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26.新参者は私の相棒

無事にリハビリも終わり、7ヶ月ぶりに自宅へ戻ってきた。自分好みにこだわって建てたマイホームだったが、そんな生活も3年ほど。車椅子生活のためにバリアフリーに改修が済んでいた。

小上がりの和モダンな部屋はフローリングに、お気に入りのソファーやラグはすっかり取り払われてテーブルに、奮発して購入したシモンズの心地よいベッドは介護用ベッドに代わっていた。

残念でならないが、いくら悲しんでも仕方がない。どんなに頑張っても車椅子で今までの生活は無理だ。気持ちを切り替えて、また新しい家に住めるとでも思うしかない。

そんなことを考えながら少々気落ちして家の中を進んで行くと、何やら茶色の小さな物体が飛び回っている。家族は皆んなニヤニヤしながら私を見ていた。

はぁ〜⁉︎

どういうこと…?


一瞬にして落ち込んでいた気持ちは吹き飛んでいた。我が家には居るはずもないトイプードルの赤ちゃんが居るではないか。私が日中一人になることを考えて、家族が迎え入れていたのだ。

しかし、大事なことを家族に伝えていなかった。

実は私、何を隠そう  犬が大の苦手

犬嫌いと言うと聞こえが悪いが、嫌いと言うよりも怖いのだ。

その原因は幼少期にある。当時はまだまだ野良犬、野良猫がその辺にいる時代だった。ある日学校帰りの事。近道をしようと人一人が通れるほどの細い路地を抜けて帰ろうとしていた。

すると角を曲がったその途端、出くわしたのだ。

なんと それが

      ドーベルマン‼︎


当時のイメージでは、ドーベルマンは牛でも食べてしまうくらい凶暴な犬だと、どこの情報だか知らないが信じ込んでいた。
※そんなことはないと思うが…

私も「食べられちゃうー」と猛ダッシュ‼︎ このスピードで50メートル走を走れば一等賞間違いない。断末魔のごとく奇声を上げて、近くの家に逃げ込み事なきを得た。

こんな記憶から、犬を飼っている家の前を通る時は、道路を挟んだ反対側の道へ渡るくらい犬が怖い。だから犬を飼うなんて考えたこともなかった。

私の足元を無邪気に飛び回るふわふわのぬいぐるみの様な子犬。恐る恐る手を伸ばすと、子犬はくりくりした目で私を見つめながら、尻尾をぷりぷりと振ってじゃれてきた。

生まれて初めてのことに キューン!

なんて可愛いの‼︎

小さい頃から抱いていた犬へのあのイメージはなんだったのだろう。一瞬にしてその子犬の虜になっていた。無償の愛とでもいうのか、本能のままに私を信じているというのか、そんな生き物がいることに驚いた。

それから数日後、あんなに怖がっていた犬を膝に乗せて、車椅子で移動するのが日課になっていた。「自分で歩きなさい!」と言いながらも、私の膝の上で操縦士のごとく、正面を向いて踏ん張っている姿が可愛くてならなかった。

そして、人も変われば変わるものだ。
数ヶ月後には、そのちびっ子が私の相棒になっていた。

相棒君


27話目へ続く…


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