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アイリッシュパブ公演 「白と黒」 アフタートーク

去る11月21日日曜日、神奈川県日吉にあるオブライエンズ・アイリッシュパブで演劇企画CaLにパブ公演が行われました。初日にして楽日、昼と夕方の2回こっきり。
ご時世により席数は少なめでしたが満員御礼。公演後2週間経ちましたが、大きな問題もなく無事終えられました。

この記事では、本番後の夜にあった「アフタートーク」でお話にあった本公演の裏話をまとめます。

演劇企画CaL
吉平真優がアイルランド滞在を経て立ち上げた演劇企画。舞台の上で人々が力強く生きる、詩的で文学的でうつくしいアイルランド演劇の名作たちを上演します。 2019年に第一回企画「旅人たちの春の夢-The Tinker's Wedding-
」、2020年に番外公演「山の神様 -The Gods of the Mountain-」、2021年7月に第二回公演「ほんの駆引き -Village Wooing-」。YouTubeで詩の朗読企画。

吉平真優
アイルランド演劇を専門に上演する団体、演劇企画CaLの主宰。自称アイルランドおたく。

オブライエンズ アイリッシュパブ
東急東横線日吉駅からほど近くのアイリッシュパブ。
オーナーは映画・競馬好き。お店のフードはオーナーの奥様が作っています。美味しいと評判。オススメはフィッシュ&チップス。

公演を終えて

ーー公演を終えて、反響や手応えなどはありましたか?

吉平
「アイリッシュパブの大きな特徴の一つである『空間の境界がない』ということを、実際に観客のみなさんが体感できたという声をたくさん聞きました。これは一番、パブで上演した甲斐があったなと感じました。また、『アイリッシュ文化』は総じてステレオタイプ化されがちなのですが、そうじゃない日常性の方にスポットを当てていたので、この点についても興味深い感想をたくさんいただきました。ステレオタイプじゃないアイリッシュネス、というのはずっと考えていることで、これからも追究していきたいです」

開催のきっかけ

ーー日本初?のアイリッシュパブでの演劇企画でしたが、企画のきっかけなどあったのでしょうか?

吉平「アイルランドの劇作家ジョン・ミリントン・シングが『西の国のプレイボーイ』という戯曲で、パブで起こる様々なことを描いている有名な作品があるのですが、”パブを舞台にした公演を実際にパブでやりたい” という夢が何年も前からありました。いざ企画の段階になると『どのパブで上演させてもらうか』『カウンターの中に役者を入れてもらえるのか』『実際、うまくいくのだろうか』と不安もたくさんありましたが、実際のパブでやることに意義があると考えてました。オブライエンズはお店としての歴史もあり、常連の方もいて、店と存在しているところでやるから、作り話じゃない、ほんとにあるお話として公演できたな、と感じています」

会場のO'Brien's Irish Pub(オブライエンズ アイリッシュパブ)

脚本について

ーー演劇企画CaLはこれまでアイルランドの演劇を日本語に翻訳した作品を上演していますが、本公演はオリジナルの脚本と聞きました。お客さんにどんなことを伝えたかったのでしょうか?

吉平
「コロナでアイルランドのパブには行くことはできませんが、『人はなぜパブに行くのか?』『アイルランドのパブが好きだな〜と思うのはなぜか?』『アイリッシュパブのいいところって何ですか?』といったことをたくさんの人に聞いてまわりました。共通認識としてあったのは ”おしゃべりをしに行く” 場所であること。なので、『おしゃべりしている人』が中心の物語にしようと決めました。アイルランドの演劇をやると『翻訳ものなのね』となってしまいがちですが、アイルランドの演劇は遠い世界の話じゃない、不思議な魅力があります。人がみんな愛おしい。めちゃくちゃな悪人はいない。勧善懲悪の物語はない。作品自体に愛おしさがある。そんな空気感をオマージュしたい、という意図はありました。見てくれた人に『アイリッシュパブっていいな』と思える作品にしようと考えてました」

一幕より

タイトルの意味

ーータイトルの『白と黒』にはどんな意味が込められているのでしょうか?

吉平
「『白と黒』にはアイルランド的な感性、二極にあるものの共存という意味を込めています。たとえば、アイルランドの気候は晴れながら雨が降ったりしますよね。ハロウィーンの起源はアイルランドと言われますが、『あの世』と『この世』の境界が当たり前のものとして共存していたり。その他にもギネスビールの色や登場人物の葉月さんが弾いていた『黒猫のタンゴ』、二幕構成、結婚式と葬式、モリちゃんの歌にあった夜空と白い雪などもあります。登場人物にはギネスを飲む人と飲まない人が半分ずついるのですが、ギネスを残す人も輪に入れてあげたかった。アイルランドでもノンアルが流行っていたり、ノンアルでもパブにいられますよね。『登場人物全員を愛おしく思ってほしい』『いろんな人がいるけど、誰のことも拒絶はしない』そんな物語にしたいと考えてました。」

飲み残されたギネス(終演後、スタッフが美味しくいただきました)

アイルランド的要素

ーー他にもアイルランド的な要素はあったのでしょうか?

吉平
「脚本の冒頭でアイルランドの詩人・劇作家のイェイツの言葉『There is no strangers here. Only friends you haven’t yet met(ここに見知らぬ人はいない。いるのは、まだ出会ってない友人だけだ)』を引用していたり。『常連さんに話しかけられる』『おもむろに始まるセッション』『アカペラの歌』 などの要素を作品内に入れています。パブリックビューイング(スポーツ観戦)やフットボール、ゲーリックスポーツ、ラグビーといったスポーツの要素は物語に入りきりませんでしたが、パブは人々のコミュニティであることは大事にしていました」

おもむろに始まるセッション

登場人物のモチーフ

ーー4人の登場人物のモチーフはありますか?

吉平「
アイルランドの演劇にまつわる人から名前をとっています。桶井さんはショーン・オケイシーという劇作家の人気作品『ジュノーと孔雀』のキャプテン。葉月さんはダブリンにある劇場『アビー・シアター』の創設に関わったオーガスト・グレゴリー。富良くんはアイルランドのチェーホフと呼ばれる劇作家ブライアン・フリール。モリちゃんはジョン・ミリントン・シングの恋人でアビーシアターの看板女優でジュノーと孔雀の映画にも出演しているモリー・オールグッド。歌さんはジョン・ミリントン・シングから。シングは27歳で早死にした人で、モリーはシングの作品を引き継いで上演をしていました」

4人の登場人物。左から桶井さん、葉月さん、モリちゃん、富良くん

白鳥の彫刻

ーー二幕で出てくる木彫りの白鳥にもモチーフはあるのでしょうか?

吉平「
アイルランドの民話で『Children of Lir(リルの子供たち)』という物語があります。王様が再婚した女性が魔女で、4人の子供たちのことが嫌いで魔法で白鳥に変えてしまうのですが、継母は声だけは残して歌えるようにしたんです。完全に悪いものにはしない。二極の共存がここにもあります。魔法は900年経ったら解けるので、子供たちは海とか湖とかに漂いながら、歌を歌って900年生きた。王様はある日白鳥たちの歌声を聞いて子供たちだと気づいたり。900年経ったら戻れるといっても無限に等しい。でも、ありうるかもしれない。出会えるかもしれない。そんな意味を込めています」

木彫りの白鳥

今後について

ーー今後の展望を聞かせてください

吉平
「日本のいろんなパブでツアーをやることが今の夢です」


演劇企画CaL
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吉平真優
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