強くてゴメン!

俺がまだ15歳だった頃。中学生だった俺はサッカーとケンカに明け暮れた日々を送っていた。
中学3年のある日。小田原からひときわでかい男が転校してきた。
その男の名前は木下。
体もデカイが声もでかくて、田舎っぺ大将みたいな坊主頭をしていた。
俺は「なんか変な奴が来たな」と思っていた。
それから半年ほど経ったある日。木下が俺に文句をつけてきた。
「磯野さー、もう少し真面目にやれよ。みんな迷惑なんだよ」と。
頭にきた俺は「なに?今なんか言ったか?」と聞き返した。
すると奴は同じ言葉を更に繰り返してきた。
お前、誰に言ってんのかわかってんだよな」と言ったら
奴が「お前に言ってんだよ!」と言い終わる前に
俺の右ストレートが奴の顔面に炸裂していた。
よろけた木下は「やるならやってやんぞ‼︎」と殴りかかってっきた!
奴は無茶苦茶にパンチを繰り出してきたが、俺は全てのパンチをかわし、
顔面にワンツーパンチを食らわしたが奴は倒れない。
身体がでかい分、細身の俺のパンチでは完全に倒すことが出来ず、
贄を切らした俺は奴の腹を思い切り蹴り上げた! 
すると木下は後ろに吹っ飛んで尻餅をついた。
その顔をめがけて更にキックを2、3発ぶち込み、
トドメは顔面に渾身の右ストレート。
血反吐を垂れ流しぐったりした木下は、
「もう勘弁してくれ!俺が悪かった。ごめん!」
「ふざけるな!詫び入れるなら土下座しろ!」
すると奴は俺を鋭い眼光で睨みつけた。
「何だその目は!まだ懲りてないようだな!」
再び顔面にサッカーキックを思い切り入れた。
その反動で奴の後頭部は壁にガツンとぶつかり、さらにうな垂れた。
「……許して…くだ…さい…」
「だったらサッサと詫び入れんかい!」
木下は巨体をゆっくり起きあがらせながら、両手を床につき、
「…申し訳ありませんでした…」
とクラス中の奴らのいる前で土下座をしたのだ。
「…今度からは相手をよくみて喧嘩せい!次は殺すぞ。」
「わかりました…すみませんでした…」
シーンとなった教室を冷静になってよく見回してみれば、
女子は全員反対側のコーナーに集まり固まっていた。
誰も一言も発しない。
「…ヤバいな。教室で殴り合いをしたのはちょっとまずかったか。すこし派手にやり過ぎたか…」
俺はそんなことを思いながら黙って席についた。
すると…
「……磯野すげ〜カッコいい!見とれちゃったよ。お願い弟子にして!」
と同じクラスの内田が言ってきた。
「なんだお前!何言ってんだ?ふざけんな!」
「だって一発もくらってなかったじゃん!俺すげ〜感動したんだ。」
「…うるせぇな。むこうに行ってろ!てめぇもぶっ飛ばされてぇのか!」
内田は少しびっくりした顔をしてすごすごと下がっていった。
この時の喧嘩が元で、俺の不動だった女子人気投票NO.1男子の座を
他の男子に明け渡す事になってしまったのは正直少し悔しかった。
つまり女子はやはり暴力は嫌いなのだ。
好きな人が喧嘩が弱いのは嫌だが、強すぎるのも好まれない。
それに実際の殴り合いを目の当たりにすると
引いてしまうのは仕方のない事なのだろう。
この喧嘩で俺がとてつもなく強いと学校中の評判になった。

それから数ヶ月が過ぎた頃、番長の只川が珍しく学校にいたとき、
「おい、お前駅前に行ってシンナー買ってこい」と命令された。
2年生の二学期に転校してきた俺は只川とは面識がなく、勿論話したこともない。
「何で俺が行くんだよ!他の奴に行かせりゃいいだろが!」
「あん?テメェ誰に言ってんだ。サッサと行ってこい。」
「やなこった!自分で行けや!」
「なんだと!誰だテメェ?名前なんてんだ。」
「知るかよ!」
勿論、只川も黙っていない。
もうこの時、俺は只川と一戦交える覚悟でいた。
すると…
突然、只川の横にいた戸羽が
「只川、ダメだって磯野は2年の夏に転校してきた奴で、喧嘩強いから不味いって!」
「だからどうした。そんなの関係ねぇ!」
「マジでヤバいって。こいつ本当にめちゃくちゃ強いんだよ!チカラもすげ〜強いし、運動神経抜群にいいから二人がやりあったら只じゃすまないよ!」
「何?……そうなのか。」
「今ここで二人がやり合うのは得策じゃないよ。磯野は他校が攻めてきた時に、すげ〜戦力になるから取っておいた方がいいって!」
「そうか………」
そして只川と俺は何故か戸羽のお節介でやりあうことは無かった。

その日から1ヶ月ほどのちに本当に他校が数人でうちの中学校を潰しにきた!
その時、只川を筆頭に10人くらいで迎え撃つことになり、
戸羽が俺に
「磯野頼むよ。お前が来てくれれば100人力なんだよ。頼むから一緒に来てくれないか?」
「ふざけんな!他校との抗争なんか俺は興味ねぇし、俺には関係ねぇ。」
「そんなこと言わないでさ!頼むよ」
「やだね。勝手にお前らでやりゃいいじゃん。」
と言って俺はその場を立ち去った。
後日、他校の連中を迎え撃った我が校は只川が木刀で他校の奴らをボコボコして何人かの歯をへし折ったらしい。
抗争は我が校の勝利に終わったが、数日後にその他校の生徒の親が我が校に乗り込んできて、歯の治療費を請求してきたらしい。
そのため勝利はしたものの、その喧嘩に加わった!10人は1人頭3万円ほど支払わなければならなくなったと聞いた。
つくづく、くだらない喧嘩に参加しなくて良かった。
喧嘩が強いのも楽じゃないぜよ。


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