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酒井透

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(さかい・とおる) 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイールやパ… もっと読む
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記事一覧

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】京都府八幡市の元遊廓旅館『橋本の香』

 令和の時代に入り、昭和の頃に建てられた様々な建築物が次々と姿を消している。遊郭跡も例外ではない。かつての妓楼建築も年月を重ねるごとに取り壊しが進んでいる。  そんな中、妓楼建築を残すために尽力している人がいる。京都府八幡市在住の政倉莉佳さん。驚くなかれ、政倉さんは、橋本遊郭跡に残されていた物件を購入して旅館『橋本の香』を開業したのだ。そこでは、按摩店『漢方エステ 古民家サロン』も営んでいる。  「ここを買ったのは、不動屋さんから勧められたからなんです。元・オーナーは、旦

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】沖縄県那覇市の子供を抱く女性の霊がでる『波の上ビーチ』

 沖縄県那覇市内に地元で暮らしているお年寄りから敬遠されている海水浴場がある。ここは那覇市内唯一の海水浴場であることから、シーズンになると観光客や地元の人で賑わっている。しかし、ここはいわくのあるスポットとされている。『波の上ビーチ』にまつわる話を那覇市に住む男性に聞いた。 「あれは今から50年くらい前のことになります。ある会社の人たちが、みんなで海水浴に行きました。何人かで泳いでいると、小さな女の子を抱いていたお母さんが流されてしまったのです。  お母さんは、子どもに水

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】コンゴのルンバ王『パパ・ウェンバ』

 2016年4月24日、西アフリカ コートジボワールの最大都市であるアビジャンで行われていた音楽祭の公演中に倒れ、その後、病院で亡くなった歌手のパパ・ウェンバ(享年66歳。死因は、心臓発作)が死去してから8年という時が流れた。  今、彼の死を悼む声が世界中からあがっている。同年に発売された追悼盤は、8年経った今も売れ続けている。  パパ・ウェンバは、1970年代のザイール(現在のコンゴ民主共和国)の音楽シーンに革命を起こしたミュージシャンだ。ジャン・ポール・ゴルチェやマリ

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】鹿児島県沖永良部島の交通事故が多発する『アーニマガヤのトゥール墓』

 鹿児島県の鹿児島新港からフェリーに乗って南下すること約17時間半。奄美群島の南西部に位置する沖永良部島の中央部に奇妙なスポットがある。  地元の人たちによると、アーニマガヤのトゥール墓付近では、雨が降ると交通事故が多発するという。和泊という集落で暮らしている男性は語る。 「実を言いますと、あそこは島で最も注意しなければいけないところなのです。道路のすぐ下にはトゥール墓(横堀り式墓)があります。その昔、このトゥール墓には亡くなった人の遺骨が納められていました。どういうわけ

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】軍艦島のお隣、中ノ島の『忘れられた火葬炉』

 2015年に「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一部としてユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録された軍艦島(長崎県長崎市・端島)。その北側約0.8キロの海上に中ノ島という島がある。軍艦島を目当てにやって来る観光客にとっては、〝まったく興味のない島〟だが、この島は、軍艦島と切っても切れない”縁”がある。  驚くなかれ、島内には、2基の火葬炉が残されているのだ。どちらも煉瓦造りのもので、軍艦島で亡くなった人たちは、この火葬炉で荼毘に伏されていた。軍艦島閉山後

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】栃木県宇都宮市の性文化を集めた博物館『性神の館』

 1975年8月1日に開館した「性神の館」(栃木県宇都宮市)が突然閉館してしまった。館内には、日本はもとより世界中から集めた性に関する貴重な資料が展示されており、その中には、学術的価値のあるものも含まれていた。  三角屋根の建物は、那須高原などのリゾート地にあるペンションを思わせるような趣を持っている。ところが良く見ると、普通のペンションにはないものがある。入口にあるのは、巨大なま○こ岩。その前にある太鼓橋の脇には、ち○こを模した石碑が鎮座…。巨大なま○こ岩は、栃木県那珂川

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】北海道夕張市の『北炭夕張新炭鉱』の忘れ去られた大事故跡

 今から40余年前の1981年10月16日、北海道夕張市清水沢清陵町にある北炭夕張新炭鉱で日本中を震撼させる重大事故が発生した。  事故が起きたのは、海面下810メートルにある北第五盤下坑道の掘削作業現場。ここから大量のメタンガスが突出すると、その後、坑内火災が発生した。当時、火災の延焼による事業の損失を恐れた会社側は、坑内に取り残された炭鉱労働者を坑内に残したまま、水を注入して火災を鎮火させてしまった。  坑内に注入した水を排出して全員の遺体を収容することができたのは、

