胡蝶草のナイフに想いを              【男:女:不問=1:1:1】

【タイトル】
『胡蝶草のナイフに想いを』

【キャラクター】
フィル:女性。フロウの姉でありシュバル隊の隊長。
クライブ:男性。フィルの部下。
フロウ:不問。フィルの妹(弟)。

【本編】
――ある二人が対峙しているーー ――一人は赤い柄の鞘に入ったナイフを持ち、もう一人は木剣を握っているーー
フィル:・・・行くぞ
フロウ:・・・
――フィルは低い姿勢でフロウに向かって走って行くーー
フロウ:わっ!!
――驚いて尻餅を付くフロウーー
フィル:はい、これで一本。フロウはまた死んだよ
フロウ:も~う。また負けたぁ~
フィル:これで私の通算456戦456勝0敗だ
フロウ:なんで勝てないのさ~
フィル:(笑いながら)なんでだろうね
フロウ:だってこっちは木剣でそっちはナイフだよ?リーチの差で普通は勝てるものなのに...なんで一本も取れないの?
フィル:勝てるのはむしろこの『ナイフ』だからだよ
フロウ:どういうこと?そのナイフ...妖刀か何かなの?握ったらこう...力がぶわぁ~みたいな?
フィル:違う違う。まぁ、でも力が湧き上がるって表現はあながち間違ってないかもな
フロウ:やっぱり妖刀じゃん
フィル:だから違うって...私のこのナイフは仲間を守るためにあるんだ。だから、このナイフを持っている限り私は誰にも負けられない...そう想うと自然と力がみなぎってくるのさ
フロウ:ふーん...そういうものなんだ
フィル:フロウにもいつか守るものが出来たらもしかしたら私に勝てるようになるかもよ?
フロウ:絶対勝つもんね~...それで...明日からまた戦争に出兵するの?
フィル:あぁ。いつも寂しい想いさせてしまってごめんな
フロウ:・・・無事に帰ってくるよね?
――フィルは笑みを浮かべるーー
フィル:当たり前でしょ。帰ってきてこれからもフロウの成長を見届けなくちゃならないんだからな
フロウ:(N)そうして姉が戦争に出兵してから幾日かが過ぎたある日、姉の部下が書状を渡してきた。その書状の内容は先日まで会話をして必ず帰ってくると僕に約束をした姉が先の戦争で殉職した...という内容だった...
――書状が届いてから数日が過ぎたある日。男がフロウの家を訪ねる――
(ノック音)
フロウ:はい...どちら様でしょうか...
クライブ:俺はフィル隊長率いるシュバル隊副隊長のクライブと申します
フロウ:お姉ちゃんの隊の副隊長...さんがどうしてこちらに...?
クライブ:実は...隊長。あなたのお姉さんからの預かり物がありましてそれを渡しに来ました。少しだけ上がらせていただいても?
フロウ:...えぇ。どうぞ
クライブ:失礼する。(家の中を見回す)ここにはフィル隊長と二人で?
フロウ:...そうです。両親は僕が物心の付く前に死んでしまって...それからは姉と二人で暮らしてました...
クライブ:そうか...
――近くにある机と椅子が並べられており、そこにフロウが座り倣ってクライブも椅子に腰掛けるーー
フロウ:それで...渡したい物というのは...
クライブ:あぁ。実はこれをフィル隊長から預かっていたんだ
(ゴトッ)
フロウ:(N)重苦しい音と共に布に包まれた『ソレ』は机に置かれる。恐る恐るその布を捲(めく)っていくと中にあったのは幾度となく見た姉が大切にしていたナイフだった...
フロウ:どうしたんですか...これ...
クライブ:これは隊長に... フィル隊長に託された物なんです。あなたに渡してくれって...
フロウ:そうだったん...ですね...届けて下さりありがとうございます
クライブ:いえ、こちらこそ申し訳ない...俺のせいで...
フロウ:それはどういう...?
クライブ:・・・俺の用は済んだのでこれで失礼します
――そそくさと逃げるように家を後にするクライブーー
フロウ:あの…!……
――フロウはナイフを見つめ懐かしき日々に想い耽るーー
《過去回想》
――フィルが庭でナイフを持ち鍛錬に勤しんでいたーー
フィル:ふっ!はっ!
