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【短編】タスキをつなぐ

タスキをギュッっと握って、走ってくる小林の姿が見えてきた
僕は、スタートラインに立って、いつでもスタートを切れるように構えた
沿道からは、声援が聞こえる
小林の姿が近づいてくると、僕は、少し緊張を感じた
そして、僕は小林の手からタスキをしっかりと受け取って走り出した
前を向いて走り出した僕の背中に
「川島、頼むぞ!」
という小林の声が聞こえる
僕は、今日、町おこしの駅伝大会に小学生以来の 腐れ縁の仲間5人でエントリーしたのだった
なんで、そんなことになったのかと言うと、全ては、腐れ縁の仲間の一人の高橋のせいに他ならなかった
半年前、僕は、押し入れの中から子供の頃によく 遊んだ人生ゲームを発見した
そして、それを報告すると、これもまたもや高橋が発端だが、それを聞いた高橋が、みんなで集まって、人生ゲームをやろうと言い出したのだ
そして、これもいつものことだが、高橋がゲームの勝敗に何かを賭けようといいだした
そして、またもや高橋が発端で負けた人間が、一番苦手なことに挑戦するという罰ゲームが決まった
そして、結局、高橋が負けたのだが、その罰ゲームに高橋は、駅伝大会に出て走ると言い出し、駅伝は一人で走るわけにはいかないから、みんなで 走ろうと言い出して、なぜか、ゲームに勝ったはずの僕らも高橋の罰ゲームに参加することになってしまっていた
僕は、自分のはく息の音と鼓動を聴きながら、そんなことを思い出していた
少し風が出てきて、肩にかけてる赤いタスキが風になびく
全くいつも高橋には参るよな
と、乳酸が溜まって、どんどん疲労感が増してくる体とは裏腹に僕の頭は、妙に冷静に思考していた
最初の一キロは、結構余裕だった
沿道にまばらにいる観客の声援を聴きながら、楽しく走れた
でも、二キロを超えたあたりから、猛烈に足が重くなるのを感じた
今回の駅伝大会は、一区間、一人四キロを走ることになっている
まだ半分しか走っていないのに大丈夫だろうか?
と、急に不安を感じた
高橋に巻き込まれる形で駅伝大会に参加はしたから上位を狙うとか、そんな大それたことは思っていないけど参加する以上、なるべく上位には食い込みたいと言う欲も出てくる
そんなことを思いながら走っていると右手のはるか向こうのほうに教会の見える丘が見えてきた
よし、もう少し頑張れば、アンカーの高橋にタスキが渡せる!
と、僕は、タスキをギュッと握った
社会人になってから、まともに運動なんてしたことない僕の足は、そろそろ限界を感じていた
見える景色もぼんやりとしてきた気がする
僕は、自分の足音だけを聞くことに集中した
足音をだけに集中して走ると、雑念が消えて体の重さも疲労感も別の次元にあるような自分のものではないような感覚になった
赤いタスキが、時折、僕の目の端っこをヒラヒラとよぎるのを感じながら、僕が走っていると、
「川島〜」
と、僕を大声で呼ぶ声が、突然、聞こえた
見ると、前方に腕をぐるぐる回して、僕を呼んでいる高橋の姿が見えた 
僕は、なぜか、高橋の姿を見たら、体から元気が 蘇って来て、最後の力を振り絞って猛ダッシュした
どんどん、高橋の姿が近くなっていく
僕は、肩にかけていた赤いタスキを外して、手に握った
赤いタスキは、風にあおられ、僕の手の中で暴れた
高橋の手が見えた
僕は走りながら、赤いタスキを高橋の差し出す手にしっかりと渡した
そして、高橋の足音が遠ざかっていくのを道路に 座り込んで、肩で息をしながら聞いた
既に走り終えて、待っていてくれた仲間が僕の肩にタオルをかけてくれる
僕は、幸せな疲労感を感じていた
そして、僕たちは、高橋を迎えるためにゴールに向かって移動した
ゴールに移動して待っていると思っていたタイムよりも早く高橋の姿が見えてきた
と言っても、まだまだ親指の先ぐらいの大きさの 人間が走ってくるのが見えるぐらいの距離だった
なぜ、それが高橋だとわかるかと言うと肩にヒラヒラと赤いタスキが確認できたからだった
そして 、最初はえんぴつで引いたような線だった赤いタスキがどんどん、どんどん太くなっていく
そして、走ってくる人の顔もはっきりと高橋だと確認できるようになった
「たかはし〜」
と、思わず名前を叫ぶ安達の声が聞こえる
それにつられて、僕らも口々に高橋の名前を呼び続けた
高橋の顔が、ニヤリと笑ったように見えた
そして、高橋はゴールした
僕らは、ゴールした高橋には駆け寄り、みんな団子になって抱き合った
駅伝大会の結果は、僕らのチームは参加した20組の中で12位だった
早くもなく、遅くもない微妙なところだった
が、特にそれについては何も感じなかった 
閉会式が終わると 
「さあ、打ち上げにいくぞ」
という高橋の声をきっかけに、僕らは子犬のように じゃれあいながら居酒屋へと走っていった

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