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CXについて語るのをやめて行動しよう#CXPA

2020年、CX専門家の4人に1人が職を失う?

昨年10月にフォレスターが発表した「2020年予測」の中に刺激的な・・・少々エグいと言わざるをえない見出しが踊っていました。「2020年にはCXの専門家の4人に1人は職を失う」、そして一方で「CXエグゼクティブは最低でも25%増加する」というものです。

CXの試験的導入のフェイズが終わりを告げ、2020年はCXにとって、ビジネスでの成果証明が全てになる、というのが記事の意図。成果を数字で証明できないCXの専門家やリーダーは路頭に迷うことになりますよ、と脅す一方で、経済的利益をしっかり把握している企業ではChief Customer Officerなどのポジションが急増するだろう、としています。

もっともこれは、日本の10年〜5年先を走っていると言われる米国のCXシーンでのお話。「CXの取り組みを始めた」という企業が増えているのが日本の現状なので、早ければ5年くらい先にはこうした言説が出てくるのかもしれません。

CXの専門家たち、議論する

米国のCXプロ団体、Customer Experience Professional Asociation(CXPA)のディスカッションボードでは年明け、この記事についての議論が盛り上がっっていました。「フォレスターのこのレポートタイトル、クリック稼ぎのための単なる煽り見出しではないですよね(わたしも同じように思ってた)」という指摘が起点でした。

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問題提起
「フォレスターの予測記事が出る前から心配していたことだけど、CXをROIと結び付けていないリーダーが多いんだよね。このままだと本当にそうなってしまう」
直接的反応
「まったくだね。CXと成果がリンクできていないケース、よく見る」
「成果と紐づけて運営する企業と、そうでない企業が二極化してゆく、って記事だろう? ぼくは悪い話とは思わんのだが?」
「昨年、CXの職を降りた友人はいた。けどROIが原因って人はいなかったなあ」
「CXとROIって、とても大切なことなのにこれまで蔑ろにされてきたよね」
リフレーミング的反応
「CXツールに予算ぶちこめば全部解決すると思ってる企業にも問題あるよね? ツールは必要だけど、計測ってプロセスの半分。CXを成功させるには泥臭い改善活動が必要なのに、理解してない人って多い」


クローズドコミュニティの話なので詳細の紹介は控えますが、このディスカッションに書き込みしていたプロたちが「わたしの考えはここに書いてある」と引用していた公開記事が3つあるので紹介しておきたいと思います。いずれも「CX導入がうまくいかない企業あるある」=CX導入の深い問題について触れられています。「あ、それ、わかる!」という話がいくつも出てきて、海の向こうのCXの現場も同じなのだなあ、と親近感を覚えました。

最初の記事は問題提起をしたColin Shaw氏が書いた記事。約1年前に書かれているものです。箇条書き部分を訳してみました。

CXは死にかけ?あなたの組織のCXを救う7つの方法

CXが死にかけている7つの理由

1. マネジメントの上位層がCXのコンセプトを理解してない
2. 役員クラスが現状に波風を立てることに尻込みしている 
3. CXチームの人たちに変化を起こす力がない
4. 組織が重要問題に本気で取り組まず、いじくり回してるだけ
5. 皆がCX向上のシンプルな解決策を求めている。が、そんなものはない
6. 企業が顧客価値を左右する要素にフォーカスしていない
7. 組織がもっぱら内部から変化を起こそうとしているため

CXを救う7つの方法
1. 上司にも部下にもCXの理解を助けてあげよう
2. 破壊や混乱を受容する
3. 顧客価値($)を左右する要素の研究
4. いまあなたに協力的な組織にだけ焦点を絞る
5. 成果の測定
6. 常に教育
7. 壊すか、降りるか


フォレスターの「4人に1人のCX専門家が職を失う」というレポートが発表された直後に Heart of the Customer のJim Tincher氏が書いた記事がこちら。

なぜ4人に1人が2020年に仕事を失うのか

・CXの計測データを財務上影響のある係数と結びつけよう
・仮に上司が変わってもCXの効果と影響を説明できるようにしておこう

・(クビにならずに)仕事を続ける3人になるために
 1. ビジネスの最大関心事を理解する
 2. 計測に影響を与える顧客体験ジャーニーと顧客を特定する
 3. CXの影響を創造できるチームを形成する
 4. 実際に顧客体験を動かしているものを学ぶために顧客を巻き込む
 5. 顧客体験ジャーニーに重要な計測値を特定する
 6. 変化を制御する
 7. CXの影響を記録することを忘れずに


そして3つめは、Valerie Peck氏によるCXPAのブログでの記事。上のふたりとはやや視点が異なるのですが「リフレーミング的対応」で紹介した意見に通じるお話しです。いま日本でブームになっている(?)「経営者が提供している顧客体験のコンセプトを語る」インタビュー記事などにも通じるよなあ、と感じました。

多くの人がCXを語っているのに、実行する人がほとんどいないのはなぜ?