――フロウはフィルの鍛錬を眺めて見惚れていたーー
フロウ:・・・きれ~
フィル:(笑いながら)なんだ?フロウ。こんなナイフを振り回している姉の姿なんかを眺めてても面白くなんて無いだろ?
フロウ:ん?そんなことないよ。姉さんがナイフを振っている姿は踊っているみたいで綺麗。だから飽きないよ
フィル:ふ~ん。そっか...
――フィルはまた鍛錬を始める。フロウが口を開くーー
フロウ:ねぇ。姉さん?どうして姉さんは軍人になろうなんて思ったの?
フィル:なに?藪から棒に
フロウ:いやぁ、気になって
フィル:う~ん...そうだなぁ...
フィル:(ふっと笑って)私に勝てたら教えてあげよう
フロウ:えっ!?そんなの無理じゃん!
フィル:勝てたら私のこの一番大事にしているナイフもフロウにあげるよ?
フロウ:ナイフ?そういえばそのナイフずっと身につけてるけどどうして?
フィル:また今度教えるよ
《過去回想終了》
フロウ:結局...一回も勝てなかったし軍人になった理由は聞けなかったなぁ...
――何かを考えるフロウーー
フロウ:...うん、決めた
――ナイフを渡されてから数年後――
――庭でナイフを振っているフロウ。遠くからクライブが歩いてくるーー
フロウ:ふっ!はっ!...(一息つく)...ん?あなたは...
クライブ:やぁ、久しぶり
フロウ:お久しぶりです。えっと...シュバル隊の確か...副隊長さん
クライブ:ええ。クライブです。
フロウ:それで、クライブさんはどうしてここに...?
クライブ:風の噂で聞いたのですがフロウさんが軍に入ろうと思っているって聞きましたが本当ですか?
(真っ直ぐとした瞳でクライブを見つめるフロウ)
フロウ:ええ。本当です。僕は軍に入ります
クライブ:その理由を聞いても?
フロウ:そんなの決まっています。姉の仇を取るためです
クライブ:そう...ですか...
フロウ:そんなことを聞くためにここに来たわけじゃ無いですよね?中で話しましょう。お茶でも出しますよ
クライブ:あ、あぁ...ありがとう
――家の中で紅茶を出すフロウーー
フロウ:どうぞ
クライブ:ありがとう
(長い間)
――この沈黙から口火を切ったのはフロウだったーー
フロウ:実は僕ってこの家に居た時の姉の姿しか知らないんですよね...だから、教えてくれませんか?
クライブ:えっ?
フロウ:軍に居た頃の姉のことを話してくれませんか?
クライブ:...いいでしょう
《過去回想》
――数年前――
クライブ:(N)初めて俺がフィル隊長と出会ったのは俺が訓練生の頃であった。その頃のフィル隊長は教官で訓練生の間では鬼教官と呼ばれていた。
フィル:おい、お前
クライブ:はい!
フィル:お前はどうして軍にやってきた
クライブ:この国を守るためにこの軍に志願しました!
フィル:ならば、敵軍が大勢居てこちらはお前一人。多勢に無勢になった時にお前はどうする?
クライブ:その時は一人でも多くの敵を討ち滅ぼすために立ち向かいます!
フィル:違う!
クライブ:えっ?
フィル:その時に取る行動は一目散に逃げることだ!
クライブ:それは軍規違反になるのではないですか!?
フィル:質問を変えよう。お前には大切な恋人や家族はいるか?
クライブ:恋人は居ませんが...家族はこの国に居ます
フィル:では、お前が無謀にも立ち向かって、いわゆる名誉な死とやらを遂げたとする。残された家族はどうだ?悲しみに明け暮れ、もう温かいその身体を抱きしめることが出来ないからと写真という過去の幻影を抱きしめながら涙を流すその姿を!...想像してみろ
クライブ:(N)その時、自分は身勝手なんだとなんて愚かなのだと思ったのと同時にこの人はきっと優しくて面倒見の良い方なんだと思った
フィル:他の者達もわかったか!命を無駄にするな!たとえ泥に塗れようが罵声を浴びせられ ようが地を這ってでも生き残ることだけを考えろ
クライブ:はい!
