上水春信

生きて、詩を描きます。(2024.4 現在)

上水春信

生きて、詩を描きます。(2024.4 現在)

最近の記事

詩142/ コンロの火

薬缶に水を張り コンロのスイッチをいれる 青白い炎が 薬缶の底に向かって ガスの排出音を伴って エネルギーを静かにぶつける それは湯が沸くまで とても安定したベクトルで 加熱が続けられる 湯が沸いたら コンロのスイッチは切られ 役割を終えた炎は 一瞬でこの世から消える そしてまた 卵焼きを焼くとき ラーメンを茹でるとき 鍋物を煮るとき 必要なときに コンロのスイッチをいれる 青白い炎は 必ずそこに現れ 完璧な仕事をこなして スイッチを切られて 消えていく

    • 詩141/ のど

      食事が のどを下っていく 水も のどを下っていく あおった酒も のどを下っていく 飲んだ薬が のどを下っていく 吸った息が のどを下っていく かたや 吐く息は のどを上っていく 咳も 嘔吐も 嗚咽も のどを上っていく 助けを呼ぶ叫び声も 憎い人を罵る声も 愛する人に送る歌も のどを上っていく みんな みんな のどを行き交っていく 生きていくために 欠かせないものたち 生きていくために 外に放つべきものたち 生きていくために 吐き出しては吸い込むもの

      • 詩140/ 雷

        空に 稲妻が走ってから 雷鳴までの間隔が 長ければ長い程 雷雲は 遠くにいて 短ければ短い程 雷雲は 近くにいる 音の速さは 一秒で三百メートルくらいだから ほら さっき光ってから いま雷が鳴るまで 七秒だっただろう だから雷雲は ニ一〇〇メートルむこうにあるんだ それを 教えてくれたのは父だった そのとき ごく近くに雷が落ちた 稲妻と雷鳴が ほぼ同時だったから すぐそこなのだと分かった 僕は 怖くて 布団を被り 震えて泣いた 轟音が 地面も 建物のガラスも

        • 詩139/ 回帰

          世を儚んでいる訳でもない 人生が軽すぎる訳でもない 何にも絶望などしていない 断じて言う 決して 早く  死にたいのではない 俺はただ 素早く 死にたいだけなのだ

        詩142/ コンロの火

          詩138/ めし

          昼飯を食いながら ふと思った 俺達の人生って奴らは そもそも味付けされていない 白米や食パンなんだと 中にはたまたま 素材がよくて そのまま何の味付けもしなくても 食えるような米やパンもあるけれど 全部が全部そうではないし まあそういう いいものってのは 庶民にはちょっとお高い訳だ うちなんかいつも家計がアレなんで ディスカウントスーパーの特売の米や 賞味期限間近で安くなった食パンだぜ でも 物足りないなら カレー掛けりゃいいじゃん バターや蜂蜜塗ればいいじゃん パサパサなら

          詩138/ めし

          詩137/ 揺れ

          生まれる前は 子宮の中で 羊水のうねりに従って揺れ 生まれたら 揺り籠の中で 眠らされる為に揺れ 大きくなれば 電車や車に乗っては ガタコトと揺れ エレベーターや エスカレーターで 上っては揺れ 下っては揺れ 殴られては 頭蓋骨と歯茎が揺れ 勢いだけで鳴らした ギターアンプの爆音に 鼓膜の芯が揺れ 社会に出ては 人の言葉に揺れ 自分の振る舞いの 結果に揺れ 責任を背負い 進む道のぬかるみに揺れ 突然訪れる運命に揺れ その運命を共にした 愛する人との別れに揺

          詩137/ 揺れ

          詩136/ おわり と はじまり

          世界の終わりが 来るのは怖い でも いきなり 世界の始まりが 来る方が怖い だって 終わりも無いまま 始まりが来るってことは 今現在 終わらせられるものが 何も無くて 僕の今も まったくの幻で 世界には 何の価値も質量も 無いってことになるからだ 在るものにしか 終わりは来ない だから 終わりには意味があるのだ そこに在ったことを 証明するという意味が 僕らの旅は 乗りたくも無かった列車に 一斉に無理やり押し込められた 長い片道の旅かもしれない でも 着

          詩136/ おわり と はじまり

          詩135/ コインランドリー

          夜の コインランドリー 室内には誰もいないが 洗濯機が ごうんごうんと回っている 回した人と思わしき人が 洗い終りまでの時間潰しに 駐車場に停めた車の中で スマホを見つめている その顔は スマホの光に照らされて 青白く 時に明るく点滅している 目は 画面を見据えて動かずに 海の淵のような 夜の淵のような黒 俺は 空いている槽に 洗濯物を突っ込む 百円玉3枚 回収箱に落ちる音が響く 1日着た服を洗う なぜ洗う 汚れたからである 何を汚れとし 何を洗う 自分

