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雑談 インドネシア語とマレーシア語 何が言語を分けるのか

 少し大仰なタイトルにしてみました。

 インドネシア語が、インドネシア独立前からリアウ地方のムラユ語(マレー語)になった経緯は以前書きました。
 当時、ムラユ語話者はインドネシア全体のなかで1割ほどだったともいわれています。さらにその中のリアウ方言ですから、単純計算で新国家の樹立に向けて、国民の9割以上が新しい言語を学習することになったわけです。
 ムラユ語はマラッカ海峡周辺ではリンガ・フランカとしての地位を確立していましたが、言い換えれば、マラッカ海峡から遠くなればなるほど、使われなくなり、さらに交易に消極的な地方や民族では、他民族または他部族との交流のための交易言語は無用のものでした。

 以前にも書きましたように、マレー語ができるからインドネシアでも言葉に困らなかったという年配の方が以前は割といました。
 最近ですと逆に、インドネシア語を勉強してたから、マレーシアでもあまり困らなかったですとか、それを信じていたらマレーシアで言葉は通じているのに話が通じなかったとかいうエピソードを聞くこともあります。

 では、タイトルにもしましたが、インドネシア語とマレーシア語は何が違うのでしょうか。
 身も蓋もない答えですが、それは使用されている国が違う、というのが正解です。
 言語学的に文法がどうのこうの云々という理由があるかと思ったら、実に単純かつ明快な答えでした。

 少し例を挙げながら説明しますと、
 スペイン語とポルトガル語は似ていて、それぞれの話者はお互いに意思の疎通が可能だそうです。(といってもポルトガル語話者はスペイン語が分かるが、スペイン語話者はポルトガル語が分からないとも聞きますが)
 同様にドイツ語とオランダ語、チェコ語とスロバキア語なども同様な関係にあると聞きます。
 しかし、それぞれ別の言語として、たとえばテキストなどもスペイン語教本、ポルトガル語教本、ドイツ語の教本とオランダ語の教本は別々に出版され、外国語の授業もそれぞれに開設されています。
 一方で、スペイン語とバスク語は言語学的には全く別の言語であり、互いに意思の疎通はできないそうですが、扱いとしてはバスク語はスペインの方言です。
 その理由はバスク地方はスペインの領土だからです。
 つまり、方言か別言語であるかは、言語学的な特徴ではなく、政治的行政的な理由で決まるのです。

 その意味で、インドネシア語とマレー語の決別は、インドネシア独立またはマレーシア(の前身のマライ連邦)成立時に決定しました。
 インドネシア語も上に挙げたいくつかの例と同じように、他国の言語(不正確な表現ですがこう書いておきます)であるマレー語とは意思の疎通が可能ですが、国内の方言のジャワ語やスンダ語、ブギス語などとは意思の疎通はできません。

 また、インドネシア語とマレー語では意思の疎通が可能といっても、主に語彙に違いがあります。
 ある単語のスペルや発音が多少違っていても、意味が同じ(たとえば数字の8は、インドネシア語ではdelapan 、マレー語ではlapan )ものはいいのです。
 また、まったく別単語もまあいいのです、互いに知らない単語なので、言葉が通じてないことは明白で、おそらく質問するでしょうし。
 問題はそれぞれで使っている意味が異なる単語です。
 例として、インドネシア語にもマレー語にもkereta という単語があります。しかし、インドネシア語では電車や列車(英語のtrain )を意味していますが、マレー語では自動車(英語のcar )を意味しています。
 こうなると、互いに頭に浮かんでいるものが違うのに、文章としては成立して通じていますから、齟齬が生じます。或いはその齟齬が笑い話ですむ程度ならいいのですが、、、。

 これから、インドネシア語とマレー語の違いは更に大きく、または多くなっていくはずです。さすがにまったく意思の疎通ができなくなることはないでしょうが。
 インドネシアとマレーシアは共通の正書法を採用していますが、これはスペルの書き方(日本語で言えば、王様を「おうさま」と書き「おおさま」と書かないなど)が共通であるというだけで、単語を共有するということではありません(先ほどのdelapan とlapan など)。
 インドネシア語はインドネシア国内でさらに変化して、マレー語(マレーシア語)はマレーシアで変化し、さらにシンガポールやブルネイでのマレー語もまた変わっていくことでしょう。
 いつかそれらの比較をできたら(誰かがしてくれたら)いいなと思います。

 完全に専門外ですが、韓国語と北朝鮮語も、元はおなじ朝鮮語ですが、国が分裂して以来違いが大きくなっているようです。
 言語は文化だ、とは言いながらもなかなか政治状況を無視してもなりたたないようです。

 まとまりがつかなくなってきましたので、このあたりで終わりたいと思います。

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