フィル:生き残るためにまずは身体を鍛えろ。ではまずこの基地を30周!行ってこい!!
クライブ:あの!
フィル:なんだ?
クライブ:...あなたの部隊に入るにはどうしたらいいですか
フィル:(笑う)そうだな。私から言えることは...生き残れ。ただ、それだけだ。そうすればいつかは志願して私の部隊に入ることが出来るだろう
クライブ:わかりました。
《過去回想終了》
クライブ:そこから数年後。俺はフィル隊長率いるシュバル隊の一員となった
フロウ:姉が軍で教官をやっていたことやそこで鬼教官と呼ばれていたことも初めて知りました
クライブ:(懐かしさを覚えながら笑う)隊長の訓練は凄まじいものだった...厳しすぎて何 度吐いたことか
フロウ:ええ。僕もそれは知っています。僕も姉に稽古を付けてもらった時ボコボコにされました。
クライブ:容赦が無いですよね
フロウ:このナイフ...本来であれば姉との模擬戦の時に、姉から一本取ったら譲って貰える 予定だったんです。でも結局、一本も取れないままナイフがこの手に渡ってしまったんですけどね
クライブ:そうだったんですね...自分も、隊長のそのナイフにはたくさん助けられました
フロウ:(ナイフを見ながら)...姉さんのこのナイフに...?
《過去回想》
クライブ:(N)自分がシュバル隊に配属されて初めての実戦の際の出来事だった
――森の中。木にもたれ掛かっている二人。クライブは大腿部から出血しているーー
フィル:(息切れ)くそっ...本隊とはぐれちまった...
クライブ:隊長...すいません。自分がヘマしたばっかりに...
フィル:全くだよ。草木に隠れていた敵に気づいて私を庇って怪我をするなんて...とんだ大馬鹿者だよ。
クライブ:あの...隊長。自分の事は置いて...
フィル:(被せて)ならん。私は言ったはずだ。どんな状況であれ必ず生きろ。地を這ってでも生きろと言ったはずだ
クライブ:ですが...
フィル:私の隊から一人も死者など出さん。こんな理不尽な死などは名誉でも何でもない。私は...お前を引きずってでも必ず共に帰る。わかったな
クライブ:...はい。すいません、弱気になってました
フィル:肩を貸せば歩けるか?
クライブ:はい。なんとか...
クライブ:(N)そこから森をしばらく隠れながら歩いていると運悪く、敵兵の3人の尖兵(せんぺい)に見つかってしまった...彼らは俺が負傷している姿を見るや否や自分達でも討ち取れるだろうと考えたのだろう。銃を向けてきたのだ...だが、それよりも早く彼女は撃ち殺し、 いつの間にか残りの二人の内の一人の懐(ふところ)にまで潜り込み喉元にナイフをひと突き、そしてもう一人が剣に手を掛けたが隊長がその者の剣の柄(つか)を足で押さえつけナイフでまた急所をひと突き。彼女は振り返り凛とした声で自分にこう問いかけてきた
フィル:無事か?
クライブ:ええ。おかげさまで
フィル:そうか。では、先を急ぐぞ。よっと...
――またクライブに肩を貸すフィルーー
《過去回想終了》
クライブ:そうやって俺は無事に自軍の基地にたどり着き、生き残れた。そして、その時に隊長が持っていた得物(えもの)がそのナイフ。
フロウ:そんなことが...全然そんなこと一言も言ってくれなかったな...
クライブ:きっと...その話をして心配をかけたくなかったんでしょう。ですが、俺はフィル隊長からあなたのお話を聞かされてましたよ。
フロウ:え!?姉さんが僕のことを話してた!?
クライブ:ええ。あなたのことを話している隊長は何だか楽しそうでしたよ
フロウ:なんか...恥ずかしいな...
クライブ:あと、隊長自身の夢も話していました
フロウ:姉さんの夢...?あの、それでなんて言っていたんですか?
