見出し画像

詩140/ 雷

空に
稲妻が走ってから
雷鳴までの間隔が

長ければ長い程
雷雲は
遠くにいて

短ければ短い程
雷雲は
近くにいる

音の速さは
一秒で三百メートルくらいだから

ほら
さっき光ってから
いま雷が鳴るまで
七秒だっただろう
だから雷雲は
ニ一〇〇メートルむこうにあるんだ

それを
教えてくれたのは父だった

そのとき
ごく近くに雷が落ちた

稲妻と雷鳴が
ほぼ同時だったから
すぐそこなのだと分かった

僕は
怖くて
布団を被り
震えて泣いた

轟音が
地面も
建物のガラスも揺らした

僕は
ただひたすら
雷雲が去るのを待ち

空が光るたび
雷が鳴るまで
何秒だったかを数えた

今は三秒だったね
あっ
今度は六秒だったよ

やがて
雨脚が弱まると共に
その間隔は
長く永く遠ざかっていった

僕は
穴倉から顔を出す

日が差し始め
雨上がりの湿った青空に
薄い虹が架かっていた

永く
父に会っていない

僕も
いつの間にか
夕立の間
穴倉で子供を抱えて護る
父になった

過ぎ去った入道雲は
遥か東の空で
まだ
かすかに
遠雷を響かせている





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?