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「for you」思考は精神論ではなく、強力な「マーケティング戦略」である

こんにちは、酒居です。
先日社内メンバー向けに話した「for youを考える」というスライドが好評だったのでnoteでも書こうかと思います。

簡単に自己紹介させていただくと、ぼくは今、ユーザベースにおいてSPEEDAやFORCAS、INITIALなどのB2B事業における統合マーケティング組織を担っており、また一昨年から経済情報に特化した動画配信事業「NewsPicks Stage.」を立ち上げ、事業責任者としてプロダクト開発から映像制作・営業にいたる領域を仲間と一緒につくっています。

今回の記事では、マーケティング領域における話ではあるものの、ぼくが事業経営をする中で、改めて重要に感じた視点について書きたいと思います。

「for you」思考とは

ぼくたちNewsPicks Stage.事業やマーケティング組織では、普段の施策や開発における判断時に、「それって本当にfor youなんだっけ?」「for youではなくfor meになってないかな?」という会話をよくします。

「for you」は日本語に直訳すれば「あなたのために」ですが、意図するところは「相手の立場になりきって考え、実行する」ということです。

for youなんて当たり前じゃないのか?

「相手の立場になって考えるなんて当たり前じゃないか?」と仰る方もいると思います。for youはマーケティングだけでなく、営業やCS、事業全体で当然求められることだと思います。

しかし、当たり前の概念だからこそ、あえて「意識的に」考えることが重要じゃないかと考えています。当たり前の概念は一見ないがしろにされがちです。
また、自分ではfor youに考えてアウトプットしていると思っていても、実際に相手への伝わり方が「for me(自分たちよがり。自分たちに都合の良いようなもの)」になってしまうことは往々にしてあります。実際のところ、当たり前のことを当たり前にすることほど難しいことはなかったりします。

また、この概念は「顧客思考」や「顧客中心」など他の言い方もありますが、一般用語ではなく、自分たちとして理解できる言葉、日常でも使って判断軸になる言葉を使いたいと考えています。

for youはホスピタリティ精神なのか

また、for youを顧客へのホスピタリティやサービス精神、つまり「精神論」として考えるケースもあります。それ自体が悪いというわけではないですし、高級ラグジュアリーホテルのようにそれ自体を事業戦略や競争優位性に直結しているケースもあります。

しかし、多くの場合において、「お客様には丁寧に接しなければいけない」「お客様に喜んでいただくことが大切だ」という礼儀作法やマナーとしての概念、場合によっては形式的なものとしてだけ存在するケースが多いのではないでしょうか。そのことを否定するわけではありませんが、単に表層的な儀礼として留めてしまうには、とてももったいない思考だと思います。

顧客に視点が至らない事象は無自覚にありうる

さらに、顧客思考が大切と思いながらも、結局は顧客と直接コミュニケーションをとったり、自身で体験をすることなく、机上のペルソナのみで考えてしまうケースも多いのではないでしょうか。製品のみを見て単なる便益訴求をしてしまう、またはただ広く集客することだけを意識して曖昧な解像度のままで施策を実行してしまう、というケースもあるかもしれません。

ぼくは2020年1月より統合マーケティング組織を立ち上げ、それまでの事業だけでなく、複数の事業領域を担うことになりました。その当時、他の事業マーケを担当するにあたり感じた違和感がありました。それがfor youの考え方です。

前提としてメンバーは皆ユーザベースのバリューでもある「ユーザーの理想から始める」を大切にしており、ユーザーの方々に対してより貢献していきたいと本気で考えている素敵なメンバーばかりでした。一方で、その「for you」は、あくまで「お客様のために役に立ちたい」というホスピタリティ精神にとどまっており、また顧客と直接人間関係を築く機会もあまりなく、「おそらくこういう人たちがいるだろう」というイメージを前提にしているように感じました。
人に喜んでもらいたいと考えられることは本当に素敵なことです。一方で、事業のマーケティングを担っている以上、いかにその想いと事業成長を直結させられるか、そしてその両者を実現できるか、それが重要だと思います。

for youとは強力な「マーケティング戦略」である

ここまでfor youについての色々な認識について話してきましたが、結論から言えば、「for you」を考えることは単に精神論として自分たちが在りたい姿、儀礼的なものにとどまるものではありません。
「顧客の立場になりきってニーズや課題を思考し、それに向けたアクションを実行する」ことは「強力な戦略」となります。