クライブ:聞きたいですか?
フロウ:はい。お願いします
クライブ:それはある日の訓練終わりの話です...
――クライブはポツリ、ポツリと話し始めたーー
《過去回想》
――訓練後。寝転がっているクライブーー
フィル:おい、クライブ。どうした?何か考え事か?
クライブ:っ!隊長!すみません。こんな醜態を!
フィル:良い。今は訓練中ではない。だが、考え事があるなら話してみろ
クライブ:考え事というより...ふと、兄のことを思い出していました。
フィル:ほう...お前には兄弟が居たのか
クライブ:はい。自分には5つ上の兄が居まして...その兄は冒険家をしているんです
フィル:冒険家か...君の兄は世界を周り歩いているのか。
クライブ:ええ。だから、こう空を見ていると兄も同じ空を見ているのかなと想い耽っていました
フィル:そうか...兄とは連絡を取っているのか?
クライブ:たまに手紙というかきっとそこで撮ってきたであろう写真が一方的に送られてきます
フィル:...羨ましいな
クライブ:羨ましい...ですか?どうして?
フィル:...私には妹(弟)がいてな
クライブ:妹(弟)さんがいらっしゃったんですか
フィル:クライブよりも6つ程下でな...いつも私に剣の稽古を縋ってくる可愛い妹(弟) だ。
クライブ:あなたに剣を教えてもらえる...俺からしてみればそれこそ羨ましいですけどね...という事はさぞかし妹(弟)さんはお強いのでしょうね
フィル:まぁ、どうだろうな...
――フィルは少しニヤッとしながらーー
フィル:筋は良いからもしかしたら君よりも強いかもな
クライブ:じゃあ、いつか手合わせを願いたいものですね
フィル:(軽く笑う徐々に静まる)
フィル:私達は早くに両親を亡くしていてな...あの子が物心付く前にこのナイフだけを残 してこの世を去った。
クライブ:その...亡くなった理由を聞いても?
フィル:父は今の私と同じ軍人でな。いつかの戦(いくさ)の際に殉職した。そして父の死後、 母は元々病弱にも関わらず私達を養うために働き詰めの無理が祟って亡くなってしまったんだ...私達二人を残して...な。そして、父が軍に居たときに持っていたのがこのナイフなんだ。
クライブ:そうなんですね。じゃあ、軍に入ったのも...妹(弟)さんを養うためですか?
フィル:結局、お金が無いと生活は出来ないからな...軍は支給金が良いのと常に人手を募集していたし、ガキだった私が手っ取り早く金が手に入れられると思ったのが軍だったってだけさ。
クライブ:あなたは一体いくつの頃から軍に!?
フィル:レディーに歳を聞くとは無礼なやつだな。罰として筋トレフルコースを100回ずつ追加だ
クライブ:なっ!?
フィル:(ふっと笑う)冗談だ...私が14の歳の頃からだ
クライブ:14...ですか
フィル:だから、私は早くに軍に入ってしまったが故に家に居ないときも多く、あの子には寂しい想いをさせてしまっていてな...
クライブ:でも、なぜそれで自分の兄が羨ましいと?
フィル:私の夢なんだ...あの子に寂しい想いをさせてしまっている分いつかあの子に色んな世界を見せに連れていってあげたい...
クライブ:...きっと叶えられますよ
フィル:ああ。そうだといいな
《過去回想終了》
フロウ:姉さんがそんなことを...
クライブ:どうやらフィル隊長は君に色んな世界を見せてあげたかったみたいだよ
フロウ:なにそれ...結局、死んじゃったら意味ないじゃんか...
クライブ:そうかもしれない...でも、フィル隊長が君に見せたかった夢や託したものがあることを知ってほしい
フロウ:それは...わかってます...そして貴方が言いたいことも
クライブ:…隊に入隊することは考え直してくれないか?
フロウ:…すみません。それは出来ないです。僕は姉を殺した奴らが許せません
クライブ:その死が俺に関係あるとしてもですか?
フロウ:(眉間に皺を寄せる)…どういうことですか?
――クライブは少し言い出すか迷って少し間が空くーー
クライブ:…隊長が亡くなったあの戦争...俺はあの時...