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】沖縄県・西表島の『高倉健が愛したホテル』

現在は廃墟に  沖縄県・西表島に80年代のバブル期に高倉健がお忍びで来ていたという、高級リゾート・ホテルの廃墟がある。高級感を売り物にしているダイビング・ショップの裏にある白い建物がそれにあたる。  小高い丘の横に建てられた建物は、ちょっとした〝要塞〟のようだ。ダイビング・ショップの方向には、大きな窓ガラスがない。外部から中の様子を覗くことができないような構造になっている。〝隠れリゾート〟らしい怪し気な雰囲気が漂っている….。  小高い丘から伸びる木々の枝をよけながら階

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】埼玉県川越市の『西武安比奈線の跡』

「西武新宿線に乗って、廃線跡をいつでも見に行くことができる!」、「廃線跡の残る魅惑の鉄道」などといった触れ込みで人気のあった西武鉄道の安比奈線(埼玉県川越市 南大塚駅から安比奈駅間 3.2 km)。1963年から50年以上の長きにわたって運行休止となっていたが、取材時その遺稿の撤去が進められていた。  廃線マニアや廃墟マニア、林道マニアからすれば、安比奈線は、特別な存在だったと言うことができるだろう。1日あれば様々な角度から写真が撮れたし、フォトジェニックな写真も撮ることが

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】茨城県日立市・日本最後の『架空索道(かくうさくどう)』

 2019年3月、日本国内から鉱石などを運搬していた架空索道(かくうさくどう)が消えてしまった。索道と言われても「なんじゃそりゃ!?」、「そんなの知らな~ぃ」となるだろう。無理もない。普段の生活で見ることはできないのだ。  索道というのは、空中に渡したロープに輸送用機器を吊り下げて、人や貨物を乗せて輸送を行う交通機関と思えばいい。ロープウェイやゴンドラリフト、スキー場などのリフトなどもこれにあたる。  茨城県日立市に本社を置く日立セメント株式会社(ひたちセメント)大平田鉱

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】長野県松本市の男根を担いで回る奇祭『道祖神まつり』

乗れば子宝に恵まれる  長野県松本市の美ヶ原温泉郷で行われている「道祖神まつり」は、人々にハピネスを分け与えてくれる祭りだ。  ご神体となっているのは、長さ4メートルあまりの『男根』。ハッピを着た10人ほどの男性陣がご神体を担いで20軒ほどの宿泊施設を回る。  クライマックスは、黒光りしたご神体に女性を乗せて、ユッサユッサと揺さぶるシーン。最初は、躊躇していた女性も、『エイッサ、ホイッサ。エイッサ、ホイッサ~』というかけ声に乗って揺られているうちに、笑みがこぼれるように

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】長崎県雲仙市の『鳥刺し踊り』

 真っ赤な九尺褌(きゅうしゃくふんどし)を身にまとい、竹竿を持った中年の男衆がステージに上がると、会場から笑い声と拍手が巻き起こった。  この男衆が登場するまでここで行われていたのは、神聖な会合だ。それが終わって今、金屏風の前に立っているのは、半裸状態の男たち…。良く見れば、ほっかぶりをしている。司会者が彼らの正体を明かすと、おもむろに踊りが始まった。 〝うらの竹藪押し分けへし分いたて見れば、クワッチョ1羽鳩1羽、毛くいじりの真最中~〟  男衆は、ヒョコヒョコと歩きなが

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】沖縄県石垣市の『ハブ獲り名人』

 真夜中の森は鳥獣に支配されていた。  月明かりの向こうから聞こえてくるのは、「ギャー、ギャーー」、「ギィー、ギィーー」という野生の声だ。鳴き声を発しているのが、どのような動物なのかは、まったく分からない。森の中を進むにつれて不安が膨らんでいく。  沖縄県石垣市内の中心部から車を走らせること約20分。奥深い森の中に入り込んで、野生のハブを捕まえている『ハブ獲り名人』がいる。伊良部AさんとBさん。2人は親子で、時間のあるときに山に入っている。  『名人』がハブを捕まえると

【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】山形県の『ムカサリ絵馬』がある観音堂

死後に結ばれる  今から200年以上前に建てられたという観音堂に入ると、むせかえるような空気が漂っていた。その空気は重たく沈殿し、何十年も動いていないように感じられた。観音堂の壁には、結婚式の様子が描かれた絵馬がいくつも掲げられている。それらの絵馬に描かれた男女は、どことなく寂しげな表情をしている。  山形県の山形盆地を中心とする地域にある寺や観音堂には、「ムカサリ絵馬」と呼ばれる絵馬が奉納されている。絵馬に描かれているのは、新郎新婦やその親族の姿だ。  これらの絵馬を