          詩135/ コインランドリー

          詩134/ 少しだけ、風の強い日

          敢えて 想いを口にするならば 私達の旅は 生まれたときに始まり 死ぬときに終わる 広い海の上の 目的も 目的地も無い漂流である だからきっと 海の上で風を読む感覚が 誰しもの遺伝子の中に備わっている でもその力は 自分の小舟を 操舵するためのものであって 海の上で出会う 沢山の他の船に 引きずられてしまうことも 舵が負けてしまう嵐や凪に 会うこともあるだろう 太陽の麓を目指す人も 星の麓を目指す人も はたまた 同じ場所に錨を下ろし続ける人もいる 輝かしいゴールが

          詩134/ 少しだけ、風の強い日

          詩133/ 詩の繭

          何も見えない 漆黒の夜道を 何も見えない 光の海の中を 前が見えない 土砂降りの中を 目を開けていられない 激しい嵐の中を 彼は 感覚だけを 道しるべにして 生きている 一番 敏感な粘膜を 闇に晒し 光に晒し 雨に晒し 風に晒し 体の奥深くで 激しい拒絶反応を起こしながら 絹の糸を 口から吐き出し 躰の周りに 純白の繭を張る それは 自分を司り 自分の心を護るための そして 高い空へ羽ばたく姿に その身を変えるためのもので 破って飛び去った後には

          詩133/ 詩の繭

          詩132/ 毒と水

          俺は 人間として生まれ落ちる時に 前世の神様から 現世の神様への 預かり物を託されました それは 見た目はまったく変わらない 二本の瓶で 中身はそれぞれ 無色透明な毒と真水でした 現世の神様を訪ねて その真水を捧げること お前の 次の命は それを達するためだけのものだから 叶わぬ時には その毒を飲んで死ぬように とのことでした 俺は その託けを守り ただひたすらに 現世の神様を探し続けてきました 間違えないように 右手に水を 左手に毒を持つようにして しかしあ

          詩132/ 毒と水

          詩131/ 渡り鳥

          この街だって 相当冷え込むのに 今だってこんなに 吹雪いているのに 君は穏やかに 川の上で羽を休めている この川の水が 温かく感じられるほど 凍えるところから来たのだろう その愛らしい小さな体と翼で よくあんな 荒れ狂う海の上を 渡ってきたものだ それを想えば 僕はこの街の片隅の 飼育小屋の中での 鶏まがいの生涯において 生まれたときからずっと 首根っこを掴まれて 食われるのを待つばかりの ただの人間の餌でしかなかった 僕は 食傷気味の人間に 不味そうに仕方無く 食べられるく

          詩131/ 渡り鳥

          詩130/ たまたま死んでいないだけ

          今日も世界中のどこかしこで あらゆる命が死んでいる 大きな生き物も 小さな生き物も 今死ぬべきだったのかすら 考える間もなく 毎日毎秒 数え切れない命が 死んでいる おれは今 それをたまたますり抜けて たまたま生きているだけだ そのときはきっと いきなり来るけれど おれが出来ることは 死ぬために 備えておくことでは無くて そのときまで生きるために ひたすらに自分の命を生きることだ

          詩130/ たまたま死んでいないだけ

          詩129/ 中間色

          赤と白の間は 桃色 赤と黄の間は 橙色 黒と赤の間は 茶色 黒と白の間は 灰色 青と白の間は 水色 青と赤の間は 紫色 黄と緑の間は 黄緑色 黄色でもなく 緑色でもないのか 黄色でもあるし 緑色でもあるのか 独自のふさわしい名前を 貰えなかったと 悲しんでいると思いきや その優しい色合いの中に どちらの色としても やっていけるという したたかさを感じるから 黄緑は 自分の名前を気に入っている そして俺も そんな黄緑を好んでいる

          詩129/ 中間色

          詩128/ りんご

          深夜二時 年が明けて 一番最初にしたことは 冷蔵庫に残っていた りんごを剥いて 小さく削って食べたこと 別に 寂しい新年を迎えた訳でも無く 別に 昨年の残り物を 片付けたかった訳でも無い ただ その時間に 目が覚めて ただ お腹が空いていて ただ 冷蔵庫の りんごの存在を思い出して ただ 食べたくなった それだけのこと そしてもう一度 歯をみがいて トイレに行って もう一度 眠りに就く 布団に残る 20分前の俺の体温が 俺を再び温める 今年もまた この

          詩128/ りんご

          ご挨拶/ 来年もよろしくお願いいたします。

          上水春信です。 2023年が終わりますね。 今年も、遅筆ながら、何とか自分なりのペースで noteで詩を発信することができました。 読んでくださった皆様、 見てくださった皆様、 スキしてくださった皆様、 フォローしてくださった皆様、 本当にありがとうございました。 思えば昨年の春に、 25年ぶりに詩を作ることを再開し、 同時に、そのアウトプットの場として、 noteに投稿することにしたのでした。 自分の表現の場であることのみでなく。 ここには、本当にいろいろな考え方

          ご挨拶/ 来年もよろしくお願いいたします。