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詩128/ りんご

深夜二時

年が明けて
一番最初にしたことは

冷蔵庫に残っていた
りんごを剥いて
小さく削って食べたこと

別に
寂しい新年を迎えた訳でも無く

別に
昨年の残り物を
片付けたかった訳でも無い

ただ
その時間に
目が覚めて

ただ
お腹が空いていて

ただ
冷蔵庫の
りんごの存在を思い出して

ただ
食べたくなった
それだけのこと

そしてもう一度
歯をみがいて
トイレに行って

もう一度
眠りに就く

布団に残る
20分前の俺の体温が
俺を再び温める

今年もまた
この36.5℃の潮汐を保って

叶わぬ夢のりんごの皮を
薄く滑らかに
剥いていくために

誰をも刺さないことを誓った
言葉のナイフを
静かに研ぎ澄ます毎日を

泣きながら
笑いながら
目を伏せながら
前を睨みながら
俺は過ごしていくだろう

それは
誰にも見えないけれど
自分の中にしか無い
季節や年月の節目のない世界を
前に進めていくために

必要で不可避な
俺にしか出来ない
孤独な戦いなのだ




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