見出し画像

【エッセイ】自販機の30円

今年の7月頃の話。私は夕方ウォーキングに出た。

ウォーキングの際は、いつも近所の自販機で大きめのお茶を購入し、飲みながら歩くことにしている。

その日も自販機まで歩き、いつもと同じようにお茶を買う。お茶の値段は140円。ちょうど小銭があったので、100円玉1枚と10円玉4枚を入れて、ボタンを押す。

出てきたお茶を取ろうと視線を下げると、おつりが出てくる場所に、何か入っているのが見えた。

カバーを開けてみると、10円玉3枚が入っていた。おそらく誰かが取り忘れたのだろう。

ここで考える。「この30円をどうすればいいのか?」。

自分の財布に入れるわけにもいかない。交番に届けるのがベストかもしれないが、額の少なさの割りに作業内容が面倒だ。

かといって、そのまま放っておいて、自分勝手な人に飲み物を買う時の足しにされるのも癪である。

一旦財布に入れて、コンビニの募金箱に入れるのはどうだろうか?いやいや、そんなことをしてしまうと、100%「偽善者」になってしまう。

結局、私は30円を無視して歩き出した。コースはいつも決まった道を歩く。歩く時間はおよそ90分。歩数にすると約1万歩になる。

ペットボトルのお茶の残りが少なくなる頃、再び近所の自販機に戻ってきた。お釣りの所を見ると、まだ30円があった。90分経ったというのに。

まあ、お釣りを取り忘れた人からしても「財布の中身が30円足りない!」と気づいて、自販機まで戻るのは、さすがに無理な話だろう。

私は再び30円をそのままにして、自宅へと戻った。

翌々日、外出する時に、その自販機の前で自転車を停めた。30円はもう無かった。きっと誰かに使われたに違いない。

去年のある日、その自販機でお茶を買った時、当たりが出てもう一本お茶をただでもらえたことがある。その時、「あの4桁の数字って揃うんだ」と思った。

今年はまだ当たっていないが、「お釣りが出てくる所に小銭がある」という体験はあった。「自販機でよくあることのようでないこと」が、1年に一度起こる自販機なのかもしれない。

募金しとけばよかったな。

この記事が参加している募集

散歩日記

記事を読んで頂き、ありがとうございます。サポートして頂けるとさらに喜びます。