そのことを考えるに際し、3つのケースを紹介したいと思います。

Case 1:全然違う、ディズニー映画『ベイマックス』の原題

まずとりあげたいのが、映画「ベイマックス」。ディズニー映画歴代人気ランキングにも上位に挙げられることが多い人気作品です。

赤を基調とした温かみのある色彩で、ベイマックスが主人公を優しく抱きしめるポスターは、この絵からこの映画がどのような映画体験を与えてくれるのか、自然と想像ができる訴求になっています。

ところで、このベイマックスの映画の「原題」をご存知でしょうか?
「え、ベイマックスがタイトルじゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんが、実はこの映画の原題は異なります。

それがこちら↓

「Big Hero 6」

ネタバレは避けますが、原題はベイマックスを含む登場するアクションヒーロー&ヒロインの6人に焦点をあてたタイトルです。ポスターもその6人の活躍をイメージさせる演出になっています。
日本で展開している打ち出しとは、タイトルや雰囲気も全然違いますね。

なぜこれだけ違うのでしょうか。
あくまでぼくの仮説ですが、これは日本とアメリカにおける国民性やトレンドから来るマーケティング戦略の違いだと考えています。

ベイマックスの映画が全米で公開されたのは2014年。アメリカでは2008年にスタートした『アイアンマン』を皮切りにマーベルコミックの映画化が加速しました。
元々アメリカではヒーローコミックが人気だった土台がありつつ、そのような追い風もあって、ヒーローに焦点を当てたマーケティング・プロモーションがとられたと考えられます。(ちなみにディズニーは2009年8月、その母体となるマーベル・エンターテインメントを約40億ドルで買収しています。)

一方、日本の状況はどうか。当時でもマーベル人気は始まっていましたが、それよりも日本人の国民性を考慮した際に、ベイマックスの持つ愛らしさ、キャラクター性に対する興味関心が高く、ストーリーとしてヒーローアクションをメインにするよりも、兄弟愛、ロボットと人との友情の方が、共感を生みやすいテーマであるため、見せ方として訴求を大きく変えられたのではないかと思います。

つまり、「国民性」や「エリアにおけるトレンド」という観点から「for you」を考え、打ち出し方を大きく変えた例と言えるのではないでしょうか。結果、ベイマックスは日本でも大人気キャラクターとなり、映画だけでなく東京ディズニーリゾートにもアトラクションがあるほどの人気を博しています。

それにしても、映画作品の内容は全く同じで、タイトルやプロモーション方法でこれだけ印象が変わるというのはとてもおもしろいなと思います。

ちなみに、ディズニーはベイマックスだけでなく、他の映画作品でも日米でタイトルや訴求を変えた作品が多いです。映画の現代と邦題を比較して、「なぜ、タイトルをあえて変えたのか?」を考えることが、「for you」の意図やマーケティング戦略の仮説を考える上で良いワークになると思います。

Case 2:「McDonald's」と「マクドナルド」

次のケースは、世界的ファーストフードチェーン「マクドナルド」。

日本国内でも誰もが知っているファストフード店ですが、今回注目するのはマクドナルドの「名称」です。

McDonald'sを英語で発音すると「マクダーナルズ」になります。つまり、「マクドナルド」とは自然な読み方ではない言葉です。
では、なぜあえてそのような言葉に言い換えたのでしょうか。

これは、マクドナルドの日本法人創業者である藤田田(ふじた でん)氏の戦略にあります。当時McDonald'sを日本で展開するにあたり、藤田氏はアメリカ本国に対して、「日本人にマクダーナルズの発音は難しい。日本ならでは発音しやすく覚えやすい言い方にするべき」と強く主張し、了承されたものらしいです。※1

「その地域の人がどう感じるか、どう伝えれば商品を愛してくれるのか」を徹底的に考える。これもfor youをマーケティング戦略として徹底されている例だと思います。
for youの思考は製品やサービスが完成してから施策段階で考え始めるものではなく、ネーミングを含めたそもそもの土台から必要であり、活用次第で事業成長を大きく支える要素となります。
尚、アメリカ本国のMcDonald'sチェーン創業者のレイ・クロック氏もネーミングを重視された方です。映画『ファウンダー』はレイ・クロック氏の物語で、その映画内でも語られています。

マクドナルドの成功はもちろん名称だけが全てではありません。しかし、製品や店名、プロジェクト名などネーミングをfor you思考で考えることは、事業を大きく飛躍させられる可能性を持つ強力なマーケティング戦略でしょう。

ちなみに、同様のケースとして、アップル社の「iPhone」もその一つでしょう。「iPhone以前にも同様の機能を持つ製品は存在した。スティーブ・ジョブズ氏がすごいのは、それを『小さなパソコン』と表現せずに、誰もが愛着がある『電話』と言い、抵抗感なく浸透させたこと」という話はよく言われる話です。

