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小さい秋……が見つからない⁉︎

この週末は、ノミガワギャラリーでの展示との共催ということで、変則的に金・日のオープンとなる池上ブックスタジオ。昨日は、お店番の「はいくや」さんによる「みんなのオススメおしえ展」<秋冬編>が開かれました。

※ブックスタジオの各本棚の店主は、お店番をする日には、中央のテーブルを使って展示や物販などを行ってよいことになっています(本に限らず)。先週、私がお店番をした際には、現在の棚のテーマ「Go to “Book” Travel」に関連させて、販売はできないけれどもぜひ見てほしい・おすすめしたい本を、Galleryというかたちで並べました。

さて、はいくやさんの「みんなのオススメおしえ展」<秋冬編>は、こんな企画。

ルールはこれだけ。

・オススメの本を1冊ずつ持ち寄り、「オススメカード」と合わせて展示する。
・「オススメカード」は名刺サイズ、表に名前と特にオススメしたい相手、裏にオススメの理由などを書いてください。(名前は仮名でもOKです)

私も、子どもと一緒に一冊ずつ、オススメ本を持っていきました。当日は伺えないけれど、どんな展示になるのかワクワクしました。

迎えた当日、はいくやさん曰く「幼稚園児さんから落語好きのおばあちゃんまで、老若男女40人40色の素敵なオススメが集まりました」とのこと! そして、実際の会場の様子がこちら。

なんだかとてもすごいものを見たように思います。「本屋さんがない」と言われてきた池上の町ですが、本を必要とする人・本を大事に思っている人・本を通していろいろな話をしたい人は、こんなもたくさんいるのですね。

「オススメという自己表現。」とは実に秀逸なアイデアですね。ブックスタジオに棚を持たなくても、一冊だけ・一日だけの本屋さん気分が楽しめる。自分のおすすめをいろいろな人が見て、手に取り、話題にしてくれる。そこからまた本の話の輪が広がる。

ブックスタジオは、これだけの人を集める可能性をもった場所だということを改めて実感させられたはいくやさんの展示。まだまだたくさん知恵を集めて、もっともっとおもしろいことをやっていきたいなと思います。

さて、私(と子ども)が持っていった本ですが……何を持っていったかをお話しする前に、実は私、大きな“勘違い”をしていたのでした。

企画名の最後にあった<秋冬編>を勝手に読み違えて、「秋または冬に関する本をオススメするんだな」と思い込んでしまったのです(笑)。でもまぁ、何もテーマなく1冊の本を選ぶって、なかなか難しいですよね(言い訳)。

子どものほうは、なるほどと思わされる「冬」の本を選んでいました(今回は内緒、いずれまた)。そこで自分のほうは、秋のイメージの本を選んでみることにしました。

ということで、並べていただいた本はこちら。

寺田寅彦『柿の種』

友人の主宰する句誌「渋柿」の巻頭ページへの連載からはじまった、寺田寅彦の短い文章を集めた一冊です。アフォリズムというような鯱鉾ばった感じはなく、日々の生活で目にするもの・考えたことから綴られたものも多いさらりとした文章ですが、寺田寅彦の優れた観察眼の感じられる、とても味わいのあるものばかり。

冒頭に「この書の読者への著者の願いは、なるべく心の忙しくない、ゆっくりした余裕のある時に、一節ずつ間をおいて読んでもらいたいということである」と記されています。なかなかどうして、そんなゆとりをもって読書に臨むことができず、耳が痛いばかりです。

寺田寅彦の文章の魅力を味わうならば、こちらもぜひ併せてお読みいただきたいものです。

『寺田寅彦 科学者とあたま』(平凡社、STANDARD BOOKS)

コンパクトに、その人物の文章の魅力を味わうことができるこのシリーズ、いずれもおすすめしたいです。

さて、ちょっと脱線しましたが、渋柿、柿の種……ということで、これが私の勧める「秋」の本でした。

このようにあるテーマに基づいて本棚を見てみたら、きっとすぐに何冊かの本が見つかるだろう、そうだnoteのモチーフにもなるぞ……と思ったのですが、意外や意外、秋の本が見つからないのです……!

