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アフィリエイト狂騒曲

前回の記事(文章を書く、ということ)

いまから10年ほど前のことである。

当時、とある会計の資格の勉強をしており、それに首尾よく合格することができたため、そのときの体験を書いてブログにまとめることにした。そのときはブログサービスを使わず、自分でサーバーを借りたりと、それなりに色々と工夫して作り上げた記憶がある。

そうやって作ったホームページの問い合わせフォームにある日、広告会社から連絡が入った。内容はというと、私の取得した会計の資格を取るための専門学校の広告を載せてほしい、というものだった。

私としては特に断る理由もなかったし、大した手間でもなさそうだったので、2つ返事で引き受けることにした。とはいえ、そんな広告なんか貼ったところで反響などないだろうと思っていた。なぜなら私はその専門学校の卒業生ではなかったし、したがってそこがどのくらい優れたサービスを提供してくれるのかも判断のしようがない。分からないことは書けない。なので、自分なりの勉強方法や学習の心構えを解説した各ページの最下部に、資格取得を考えている方はこちら、といって専用のリンクを貼り付けるという、しごく簡単な作業をおこなった。

リンクを貼ると、広告会社が用意している専用ページが使えるようになる。そこを見れば、いつどのくらいの人が広告サイトのリンクをクリックしたのかが分かるようになるのだが、意外なことに毎結構な人が広告リンクをクリックしており、その中のいくつかのクリックから実際に専門学校への体験入学依頼が発生していた。この「発生」というのは、Web広告の業界用語みたいなもので、要はこの発生に従って報酬、つまり現金が振り込まれるという算段だ。

このときの契約によると、たしか発生1件に対して数千円が振り込まれるという約束になっており、毎月の発生件数をまとめて月末に報酬が支払われることになっていた。自分の場合、毎月数件から多いときは10件以上の発生があったため、コンスタントに数万円の収入が銀行口座に振り込まれることになった。もともと趣味で作ったホームページの一角に、ただ広告のリンクをはるだけで臨時収入が発生する。いや、発生は毎月コンスタントに起こっていたので、もはや臨時ですらない。れっきとした副業収入だ。この事実に驚愕した私は、Web広告業界について本格的に調査をすることにした。

まず分かったことは、このようにブログに広告リンクを貼って収入を得ることが「アフィリエイト」と呼ばれていることであり、そのような活動をおこなっている、通称「アフィリエイター」がすでに数多く誕生しているということであった。アフィリエイターもトップクラスになると毎月数百万、果ては1千万円を超える売上を上げている人たちもいるということであり、一攫千金を狙う猛者たちがしのぎを削っている世界のようだった。一方で私のような趣味でやっているブログでもやり方によっては毎月数万円程度の収入を生むこともできるため、副業ブームもあって主婦やサラリーマンに向けた解説サイトがすでにいくつも存在していた。

こうした情報をこまめに集めたあとは、本格的にアフィリエイト活動を始めることにした。まず既に報酬を生み出しているブログの内容を強化し、より効果的なリンクの貼り方を研究した。内容が分かりにくい場合はページを分割したり文章を追加したりして、ユーザー目線でのサイトの導線を工夫したりした。またこのブログサイトとは別のサイトも新しく作りあげ、そちらには別の広告リンクを貼ることにした。

実はアフィリエイト業界はそのときから数年間ですさまじい勢いで拡大していくことになるのだが、当時私がやり始めた頃はブームに火がつくちょっと前くらいの段階であり、アフィリエイトを初めた人たちのコミュニケーションというのはどこか牧歌的な、お互い切磋琢磨しあっているような、独特の連帯感のようなものがあった。そこではお互いの毎月の報酬金額を報告しあい、あるときは効果的なアフィリエイトの方法について意見が交わされたりもした。もちろん、中にはアフィリエイトのやり方を高額な価格で売る(通称「情報商材」と呼ばれている)人もおり、あるいはその商材を売るためのリンクをブログの至るところに張り巡らせているような人もいて(つまりアフィリエイターを狙ったアフィリエイトである)、熱気と混沌が入り混じった何とも言えない独特の雰囲気が感じられた。

アフィリエイト業界には独特の習わしがあって、毎月の報酬金額をケタ数で報告しあうというルールがあった。毎月一万円以上稼げると5桁、十万円で6桁、そして百万円を超えると7桁プレーヤーといった感じであり、7桁超えると業界でも一目浴びるといった具合だ。私の場合は扱っている商材が特殊だったこともあって、最初から5桁を稼ぎ出すことができていた。この桁数によってランク付けするという風習は実は良くできていて、4から5、5から6といった桁が変わる瞬間というところに一つの大きなハードルがあるようであった。私の場合、次に目指すべきは6桁ということになるが、これはなかなか一筋縄に行かなかった。

(続き)⇒ 仮想通貨で狂い咲き。

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