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ゆめうつつ 第1話


これは夢なのか?現実なのか?
悪魔が雷(いかづち)を携えて地上にいる我々に迫ってくる。
何もない場所に私は立っている。そこへ悪魔が迫ってくる。
勢いよく雷鳴を地上に放ちながらやってくる。
稲光も凄まじければ、轟音もまるで鼓膜をぶち破れるのではないかという勢いで鳴りまくる。
その黒い悪魔が私を覆う。
悪魔は冷気だ。洒落にならないほどの寒気に私は襲われる。
逃げ道はないのか?という前にそもそもここは一体どこだ?


すると急に悪魔は消えた。悪魔がいなくなったときはすでに夕刻を過ぎ夜になろうとしている。
明るいうちに家に帰らないと暗くなりどこがどこだかわからなくなってしまう。
するとそこへ1人の紳士が私の前に現れた。紳士が私を見るなりこう言った。
「あなたもうじき死にますよ。死んだ後が大変なんですよ」とどこかへと去っていった。
私が死ぬ?冗談じゃない!
実はこうも突っぱねるには理由があった。


私は大学教授の父と専業主婦の母のもとに西暦198X年に産声をあげた。
しかし10歳のとき父が当時対立していた同僚らに滅多刺しにされて亡くなった。
葬儀の席でその同僚はなぜか大笑いした。
私は10歳ながらにその父の同僚に対して凄まじいようは怒りを覚えた。
父の死をさかいに人々からの私たち家族への扱いが変わっていった。声をかけても無視、学校に行ったら同級生からの凄まじく陰湿ないじめ。
それを見る担任教師からとても子供にかけるようなものじゃないほどの残酷な言葉で怒鳴られる。


私の心は徐々に穢れ、哀れと怒りの混じったなんとも言えないような赤黒く気持ちが悪い感情を露わにした。
私は自分を侮辱した全部の人間に対して復讐を実行するとともに、なぜこんな状況になったのか?父が一体何をしたのか?父を殺したのは誰なのか?
膨大な宿題を1つずつ片付けなければならない。
しかしこの宿題、1つでも忘れると企みが全てパーになってしまう。


中学生となった私だが、学校には入学式以来行ってない。私は自分を侮辱した人間どもを消すべく1年かけて作り上げた超高性能爆弾を校舎に設置し、点火した。凄まじい爆音とともにキノコ雲が現れた。
学校もろとも半径おそらく80キロ内の民家などを消し飛ばした。
だがこれで満足する私ではない。小学校卒業とともに県外の中学校へと行った残党どもを始末することだ。


親の事情かなんか知らないが、私からすれば自分をいじめておいてさっさと勝ち逃げするクズ同然だ。
そのクズ同然の人間はやがてあらゆる方法を使って次々と始末されていった。
10歳だった私は長い年月をかけて探し出し見つけては始末することだけを考えた末に40近くまでになった。
私はこの際、独身とか母のこととかどうでもよかった。その理由としてどうやっても父は何も悪いことをしていないということ。
つまり犯人は父を刺殺しては自身がやった不正を父に擦りつけたのだ。
そして私はどこか知らない広大な場所にやってきた。


そこへ先程「あなたもうすぐ死にますよ」と私に死の宣告をした老紳士が現れた。
私はその老紳士に見覚えがあった。
父の葬儀で大勢の人々の前で大笑いしながら侮蔑的な言葉を発した男だ。老人となっているが印象は知っていた。
そして「絶対許さない。殺してやる」という100%の殺意が頭脳からあらわれる。


老紳士が帽子を脱いだ。すると私はビックリした。
何とその人は死んだはずの父だった。
意味がわからない。私は一体どうなっているのか。とその前に本当に私の父なのか聞いてみた。
すると「何言ってんだ。父さんじゃなかったら私を誰と勘違いしてたのかね?」
本当に父だ。それじゃあのときの葬儀にあった遺影は誰だったんだ?
「あれも私だよ。私が何人いて悪いことあるかね?」
ますます意味がわからない。
ひとつだけわかるとすれば、そういえば父は大学でクローン技術の研究に長年取り組んでいた。
「私の息子を紹介しよう」
何言ってるんだ?すると向こうから人がやってきた。その姿に驚いた。服装は普段私が着用しているコートの中にストライプの模様が入ったカッターシャツ。ズボンは黒茶のビジネスズボン。
今私が穿いているズボンだ。
まさしくそれは私だった。
すると全周囲から私のクローンが何人かやってきた。
何がどうなっているんだ?


私は父(クローン)にいくつか質問した。
父(本物)を刺殺したのは誰か?
答え:父
葬儀の席で声をあげて爆笑していたのは誰か?
答え:父
全部父のクローンが仕掛けたものだった。


「もう話は終わりだ。クローンの息子たちよ。本体を消せ!」
本体?私のことか?
「言ったはずだ。もうすぐ死にますよ。とな。本体の父を殺した犯人をようやく見つけ、クローン技術の存在を知った以上死ななければならない」
どす黒く厚い雲が迫ってくる。私(本体)は今、クローンの私数人にがんじがらめにされ身動きが取れない。私ごとクローン数体も死のうとしている。
稲光が私に直撃した。


「オギャーオギャー!」
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
「よかったな。」
「えぇ。これで100人目。あと何人この子を産みますか?」
「まだ30代前半だから100人は欲しいな」
産婦人科の新生児室には私という人間が100人いた。
しかし私の場合、その数字は少ないほうだった。
ニュース「○○県の産婦人科では1週間で5万人の女児が産み出された家族がいました。ただ今ギネスの申請中とのことです」

おしまい。

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