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仮想通貨で狂い咲き。

前回の記事(アフィリエイト狂騒曲)

アフィリエイトという副業は簡単に手が出せる一方で、売上を伸ばそうとなると途端に難しくなる。文章を書く能力さえあれば誰でも始められるから、参入障壁は極端に低い。それでいて売れる商材は限られているので、すさまじい競争が繰り広げられる。私はラッキーパンチでたまたま会計の資格というニッチな商材を見つけられたので毎月数万円くらいの売上を上げることができていた。しかしさらにその上を目指すとなると、何をやったら良いのか途方に暮れるばかりであった。そんなアフィリエイト業界であったが、2017年にとんでもない商材が誕生した。仮想通貨である。

新しい物、珍しいものが好きだった私は、2017年の頭くらいから少しずつ仮想通貨の取引を始めていた。といっても金額としては数万円程度のごく僅かな量であって、どちらかというと仮想通貨の取引そのものや、暗号化の仕組みといった新しい概念に魅力を感じていた。この魅力を多くの人に伝えようと思い、いつものようにブログ記事にまとめ始めたのがその年の春くらいのことである。その後、仮想通貨の取引所がアフィリエイトを始めたので、いつものように記事の終わりに取引所サイトを紹介するリンクを貼り付けることにしたのだが、結果的にこれが大当たりした。

まず仮想通貨そのものがすさまじいバブル相場になった。年初に十万円程度だったビットコインが、年末を迎えるころには百万円を超えた。それに伴って、すさまじい仮想通貨ブームが起こり、私のサイトを経由して仮想通貨の取引所に登録する人もチラホラと現れ出した。すごかったのは成果報酬で、取引所によっては1件あたり1万円を超えるものもあった。これはアフィリエイト報酬としては桁違いの金額である。つまり、そのくらいの報酬を支払ってでも会員数を増やしたほうが得をする、というのが運営会社の考えであった。取引所は日本円と仮想通貨の取引の際に手数料の利ざやを稼ぐことができるので、取引数が増えたら増えた分だけノーリスクで収益を上げることができる。少しでも他社より有利なアフィリエイト報酬の条件で自社を紹介してもらうように、報酬がつり上がっていったのだった。一方で個人が運営するブログは、仮想通貨を始めてみたいと思う人にとって親しみやすい存在であり、入り口としてちょうど具合の良いメディアであった。アフィリエイターと仮想通貨取引所の利害関係が一致した瞬間である。

仮想通貨の異様な熱気に包まれながら、私の1ヶ月の収益はついに6桁、つまり10万円を超えた。売上の勢いは留まるところを知らず、2018年の年明けになっても収益は発生し続けていた。このままいけば一気に7桁プレーヤーになれるかも、そうしたら仕事をやめて本格的にアフィリエイトの世界で食べていくこともできるのでは、などという考えが一瞬頭をよぎる。そう思っていた矢先、冷水を浴びせるような大事件が起こった。取引所の一つがハッキングの被害に合い、数百億円もの仮想通貨の流出を起こしてしまったのである。

こうなってしまうとアフィリエイトどころではない。高額報酬をうたっていたこの取引所は一切の取引を中断、アフィリエイトのプログラムも中止となってしまった。そのときの私のアフィリエイト収益のほとんどがこの取引所からのものだったので、収益は一気に落ち込んでしまったのである。この事件をきっかけに、というわけでもないとは思うが、仮想通貨の価格も2018年の1月にピークを迎えたあとは一気に下落、文字通りバブルが弾けた飛んだ形となった。

なお後日談ではあるが、この取引所は数百億円もの流出被害を起こしてもなお経営破綻することもなく、利用者の口座はすべて保全された。つまり、それだけの被害額を補填するだけの現金が、彼らの銀行口座に眠っていたということになる。万を超えるアフィリエイト報酬を支払っても余りあるほどに、取引所のビジネスというのは稼げるのだ。そう考えると、たかだか数万円のアフィリエイト報酬のために提灯記事を書き続けるアフィリエイターというのは、さながらサバンナでライオンが仕留めた獲物の食べ残しに群がるハエのような存在なのかもしれない。

さて私のその後のアフィリエイト遍歴であるが、仮想通貨ほどのインパクトのある商材に巡り合うことはできず、収益は緩やかに右肩下がりとなっていくだけであった。アフィリエイトという副業が注目されるにつれて競合ページが増え、自分のサイトの検索順位はみるみる下がっていった。もともと趣味で始めて作ったブログに、おまけのような形で広告リンクを貼っただけのサイトなのであるから、プロが本気で作ったWebメデイアにかなうわけがない。唯一の稼ぎ頭であった会計のブログも少しずつアクセス数が下がり、ついに収益がゼロになったところで、サーバーの契約更新を打ち切った。そのころには私のアフィリエイト熱もすっかり冷めてしまっていたので、ちょうどよい辞め時だったと思う。したがって、私の書いたアフィリエイト記事の痕跡は、もはやWebのどこにも残っていない。

⇒(続き)ブログ収益化における「営業モデル」と「作家モデル」の違い 

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