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その日には咲かない気持ちに水をやる。

随分前からこの気持ちに嫌気が差していた。
誰かと話していても、ひとりの時もモヤモヤとしはじめるのはどうしてなんだろうか?きっと長い間私の中に溜まってしまった結果だと思う。
「ミサキさんは少し自分の気持ちを伝えるのが苦手のようです」
そう通信簿に書かれていたのを見た母はどうしてかしらねぇ?と首を傾げていた。
私は素知らぬ顔をして絵を描き始める。
季節はまだ肌寒い春のことだった。

それからしばらくして学校で友達ができた。名前はミサトといい、私の席の後ろの子だった。名前の響きが同じで親近感を持ったらしくミサトから話しかけてきてくれた。
「ミサキちゃんは絵描くの上手だよね。将来は漫画家さんとか?」
ミサトの家で宿題を終わらせたあと二人でお菓子を食べながら話していた時のことだった。
「えぇ?漫画家?考えたこともなかったなぁ」
「そうなの?いつも休み時間とか絵描いてるからそうなんだと思ってたけど」
「うーん…ミサトは将来何になりたいとかあるの?」
私は自分のことを話したくなかった。
「えっとね!私は…実は誰にも言えなかったんだけどね…」
「うんうん」
「アイドルになるのが夢なんだ!」
「へぇ〜!いいね!ミサトすごく可愛いし、頭もいいからきっとなれるよ」
「えへへ、ありがとう。あとミサキちゃんだから話したんだからね」
「うん?どういうこと?」
ミサトが少しずつ話し始めたその内容に、私は少し前に感じていたあの気持ちが膨れ上がっていった。
季節は生ぬるい梅雨を通り過ぎようとしていた。

その日、私は担任の先生を殴った。というか初めて人を殴った。
他の先生たちが慌てて止めに入ったので、かろうじて喋れる顔をしていた。でも私は殴り足りなかった。
たくさんの大人に囲まれて事情を聞かれた。私の声は震えていなかった。
ミサトはずっと私にありがとうと泣きながら抱きついていた。
クラスメイトは怯えた表情をしていた。それでも「ミサキちゃんは悪くない」と先生たちに話してくれていたのを覚えている。
私の拳にはたくさんの何かが付き纏っていた。そしてそれはこの気持ちを大きく育てていった。いや。本当は最初からこのくらい大きかったのかもしれない。
季節はもう白く染まり始めていた。

初めて制服に袖を通した時のあの感覚は忘れられない。
母は私の制服姿を見て「いいんじゃない?似合ってるよ」と言ってくれた。
ミサトはしきりに私の周りをぐるぐる回っては「いいよぉ!」とか「かっこいいねぇ!」とか言いながら写真を撮っていた。
髪も制服に合わせて短くした。でもなんとなく不自然な気もした。
制服には合っているけど、私には合っていないような気がすると話すと彼女は「大丈夫!すごく似合ってるよ!」と励ましてくれた。
にっこりと笑う彼女がとても綺麗だったので私も「ミサトもスカート似合ってるね」と言った。少し恥ずかしそうに彼女は半年前から伸ばしていた髪を触りながら「ありがとう」と小さく呟いた。
やっとお互いが本当の姿になれたような、そうでないような感覚になった。
季節は次の蕾が咲く準備を始めていた。

次の春が来るまでには咲くだろうこの気持ちは、きっと綺麗なものになるかもしれない。と隣で笑うミサトを撮りながら思った。


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