《過去回想―フィルの死―》
――敵小隊とシュバル隊が闘い、最後の敵兵にとどめを刺すフィルーー
フィル:はぁ...はぁ...
クライブ:どうやら敵兵の増援は無さそうです
フィル:そうか。(自軍を見る)...一度、前線基地まで戻るぞ
クライブ:承知しました。まさかここまで消耗するとは思いもよりませんでしたね
フィル:仕方がないさ。思いもよらないことが起こるのが戦(いくさ)だからな...このまま進んでも大事な部下を犬死にさせてしまうだけだ。だったら、一度態勢を立て直したほうが良い。
――すると、草木に隠れていた敵兵の残党の一人が駆け抜けて逃げていくーー
クライブ:なっ!まだ残党が残っていたか!このまま逃がすと敵軍に我々の情報が漏洩するかも知れません!俺が追います!
フィル:おい!待て!勝手な行動はするな!
ーークライブはフィルの静止を聞かず残党を追っていくーー
クライブ:(N)俺が敵の残党を追って数分。少し隊から離れてしまってから事件は起きた。
クライブ:うわっ!!
クライブ:(N)いきなり空中に投げ飛ばされた...一体、何が起きたのかわからなかったが直ぐに答えはわかった...土の中から人が出てきてその手には槍のようなものを持っていた。どうやら俺は敵の罠のフォックスフォールに引っ掛かり馬の横腹に槍が突き立てられその衝撃で馬から落とされたようだ。そして俺は落馬した際に頭を打ってしまったのか視界がぼやける...敵は9人程だろうか?にじり寄ってくる敵兵を前に俺はもうここまでと思った...そこに...
フィル:クライブ!!
クライブ:たい...ちょう...?
フィル:私は誓ったんだ。必ず私は部下は死なせないと!
クライブ:(N)フィル隊長が俺の前に現れた所で俺の意識は途絶えてしまった…
――フィルが木にもたれ掛かりクライブは膝枕されている状態。フィルは腹に手を当てているーー
フィル:(鼻歌...《バラード系ならなんでもよい》)
クライブ:うっ!...んん...
フィル:やっと起きたか寝坊助
クライブ:あぁ...もしかして俺と隊長は死んでしまったのですか?
フィル:馬鹿を言うな(クライブの顔をつねる)
クライブ:いてて...痛みがあるってことは...どうやら生きてるみたいですね...でも、隊長?あの数をどうやって...?
フィル:どうやってって普通にこのナイフでお前を守っていただけだ...
クライブ:ははっ!さすがは隊長ですね
クライブ:(がばっと起き上がる)...申し訳ありませんでした!自分が隊長の命令を無視していなければ隊長をこんな危険に晒すことなんて無かったのに...
フィル:全くだよ...本来であれば軍規違反だぞ馬鹿者が...ただ、お前が無事で良かった
クライブ:ありがとうございます。戻ったらどんな罰でも受けます
フィル:すまないが...戻るのはお前だけだ
クライブ:え...?いや、なんの冗談ですか。
フィル:冗談ではない... (腹から手をどける) 私はこの状態だからな...
クライブ:なんですかその傷...
フィル:不覚をとった..腹に得物をモロに受けてしまった...
クライブ:そんな傷すぐに戻って治療すれば!
フィル:無駄だ...人間の急所をやられてる。それに私はどうやら血を流しすぎたようだ。だから、基地までもたずに死ぬこともわかる...
クライブ:そんな...
フィル:だから、クライブ。お前にこのナイフを渡す...このナイフを私の妹(弟)のフロウに渡してくれ...
クライブ:何...何諦めているんですか...あなた自身の手でそれは渡すべきでしょう!
フィル:そうしたい...だが、もう無理だ。手足の感覚ももう無くなってきた
クライブ:...受け取れません!俺は貴方を必ず生きて連れ帰します!だから、諦めないでください!
フィル:ならば...クライブ!これは私からの罰だ!このナイフをフロウまで届けろ。(血を吐く)先ほどお前はどんな罰でも受けると言ったな?まさか、これまで反故(ほご)にするとか言わないよな?
