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【短編】夏の終わりの桜貝

少し日が西に傾きかけた夏の終わりの午後 
下を見つめながら、砂浜を歩く
穏やかな波の音が、静かに耳に響く
疲れている心が、癒されていく感じがする
私は、桜貝を探していた 
砂浜には、たくさんの貝殻が落ちているけれど だいたいは踏まれたり、何かにぶつかったりで割れたり、かけたりしている
綺麗に形を残している貝殻は、なかなか見つからない
さらに、私が探しているのは、薄くて壊れやすい 桜貝の貝殻なのだから、見つけるのは難関だ
私は、アクセサリー作家をしている
と言ってもインターネットのハンドメイドを売る サイトに出店していて、時々、ポツポツと買ってくれる人が現れるという程度で、人前では、恥ずかしくてアクセサリー作家だと名乗る勇気はまだない
今日は、桜貝の貝殻を加工して、アクセサリーにしたらかわいいだろうな
と、思い立ったので、海に桜貝の貝殻を探しにきたのだ
桜貝は、薄くて割れやすくて、完全な形のものを 探すのは難しいとは聞いてはいたけど、こんなに 見つからないとは思いもしなかった
と、静かに押し寄せる波の音を聞きながら感じていた
桜貝以外の貝殻が、無数に散らばっている砂浜を
みながら、小さなため息をつき、それでも諦めきれなくて、砂浜をゆっくり歩きながら、桜貝の貝殻を探した
ふとみると、砂浜に大きな流木があった
私は、少し疲れを感じていたので、その流木に腰をかけた
そして、波の音に耳を傾けた
波が寄せては返すのを見つめていた
波が、砂浜の上を満たして、そして、引いていく時、砂の表面を波が洗って、さっきまで砂の中に 隠れていた貝殻やガラスの破片なんかが、ふと顔を覗かせる
そんな様子を、私は、ただ、ただ無心で見つめていた
桜貝の貝殻でアクセサリーを作ったら、かわいいだろう
と、今日の朝は、ワクワクして期待感しか感じていなかったけど、桜貝は、割れやすいと聞いていたのに、逆になぜ、海に来るまでは、あんなにワクワク感でいっぱいで、見つからない事など考えもしないで電車に飛び乗ったんだろう
と、規則的に寄せては返す波を見つめながら思った
少しベタついた潮風が、頬を撫でていくのを感じながら
もう諦めて帰ろうかな
と、私は腰掛けていた流木から立ち上がろうとした
その時、波が洗った砂浜に傾きかけた太陽の光りに反射して、何かが、きらりと光ったように見えた
私は、なんとなく気になって立ち上がると、その場所に走っていった
次の波がきたら、それは、海に流されてしまうかもしれない
二度と観れないかもしれない
と、なぜか思ったからだった
そして、急いで光った場所を見つめると、そこには、3つ寄り添うようにピンク色の小さな貝殻が まるで、微笑むように砂から顔を出していた
私が、急いで、そして優しく砂から半分顔を出しているピンク色の貝殻を取り出すと、間違いなく 私が、探していた桜貝の貝殻だった
そして、私の手のひらに乗ったその貝殻は奇跡的に三つとも、どこも欠けることなく、完全にきれいな貝殻の形を保っていた
私は、なんとも言えない喜びと驚きを感じていた
私は、その三つの桜貝の貝殻を大切にティッシュに包み、用意してきた容器に大切にしまった
そして、私は、軽やかな足取りで砂浜の上を歩いていった
私の背中では、少し大きくなってきた波が、私の背中を押すように激しい音を立てていた

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