他にもネーミングを変更することで大人気になった商品は枚挙にいとまがありません。for you思考で自社製品のネーミング戦略やマーケティングの施策名称を考えていくことの大切さを改めて実感します。

Case 3:画期的なゲーム機「SEGA ゲームギア」

最後にとりあげるケースは「ゲームギア」です。

参照元:https://www.sega.jp/history/hard/gamegear

「ゲームギア」というゲーム機をご存知でしょうか?
セガ・エンタープライゼスが1990年に発売し、かつて世界販売累計1,400万台を誇った携帯型ゲーム機です。

画期的な性能を持つゲームギア

ゲームギアは、任天堂の「ゲームボーイ」に対抗して開発されたもので、性能面では多くの点でゲームボーイを凌駕していました。

例えば、当時ゲームボーイがモノクロ画面に対して、ゲームギアは4096色同時発色のカラー液晶パネル、つまりカラー画面を実現していました※2。これは国内初の起用でもあり、さらに別売りのTVオートチューナーを接続すれば、液晶カラーテレビとしても利用できるという驚きの製品でした。重量としても、当時のゲームボーイが約300gに対して約500gと重いものの、携帯性としてそこまで負荷のかからない重さに抑えられています。

まさしく画期的なハードウェアです。こんなすごい製品なのに、なぜ生産終了し、世の中から消えてしまったのでしょうか。
その要因として、ゲームボーイに市場の先行者メリットがあったことや、ゲームボーイがサードパーティ含めてゲームソフトの拡張が進んだことに対して、ゲームギアが魅力的なソフトウェアを集められなかったこと、当時のセガが据え置きゲーム機『セガサターン』に開発を集中していく方針をとった等、さまざまな要因が考えられます。何か一つの要因ということではなく、複合的な要因であると思います。

しかし、その中でもぼくが注目したい要因は「for you」のマーケティング戦略です。

ゲームギアのマーケティング戦略

ゲームギアの発売当時、ゲームボーイはすでに出荷台数が300万台を突破していました。それに対抗するべくゲームギアがとった開発方針が、「1.カラー」「2.パーソナルディスプレイ」「3.アフター・サムシング」というコンセプトだったようです。※3

「1.カラー」はモノクロ画面との明確な差別化戦略であり、製品としての魅力を視覚的にわかりやすく訴求できるものです。「2.パーソナルディスプレイ」は当時テレビが一家に一台という時代であり、親や子どもがテレビを独占しなくてすむようにできるようにするというもの。だからこそTVチューナーパックやAV端子が備わっています。そして「3.アフター・サムシング」。当時のビデオカメラのビューファインダーが白黒だったので、ゲームギアに端子で接続すればカラー液晶で楽しめる。つまり、旅行やイベント行事の後の映像体験をより良いものにしていくということだと考えられます。

つまり、ゲームギアがとった開発方針は、「カラーという体験の優位性」と「ゲームに閉じないテレビとしての拡張性」であり、ゲームボーイとの徹底的な差別化戦略だと言えるでしょう。

マーケティングといえば、製品をどう見せるか、訴求するか、集客していくかなど、いわゆる伝達(デリバリー)の部分に注目されがちですが、根本はプロダクトをいかに設計するか、どのようにビジネスモデルを構築するかが、重要なマーケティング思考であり、顧客に対する「for you」の戦略です。

ゲームギアはゲームボーイとの差別化という点では、性能面で明確な違いがあり、便益面でもいろんな優位性がありました。では「for you」の「you(顧客)」という観点ではどうでしょうか。

1990年代当時はゲームをするのは子どもがほとんどであることから、子どもをメイン対象にしていることはそうでしょうが、「1.カラー」という観点では、より面白いゲーム体験を求めている子ども、発売当時すでにゲームボーイが出荷台数300万台を超えていたことを考えると、携帯ゲーム機を追加で購入できる世帯が対象になりえます。「2.パーソナルディスプレイ」や「3.アフター・サムシング」というマーケティング戦略から考えると、子どもだけではなく大人も対象にし、年齢層を含めてより幅広い層へのマーケット拡張を意図されたのかもしれません。
しかし逆を言えば、結果論ではありますが、これは誰向けの商品なのか、for youのyouが誰のことなのかが曖昧になってしまう、というデメリットにもつながったのかもしれません。

比較を活用したテレビCMを展開

ゲームギアのマーケティング戦略はプロモーション方法にも表れています。

ゲームギアのキャッチコピーは「色いっぱい、だからおもしろい」。
テレビCMではイッセー尾形氏を起用し、白黒の世界とカラーの世界を対比させ、カラーの世界にいる子どもは楽しそうにゲームをしていて、白黒の世界にいる子どもは楽しくなさそうにずーんと下を向いている。明らかにゲームボーイとの違いを分かりやすく対比させたもので、日本では珍しい喧嘩上等なCMでした。(ぼくはまだ小さかったですが、すごいインパクトで鮮明に覚えています)