自宅の本棚、そしてすぐには出てこないけれど過去に読んだ本のリストなどをざっとみてみたのですが、これぞ「秋」という本がなかなか思い浮かばないのです。

昨年秋に、「ナリ間ルシェ」@欅の音terraceに出店した際に、隠しテーマとして秋、実りのようなことを考えていくつかは用意してみたのですが、ピタッとはまるかなと思えるのは次のものくらい。

市村久子・赤羽末吉『おおきなおいも』
(これはほんとにほんとに楽しい、魅力的な絵本。ぜひお手元に)

宮沢賢治『どんぐりと山猫』

まぁ、確かに絵本では、特にいろいろな場面の出てくるシリーズものなどでは、秋を描いたものもあるようですが、これぞとパッと出てくるものがそれほどなく……

昔話のモチーフを思い出していくと、三兄弟の末っ子が課題をクリアするパターンの物語である「ならなしとり」なんかが思い浮かびますが、これもそこまで「秋」らしいとはいえないし……

高橋三千綱『九月の空』は秋か(表題作の他、1冊には5月・9月・2月の一年間を追う物語が)。まさに主人公と同じ頃に読んだような、懐かしい本ですね。

なかなか思いつかないので調べてみると、村上春樹『羊をめぐる冒険』の物語の中心は9月後半からの秋だった。でも、だからといってこの小説が「秋」をイメージさせるかというと……個人的にはあまりその印象はありませんでした(あんまりちゃんと覚えていないからかもしれませんが)。村上春樹の小説にはどこか不思議な現実からの浮遊感、軽さみたいなものがあって、どうも現実の季節感などが希薄なのかも……などという考えが浮かびました(もっとも、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』では、「世界の終わり」の果て、雪の情景が思い出されますが)。

ノンフィクションものになると、「秋」、ますます思いつきません‥…

興味深かったのは、子どもの反応でした。

選んだ本と、オススメカードの裏の理由を見て「なるほど、おもしろい選択!」と思ってそのことを伝えたところ、「あとね、秋の本が見つからない」と言っていたのです。

冬についての本ならば、クリスマスにまつわるものをはじめ、雪とかお正月とか、冬のモチーフの現れる本はたくさんありますよね。

一方、夏のほうも、ジリジリと暑い夏、ひと夏を舞台にした物語はいっぱいあるし、プール、ひまわり、カブトムシやセミ、お化け・怪談などなど、こちらも典型的なモチーフに事欠きません。

では春はどうでしょう? 日本に住む人にとっては、やっぱり「桜」がありますね。ほかにもさまざまな花、冬が明けての春の訪れの喜びを描いたものがたぶんすぐ浮かぶ。また、春は学校ほか新生活の象徴でもあるので、舞台としてイメージしやすい気がします。夏・冬ほどとがってはいませんが、特徴的なモチーフがあって、それにまつわる本があるように思います。

では、改めて秋。実りの季節。だから栗やいもなどをモチーフにした絵本などは確かにあるかも。でも、私たちの暮らしに欠かせない米・稲の実りについては、収穫の秋だけが特別というよりも、春からの一連の流れに意義がありそう(だから、農業の写真集とかもあるけれど、秋というよりは通念、四季のイメージ)。

運動会、遠足、芸術、食欲、読書……「◯◯の秋」とはよく言ったものですが、これは実は「何でもあり」でもあるわけですよね。気候がよく、山海の実りは豊かで、さまざまな営みに充実して取り組める。つまり、秋はとてもよい豊穣の季節。だから翻って、「これぞ秋!」というイメージを絞り込めないのかもしれません。

……などと勝手に妄想してみましたが、単純に、自分の通ってきた本の偏りによるところがいちばんの理由だと思われます(笑)。

そんなわけで、ふだんはいろいろな本を紹介するために書いているブログですが、今回は「すみません、探したけどあまり見つかりませんでした」というオチ。よかったら、皆さんにとっての「秋」の本、ぜひおすすめしていただければ嬉しいです。

では、ブックスタジオにてお待ちしております!(お店番ではありませんが、明日もまた、お店に行こうと思います)

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