クライブ:...くっ!隊長はずるいです。そんなことを言われてしまっては受けざるを得ないじゃないですか...
――ナイフを受け取るクライブーー
フィル:任せたぞ。
〈過去回想終了〉
――フロウは怒りで震えてるーー
クライブ:これが事の顛末(てんまつ)です
フロウ:(呟くように)...貴方のせいで
クライブ:全て俺の責任だ...
フロウ:どうして...どうして!貴方は姉さんを置いて、のこのこと逃げ帰ってきたのですか!貴方が姉さんの命令を無視して独断専行をしたせいで姉さんは貴方を庇って死んだ!せめて、亡骸でも持って帰ってきてくれれば今まで頑張ってきてくれた姉さんを労(ねぎら)ってこの家で弔うことも出来たのに!それさえ出来ないこの気持ちが貴方にわかりますか!
クライブ:申し訳ない...
フロウ:(ボソリと)......帰って
クライブ:…え?
フロウ:帰って!!
クライブ:・・・
――クライブは立ち上がりその場を後にするーー
――間――
クライブ:(N)あの場から去って数年が経った。俺はフィル隊長が亡くなった後、隊長に昇進した。フィル隊長が軍の上官に自分が亡くなった後の後釜はクライブを隊長にして欲しいと推薦していたようだ。俺は自分には荷が重いと断っていたのだが、同じ部隊のメンバーからの後押しもあり渋々引き受けることにした。
クライブ:(N)そして、また戦のため出兵することとなった。自国の国民たちが見送りの為に軍の左右に列をなして、さながらパレードのように盛大に見送っていた。しかし、突然軍の行進が止まり騒ぎ始めた。
クライブ:どうかしたのか?
クライブ:(N)そう近くの兵士に問うとその兵士は陣頭(じんとう)に、布で顔を覆(おお)っている不審者が立っているため止まったようですと応えた。すると、前のほうから怒号と金属同士がぶつかる音、人が倒れる音が鳴り始めた。
クライブ:(N)バタバタと人が倒れて徐々にその人影が姿を現す。そいつは鞘に入ったナイフを持って大立ち回りをしていた。そのナイフを振る姿は美しく鮮麗で蝶が舞っているかのようでまるで...
クライブ:たい...ちょう?
クライブ:(N)そう見紛う動きを魅せるそいつが眼前に近づいてきたため剣の柄(つか)に手をかけると足で押さえつけられそいつが鞘からナイフを抜こうとする。
クライブ:(N)そしてその瞬間覆っていた顔が露わになる…凛とした目に高い鼻筋、隊長にも似ているが少し幼さを残したその顔が...
フロウ:姉さんの仇だ
クライブ:(N)そいつは鞘からナイフを抜いた。
クライブ:(N) しかし、その者は頸元(くびもと)を刺す一歩手前で手を止めた...
クライブ:どうした?刺さないのか?
――フロウの手は震えているーー
フロウ:お前は姉さんの仇で...だから、この手でお前を…でも、このナイフで...姉さんは仲間を守ってきた...その姉さんの勲章を...汚すことは出来ない...
――クライブは眉をひそめ、涙目になりながらーー
――沈黙――
クライブ:あぁ...俺はこのナイフで何度も守られてきた...俺は...このナイフで...君の手で死ぬことで...やっと自分の罪が償えると思ってしまった...救われると...思ってしまった...
フロウ:僕は貴方を一生許せないだろう。そして、ゆめゆめ忘れるな。お前は姉さんの屍の上に立っているということを
クライブ:...あぁ。
フロウ:...だけど、それ以上に姉が守ってきた命を無駄に絶やして欲しくない...貴方はその姉の哀悼(あいとう)を抱えてこれからも生きてください。それが貴方の罰だ。
クライブ:...わかった。そのナイフに誓ってその罰を受けよう。
フロウ:(N)僕は兵に掴まれ、引きづり倒されそうになった。だが...