・悲しいかな、CXの取り組みは以下のようになってしまっている

 - 動機: 導入すれば5-10%の利益が増えるから
 - 導入: どの会社も「素晴らしい顧客体験提供に焦点を当てる」と
 - 結果: 定着させたり、現状から改善したりする企業は、ごくわずか

・CXあるある
 - 顧客フィードバックやNPSを計測しただけで「顧客重視!」と叫ぶ
 - カスタマージャーニーマップ作成に時間をかけて壁に貼って完了
 - ブランドプロミスと脈絡ないCX関連部門を組成してしまう
 - CX推進のマネージャの心変わりや異動でCX活動が消滅する

・メッセージ
 - CXを成功させるのは簡単ではない。しかし成功の果実は大きい
 - CXはしばしば企業の機能不全(従来担当者の怠慢)を白日の元に晒す。
 - CXの活動をまず始めよう
 - 従業員向けのFAQを作って伝えよう
 - CXについて語るのをやめて行動をはじめよう

かなり意訳しているのですが、最後の「語るのをやめて行動をはじめよう(Stop talking about CX, start doing it)」は、すごく胸に響きました

CXの活動を始めよう

デザイン思考(やデザインスプリント)でも「正しさを追求するより、まず手を動かして始めよう」というメッセージがあります。

顧客の消費行動や行動パターンは環境の変化を受けて常に変化し続けています。顧客の感情は社会構造やインフラの変化、競合企業の提供価値改善や未競合企業のイノベーションからも大きな影響受けるし、その変化のスピードは年々速くなっています。だからこそ仮説的な解決策を速攻で実装して(クイックプロトタイピング)、顧客のフィードバックから修正・軸合わせするプロセスが大切なのです。

海外文脈での「CX」は単なる顧客体験を指すのではなく「CX向上」や「CX改善プロセス」を指していることが多く、顧客からフィードバックを集める往路(下図の01〜02)と、企業による改善活動の方向性決定と推進そして顧客提供・数字確認まで(03〜05)の復路を1サイクルとしています(一巡させて環を閉じることを「ループを閉じる(クロージング・ループ)」、そのプロセスを「閉じたループ(クローズド・ループ)」と呼びます)。

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このサイクルの中で現場のメンバーが試行錯誤を繰り返す中で、チームに顧客中心のカルチャーが形成されてゆきます。リーダーから現場まで全員がCXを理解し、経営判断も現場の活動も顧客フィードバックが重用され、CX指標で経営を語るようなチームになったとき、「CXが定着した」という状態です。

ところが戦略設計時に作り上げた「我が社のCX設計の方向性(コンセプト)」を従業員やメディアに一方的に語るだけのリーダーが少なくありません。踏み出す先があることを知らないだけかもしれませんが。CXとは(少なくとも海外で財務的な効果を上げている取り組みは)顧客のフィードバックをもとに時間をかけて全社員で磨き上げ、てゆくものです。

顧客体験を語るのをやめて行動を始めよう。

CX戦略はマーケティングと従業員活性化の両方に影響を与えます。単発的な施策ではなく、企業の方向性を示す施策だと思います。だからこそ経営者やビジネスリーダーがCXについて丁寧に語るというシーンは絶対に必要なものだと思います。しかし、ただ語るだけでは、変化し続ける顧客とは噛み合いません。従業員がそれを受けて具体的に顧客をファンにする行動を起こせないのなら、「ナルシスCX」になってしまいます。

語るだけでなく、顧客の声に真摯に向き合いながら、提供体験・提供価値が向上し続けるダイナミックなCXのフェイズを作りましょう。

・・・というアイデアのもと、CXの実践や実行、それにまつわるノウハウについて書かれているnote記事を集めるマガジンを作成しました。
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