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【散文詩】幸せと蝶々

この世にあるものが、できればなるべく近くにあるものが全部嘘だったらいいのになあと思います。

歯磨きは実はしちゃいけません。人に優しくしてはいけません。夜は日が上りはじめたら寝ましょう。そうなったらみんな慌てふためくでしょうか。素直に嘘を認めてあたらしい世界に馴染んでいくのでしょうか。中には、受け入れられなくて今まで通りに生きていくことを選ぶ人もいるでしょう。

そもそもみんななんで信じれるんだろう。目の前のものを。コップは本当にコップですか?鉛筆は本当に黒いですか?

子供の頃は幸せに生きていくことが当たり前だと思っていました。いや、幸せであることが前提でみんな自ら幸せを賭け金に不幸を手に入れているものだと思っていました。けど実際は逆でした。不幸が当たり前で、不幸になることを受け入れないと幸せは手にはいらないものでした。

幸せが形に見えていたらどんなに楽だっただろうと思います。美しいコバルトブルーの羽をはためかせ天高くひらひらと舞い踊るように飛んでいく蝶々だったら、どんなに良かったでしょう。太陽が真上から睨みをきかせるあの暑い夏の日は、その蝶が見えていた気がします。

今、目の前に蝶はいません。
いやいるかもしれません。
形を変えて、色を変えて、もしかしたら飛ぶこともできず、汚らしい地で蠢いているかもしれません。

けれど、私の目にはうつらないのです。

2023/03/31

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