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読書感想『汝、星のごとく』が名言のオンパレードだった話

「強いんじゃなくて、愚かになれただけだと思う」
「愚か?」
「どこ行きかわからない、地獄行きかもしれない列車に、えいって飛び乗れるかどうか」
えい……とわたしは繰り返した。
「必要なのは頭をからっぽにする、その一瞬だけ」
あとは勝手に走っていく、後戻りはできないの、と瞳子さんはやはり軽やかに笑った。

194頁


僕たちは常に何かを選んで生きている。

朝起きると、「う~んあとと5分だけ寝よう…」と選んだり、定時頃に「今日中に仕事を終わらせようか…それとも明日にまわしちゃおうか…」と選んだり、いつ、どこで、何を、1日だけ振り返ってみてもそこには無数の選択肢があふれている。

ただ選ぶことって怖い。

自ら選ぶと誰かのせいにできない。早送りも逆再生もできない。誰にも言い訳はできなくて、どんな結果になろうとも尻をぬぐってはくれない。

選んだとしても、選んだ未来は間違っていなかったか、選ばなかった未来はどうなっていたかを自然と思い巡らせてしまう。

選びたい。けど選べない。選ぶことは非常に勇気がいる。(僕はだいたいここで選べず、先送りして良くない方向に行くことが多い…)

そんな時に、2023年本屋大賞を受賞し、第168回直木賞にもノミネートされた凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』を読んだ。

凪良ゆうさんの物語を読むと、幸せになるためには自分で選ぶ覚悟がいかに大切なのかを実感させられる。読めば読むほど、なんでみんなそんな覚悟を持てるの!?とびっくりしてしまう。

『滅びの前のジャングリラ』『流浪の月』も地獄を受け入れる覚悟を持って選んだ人の物語だった。

登場人物たちは共通して、自分が自分でいるために、自分の人生を生きるために選ぶ覚悟を持つ。

そうだ、選ぶということは覚悟を持つことなのだ。たとえそれが不幸かもしれなくても、間違いかもしれなくても。

本作『汝、星のごとく』の舞台は自然が美しい瀬戸内海の島。
そこに暮らす高校生の井上暁海と、親の都合で京都から転校してきた青野櫂。彼らの17歳から32歳までの人生を描いている。

読んでいると暁海にも櫂にも、なぜここで?と、不幸が訪れ、胸が苦しくなる

たとえば17歳の暁海と櫂がお互いに東京に行くことを決め、未来が明るく見えたのもつかの間、幸せの帳尻合わせをするようにある事件が起きる。

ああ、なんて無情な。なぜこうも苦しまなくてはいけないのか。そう思うと同時に、けどそれが人生だよな、上手くいくだけではないよな、と思いを巡らせてしまう。

共に両親の都合で、生きる選択肢を狭められている彼らは常に選択を強いられるのだ。

「時間ないし、そろそろ現実見いよ。親がちゃんと段取りしてくれるやつらより、俺らは不利やね。ほな手持ちのカードの中から一番譲れんもんを選ぶしかないやろ」

52頁

選ぶ先に地獄が待っていようと、その地獄を選ぶ。地獄すらも受け入れて生きるのだ。
その覚悟に焼き尽くすような熱が体を駆け巡る。

そして終盤、暁海はまたしても大きな選択も強いられてしまう。

そこで恩師の北原先生はこう告げる。

「正しさなど誰にもわからないんです。だから、きみももう捨ててしまいなさい」
(中略)
「もしくは、選びなさい」

306,307頁

選ぶことは怖い。時には捨てなくてはいけないものもある。選んだ先の未来も、選ばなかった未来も、何もわからない。周りにとやかく言われることもあるかもしれない。

けれど、自ら選択した未来には過去を変える力が与えられる。
過去がどうあろうとも、この先、自分が正しいと思えるように生きていく力が。

人生は波のようだ。
岸壁に打ち付けるように荒々しい時もあれば、静かに砂に触れていくように落ち着いた時もある。その波は読めず、逆らえず、わたしたちを攫っていく。

ただ、波に流された先にあるものを選んで生きる覚悟を持つこと。

そうすれば人生が持つ輝きはいっそう増すのだと本作を読んで強く思った。


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