その時のCMがこちら↓(YouTubeでありました)

つまり、徹底的な性能面での差別化をプロモーションでも訴求しています。

一つの大きな欠点

これだけ魅力的なゲーム機であるゲームギア。では、なぜ現在消えてしまったのでしょうか。その大きな一つの要因が、徹底的なゲーム性能・体験の優位性の追求によってもたらされた、負の面が大きく影響していると言われています。

それは「バッテリーの持ち時間」です。

ゲームギアは優れた性能を誇る一方、それを支えるために、多くのバッテリーからのエネルギーが必要でした。そのため、単3乾電池6本で稼働が「3時間」という短時間しか持たないという大きな欠点がありました。(この欠点を補填する対策をセガも用意していました。電源アダプターを接続しておけば、乾電池がなくても使用でき、また充電バッテリーパックも別売りされていました。)
しかし、この欠点は当時のゲーム環境において、致命的な側面があったようです。

1990年代当時、ゲームは子どもの遊びであるという認識が強く、大人がゲームをすることは稀でした。その分、大人のゲームに対する理解も弱く、家でゲームをしていると「ゲームばっかりしてたらダメ」と叱られるシーンも多かった時代です。つまり、家でゲームをしていたら叱られる子どもはどうするか。「ゲーム機を外に持ち出して遊ぶ」ということが増えていきました。

すると、電池の持ちの悪さは致命的になります。さらに、毎回電池を交換することは金銭的にも厳しい。そうなると、どうしてもゲームギアでは遊びたくても遊べない、というケースも増えてきたのではないでしょうか。

つまり、当時の顧客である子どもの要望、「外で友達とゲームで遊びたい」と、ゲームギア提供側の戦略がマッチしなかったということが考えられます。これはfor you思考が顧客のニーズを満たしきれなかったという可能性があるのではないでしょうか。

ゲームボーイがあえて「捨てた」もの

参照元:https://www.nintendo.co.jp/n02/dmg/hardware

では、一方のゲームボーイのマーケティング戦略はどうだったのでしょうか。

ゲームボーイが発売されたのは1989年。実は開発された段階で、任天堂でもすでにカラー液晶画面は技術的には開発可能だったようです。しかし、電池の持ちを考えた際に、バッテリーの負荷がかかりすぎることが技術的な課題であり、ゲームボーイはあえてモノクロ画面にすることで、バッテリーの持ちを優先させたらしいのです。

その持ち時間は、ゲームギアが乾電池6本で約3時間であることに対し、アルカリ乾電池4本でなんと約35時間※4。圧倒的な電池の持ちの良さでした。
結果的に、外に持ち出しても遊べますし、家のどこでも遊べる。さらに電池の交換頻度も低いので経済的でもある。

当時の顧客(子ども)のニーズを考慮し、意図的にカラーという選択肢を捨て、最も重視されるであろうニーズに焦点を当てたことで、顧客からの支持を掴みました。(その後電池消耗の課題が解決されたタイミングで、1998年にゲームボーイカラーが発売されました)

プロモーションでもfor youに基づくストーリーを徹底

ゲームボーイのfor youに基づくマーケティングストーリーは、プロダクト開発だけでなく、プロモーションでも徹底されています。

当時のテレビCMがこちら↓

ゲームギアがキャッチコピー「色いっぱい、だからおもしろい」と、性能の差からくる体験に焦点を当てているのに対して、ゲームボーイのキャッチコピーは「君となら、どこまでも」。CMも、子どもたちが外で楽しそうにゲームボーイで遊んでいるシーンを演出されています。

当時のポスターでも同様のようです。

for youの違いが雌雄を決した

つまり、ゲームボーイは「外で友達と遊びたい」という子どもの強いニーズ(潜在的ではあるも)を最重要のテーマとおき、徹底的にfor youな製品開発と訴求をしました。その際、犠牲にしなければいけない性能やメッセージがあったとしても、あえてシンプル化することで、その要望を満たす。そのfor you思考の徹底が功を奏した側面はとても大きいのではないかと思います。

for you思考で顧客のニーズ・課題を理解し、それをアウトプットに徹底的に落とし込む。それが事業成長に大きくつながることはこのケースからも感じられます。

尚、ここまでゲームギアがなぜ消えてしまったかという話をしていますが、決してゲームギアをディスりたいわけではないことは付け加えておきたいと思います。

ゲームギアが販売されていた当時、ぼくはまだ幼少でしたが、テレビCMでみるカラー画面のインパクトは強く、お小遣いをもらえる年でもなかったので、近くのデパートに連れて行ってもらう時は毎回おもちゃ屋にダッシュし、店頭で使わせてもらえるゲームギアを遊びにいっていました(笑)その画面の鮮やかさとスピード感ある映像は、当時のぼくには近未来的で憧れのゲーム機でした。

