
でも作中ではそんな過去回想は一切ない。
しかしそういうのを視聴者に嗅ぎ取らせるセリフと演技がここにある。そういう部分がこの作品の好きなところ。

全部通してすっごく良い映画だった!
おそらく2回目見たらまた新しい発見があるタイプの映画だと思う。
登場人物の過去が端々にうっすらと見えてくるのでその人となりを考えてしまう作品は初めてだよ。
面白かった!2を見るのが楽しみ。

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