クライブ:大丈夫。そいつは俺の知り合いだ。騒がせてしまいすまなかった
フロウ:(N)僕はどうやらクライブ隊長の熱心なファンだったという噂に留まり、それ以上大事(おおごと)にはならなかったようだ。
――間――
クライブ:(N)季節は巡り、戦が休戦となると一通の手紙が俺の手元に届いた。中身を見てその手紙の差出人の元へと訪れた。
フロウ:待ってましたよ。隊長さん
クライブ:からかわないでくれよ。
フロウ:先の戦(いくさ)では活躍されたそうじゃないですか
クライブ:まぁね...早くフィル隊長に追いつきたいからな。それで?君はもう行ってしまうのか?
フロウ:ええ。姉さんの夢だった、僕に色んな世界を見せたいという願いを叶えるために旅に出たいと思います。このナイフで姉さんのように人を助けながらね。
クライブ:俺に見送りに来てほしくてここに呼んだわけじゃないだろう?
フロウ:えぇ。まぁ…少し考えたんです。多分ですが...クライブさん。あなた...隠し事をしていませんか?
クライブ:隠し事?
フロウ:......もしかしてなんですが、本当は姉さんを...せめて、姉さんの亡骸を連れ帰ろうとしてくれたんじゃないですか?
――長い沈黙。その後観念したように一息つくクライブーー
クライブ:......ええ。あの時の隊長の最期にはまだ少し続きがあるんです...
フロウ:続き...ですか。聞かせてくれませんか?
クライブ:...わかった。
〈過去回想―フィルの死の続きー〉
フィル:任せたぞ...
クライブ:・・・
フィル:どうした?早く行け...
クライブ:せめて、最期を看取らせてはくれませんか?
フィル:駄目だ......と言ってもお前は残るんだろ?
クライブ:はい...そのつもりです
フィル:...全く...お前は言うことを聞かないな...好きにしろ。ただし、私が死んだ後の亡骸はここに置いていけ。わかったな?
クライブ:え...?どうしてですか?あなたをせめて家に帰してやりたいというその一縷(いちる)の望みさえ叶えられないのですか。
フィル:ここは戦場だ。亡骸を担いでいる者なんて格好の餌食だろう?それでお前まで狙われてしまっては本末転倒だ。だから、置いてゆけ
クライブ:.........わかりました。
――沈黙――
フィル:ふっ...そんな辛気臭い顔に見られながら...逝きたくはないものだな
クライブ:すいません...
フィル:(深呼吸)お前に託したそのナイフだがな...なぜ、保管せずに肌身離さず持っていたかわかるか?
クライブ:…いえ、わからないです
フィル:そのナイフの柄の所に花紋(かもん)があるだろう?
クライブ:...確かに花の模様があります。
フィル:その花はな胡蝶草と言って...花言葉はいつまでも一緒って意味だそうだ...だからこれを持っていると私の両親が見守ってくれているって思える。それで肌身離さず持っていた...きっと、私が死んでも私の魂はこのナイフと共にいけると...私は信じている...
クライブ:必ず...何があろうとお届けします!
フィル:私が死ぬとフロウは必ず悲しみ、怒り、そして、復讐をしようと死地へと向かおうとするだろう...クライブ...それをどうにか止めてはくれないか?
クライブ:わかりました...わかりました!!私が貴方の妹(弟)を死地へなど向かわせません!!
フィル:手のかかる妹(弟)だが...よろしく頼む
クライブ:...はい!!
フィル:クライブ...今までありがとうね...
クライブ:...ありがとう...ございました...
フィル:あぁ...父さん...母さん...私...頑張ったよ...
クライブ:うん...あなたは頑張った...
フィル:フロウ...一緒に居れなくて...ごめんね...これからは側で...見守ってるからね...ずっと...愛してる...よ...
クライブ:隊...長...?フィル隊長?.........(死を認識して声を殺して泣く)
――〈過去回想終了〉――
――フィルはナイフの柄を見て撫でるーー
フロウ:...姉さん。おかえり...
クライブ:これで、俺が話していなかった事は以上だ
フロウ:......それで、僕の恨みを自分に向けさせて死ぬことで自分の罪が清算されると...?
クライブ:あぁ。きっと俺は救われたかったんだろう...君に殺されることで、そのナイフで死ぬことによって...そんなもの何の意味もないのにな...
