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【第六回】 関本郁夫・茶の間の闇 緊急インタビュー 自伝「映画監督放浪記」に寄せて

第一回 第二回 第三回 第四回 第五回

取材・文/やまだおうむ

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ロマン・ポルノに咲いた名花の心意気(承前)

――田中真理は、日活ロマンポルノ裁判の時、被告になった山口清一郎監督らを先頭に立って擁護し戦った女闘士というイメージが強いですが、どんなお人柄だったんですか?

関本 闘士というイメージは五分もなかった。・・・・・・いい人だったよ。毎日スタッフ・ルームで飲んでいた。終わるとそこで一杯飲んで帰るんだよ。大体夜10時に送り迎えがあって、役者は近くのホテルに泊るんだ。ところが、ある日、助監督(南光)が「昨日、田中真理と飲みました」って言うんだよ。田中真理がスタッフたちを飲みに連れて行ったらしい。俺は結婚して家から通っていたから、その日は先に帰ってたんだよな。俺がいたら俺が奢らなければいけないんだろうけど。

――昔ながらのスタアという貫禄もあったんですね。スタッフの面倒見がいい・・・・・・。

関本 そうそう。綺麗な頃だったよ。

――「瞳の中の殺人者」では、田中真理の裸身へのアプローチも、行水で白い襦袢の下から肌が透けたところをフルショットで見せる等、工夫されていますね。

関本 娘の手術の成功を祈ってお百度を踏む場面やろ? 特に裸身を撮るという意識はなかったよ。水垢離をやれば、肌は透けるのが自然だから。脚本通りに、田中真理もそのまま演じてくれた。 

――当時、日活ロマンポルノの女優さんはインテリだけど芝居が出来ないということがよく言われましたが・・・・・・。

関本 こちらが手取り足取りなんてことはなかった。役になりきってた。とにかく現場で田中真理の芝居を見るのが楽しかったよ。

――お話を伺っていると、田中真理が、当時の日活の女優の中で、いち早く企業広告に起用されるなど、「色物」とは違う目で見られていたのが頷けます。

関本 ロマンポルノ裁判の騒動がなければ、きっと大女優になっていただろうな。実に巧い女優だった。

「瞳の中の殺人者」の台本に見入る関本郁夫監督。

照明技師は映画女優にモテる?

 ――田中さんは、「瞳の中の殺人者」を撮った年に結婚されたとか。 

関本 照明技師と結婚したとは聞いたことはある。その前に一回別の人と一緒になったんやなかったかな。
 
――監督が後に2時間ドラマ「薔薇海溝」(1992)で組む島田陽子も照明技師と結婚しましたし、照明技師と女優はくっつきやすいんですかね。

関本 照明技師ってのは、(ライトを)アテるからさ、それで映りが全然違うから。

――女優さんにはモテるセクションなんですね。

関本 男優にもモテるよ。一番スタッフで多いもん。テレビでも6、7人は付くんじゃないかな。撮影部で付いて、キャメラマン入れて4人ぐらいだろ? 照明部は、技師を入れると8人ぐらいになるんだ。だから現場では、“照明部を握れ”っていうのがあった。照明部を握っとけば監督っていうのは巧くいくっていうのは言われてた。監督に昇進して撮ることになった「女番長 玉突き遊び」(1974)の撮影初日に、キャメラの(鈴木)重平さんが、俺のことを照明部のやつらに「関本、なかなかやりよるやないか」って、わざわざ言ってくれるのを、便所にいる時、聞いとったから。重平さんが照明部に立ててくれたお陰で、現場では一切スタッフと揉めなかった。 

――田中さんとは、その後も「柳生あばれ旅」(1980)で組んでおられますね(第11話「夜霧に情が燃えた」)。元忍者の旅回り一座座長で、夜盗でもあるという、これまた複雑なパーソナリティの女性を演じておられて・・・・・・。 

関本 プロデューサーの奈村さんがもう一度呼んでくれたんです。 

――情感描写にこだわりのある奈村さんとしても、手応えを感じたんでしょうね。幼馴染でありながら、大人になり敵同士として向き合わざるを得なくなった田中さん演じる女盗賊と、勝野洋扮する幕府巡検使とが、同じ目線の高さで対話する場面に、切々としたものを感じました。

関本 あれは、「女番長玉突き遊び」(1974)で組んだ松ちゃん(松本功)が書いてくれたんや。

――「ザ・スーパーガール」(1979~1980)の時代劇版といった雰囲気の作品でしたね。

関本 松ちゃんは、俺の狙いをいつもストレートにホンにしてくれるから、そういう話になった。こちらも力を入れて撮りましたよ。ただ、どちらかというと「瞳の中の殺人者」のほうが気に入ってます。・・・・・・それにしても、あの日、田中真理と飲みに行けなかったのが未だに残念でならないよ。

Special thanks/伊藤彰彦 

(第七回に続く)
次回は6月22日の掲載予定です
《無断転載厳禁》

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<著者プロフィール>
やまだおうむ
1971年生まれ。「わくわく北朝鮮ツアー」「命を脅かす!激安メニューの恐怖」(共著・メイン執筆)「ブランド・ムック・プッチンプリン」「高校生の美術・教授資料シリーズ」(共著・メイン執筆)といった著書があり、稀にコピー・ライターとして広告文案も書く。実話ナックルズでは、食品問題、都市伝説ほか数々の特集記事を担当してきた。また、映画評やインタビューなど、映画に関する記事を毎号欠かさず執筆。

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