その自分自身の思い出からも、必ずしもゲームギアが「for you」を体現できていなかったわけではないと思います。しかし、後発のゲーム機として、市場を継続的に開拓するためには、より強いニーズ、かつ広い顧客層へ訴求するマーケティング戦略が求められたのかもしれないと思います。

for youとは事業成長をブーストする強力な「マーケティング戦略」である

ここまで3つのケースを例にして、「for you」を考えてきました。

「for you」というと、ホスピタリティやサービス精神の観点が強調されたり、施策の選定時の参考値のようなものとしてとらえられ、直接的な事業成長やビジネス成果とはリンクされないように感じてしまう方もいるかもしれません。

しかし、上記であげたケースを見ても、「for you」で考えることは事業戦略を実行する上で不可欠な思考だと言えるでしょう。
「誰」に対して自分はビジネスをするのか、マーケティングを実行するのか、その人は何を求めているのかを徹底的に考え、戦略や戦術に落とし込み、施策まで一貫させる。

for you思考で、仮説をつくり出し、仮説の精度を徹底的に磨く。それが事業の飛躍をつくる根幹だと思います。つまり、for youとは、企業や組織として在りたい姿勢という内面性にとどまるものではなく、強力なマーケティング戦略であり、経営戦略であると言えます。その戦略が根幹となり、プロダクトが指向され、ビジネス全体を描くものとなります。

おわりに:どこまでいっても相手にはなりきれない

社内で共有したスライド

相手の立場になって考える。というのはあらゆるコミュニケーションにおいて必要な考え方でもあります。しかし、言うは易し、行うは難し。

実際には、本当に相手になりきることはできません。どんなに考えても、相手の状況・思考方法・感情すべてを理解しきることは不可能です。
ではなぜ、それにもかかわらずfor youを考えるのか。

ぼくは、たしかにどこまでいっても相手にはなりきれないとは思いますが、しかし、相手に近づこうと思考し努力することで、限りなく相手に近づき続けることはできるんじゃないかと思っています。

18世紀を代表する哲学者であり、近代哲学の祖ともいわれるカントが「人間はモノ自体には到達できない」ということを言っています。また、ライプニッツが唱えた「無限小」という概念は、0に限りなく近づいていくという数学的な考え方があります。ちょっと違う観念でもありますが、イメージとしてはそれに近いことなんじゃないかと思います。

つまり、for you思考とは、決して届ききらない相手という立場に向かって、できる限り漸近的に向かう行為なんじゃないかと思います。

そうやって限りなく近づこうとすることに意味があり、些細な距離の差が顧客理解にとっての大きな違いを生み出すものになるんだと考えています。だからこそあえて繰り返し意識的に考えることが大切であり、思考とアウトプット両者に一気通貫で求められる考え方だと思います。

ということを考えると、このnoteの最初に「for youは精神論ではない」と書きましたが、戦略であると同時に、戦略を貫き実現するために求められる姿勢・精神でもあるのだとやっぱり思います。

ぼくたちはこの「for you」を「User Driven Marketing」という言葉で当初戦略として位置づけていましたが、今ではぼくたちの組織の重要な価値観(バリュー)になっています。戦略というロジックだけでなく、価値観という感情の両輪を回すことで、目指すべきカタチが実現できると考えています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回はこれくらいで失礼します。ではでは。


参考記事
※1 藤田田『ユダヤの商法』(https://amzn.asia/d/4tzjUke
※2 https://www.sega.jp/history/hard/gamegear/
※3 『“SEGA CONSUMER 30th ANNIVERSARY BOOK”ゲームギア編/“生みの親”である矢木氏が開発秘話を語る!』(https://www.famitsu.com/news/201308/13038313.html
※4 https://www.nintendo.co.jp/n02/dmg/hardware/gbtaihi
・『時代を先取りしすぎた携帯ゲーム機「ゲームギア」 任天堂のライバルだったセガの“象徴”』(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9b8f31181b3d6f55d30fa7a5865377efc142f69b


こちらの記事もどうぞ↓

・for youをイベント・コミュニティマーケティング領域で考える↓

・社内メンバー同士でのfor youを考える↓

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