フロウ:とりあえず、僕から言えることは...
――間――
フロウ:生きていてくれて...僕に殺されないでいてくれて...ありがとう
クライブ:何...を...?
フロウ:僕は貴方のことを許せたわけではありません。でも、貴方が生きていてくれなきゃこのナイフが僕に届くことも、姉の最期を聞くことも、このナイフに描かれた花の事も聞けなかったかもしれないです。それに、姉の意思を強く受け継いでるのは貴方なので...だから、改めて...生きていてくれてありがとう。
クライブ:俺に...そんなことを言われる権利なんて...
フロウ:権利とかそんなことはどうでもいいんです...ただ、僕が言いたかっただけだから
クライブ:......ありがとう...
フロウ:...では、僕はもう行きます。きっと貴方に逢うことはもうないと思います...さようなら…姉さんをありがとうございました...
――クライブの許から去るフロウーー
――間――
フロウ:姉さん...僕はこれから旅に出るよ。姉さんが僕に色んな世界を見せたいっていう夢と姉さんのように強くなってたくさんの人を助けるっていう僕の夢を叶えるためにね。だから、姉さんは僕の側で見守っていてね。このナイフに誓って叶えるから…
――ナイフを天に翳してフェードアウトーー
―― 了 ――

――あとがき――
皆様、どうも作者のジウです。今回は今作品『胡蝶草のナイフに想いを』を見てくださり、演じてくださりありがとうございます。こちらのあとがきには設定などのお話が出来ればなと思いますので興味がある方は最後まで読んでいただけると嬉しいです。
では、早速キャラクターの名前の由来からお話したいと思います。今回、三人のキャラクターのフィル、クライブ、フロウというキャラクターが出てきましたよねその中からまず、フィルについてからお話したいと思います。
まず、フィルの名前の由来はフランス語の「FIL(糸、繋ぐ、結ぶ)」から来ていてフロウとクライブを「繋いだ」のはフィルであり、クライブにとっての目標であり一筋の光(細い光って糸に見えるよね?)、あと同じ糸という意味でyarnという単語がありこれは「物語(体験談)」という意味でも使われ、今回の物語でよく語られてたのがフィルについてなのでこのような名前にしました。
続いてはクライブについてです。クライブは英語圏の男性の名で起源が「clif(崖)」から来ております。クライブは物語の中で身体的にも精神的にも「崖」っぷちになったり崖って下から見ると壁とほぼ一緒じゃないですか。だから、フロウにとっての「壁(障害)」であるためクライブとさせていただきました。
あとは、フロウについてですね。フロウは「flow(流れ)」という意味で物語の序盤などで流れに流されているの多く見られていました。しかし、年月が経つにつれて成長する。成長すれば花開くという願いも込めてフロウもいつか成長して「flower(花)」になると信じてこの名前にしました。現に成長していますしね。
 といったようにキャラクターにも名前の由来から考えて製作しております。(だから、変に物語を作るのがいつも大変なのです)
次に、タイトルなのですがなぜこの「胡蝶草のナイフに想いを」というタイトルにしたのかというとナイフは今回、登場キャラのどのキャラにも一度は渡っています。ですが、皆が皆同じ「想い」や思惑を持っているわけではありません。なので、それぞれ違った想いがそのナイフには込められたためこのようなタイトルとなりました。
では、最後に締めの挨拶やなぜこの作品を作ろうと思ったのかというきっかけを話して幕を引こうと思います。
まず、今回の作品を作ろうと思ったきっかけはフィルのような女性ってかっこいいよね?これを女性が演じたら格好良くない?って思ったのがきっかけです。ですが、作っていくうちに他のキャラも個性が出てきてあれ?ほかのキャラもなんか良くね?ってなり始めてこんな大作になってしまいました。
最後に今作品を読んで、演じて楽しんで頂けたのであれば幸いです。もし、何かこの作品にこうしたいのですが...などの要望があればX(@jiu_doramaactor)のDMにてご連絡頂ければご対応させていただきますのでお気軽にご連絡ください。
ここまで読んでくださりありがとうございました。 作者:ジウより

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