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【短編】謎解きの館

ヒモをなんで、何も考えずに引っ張ってしまったんだろう
と、僕は仄暗い部屋の中で思った
3畳程度の暗い部屋の中には、壁と僕以外何も見えない
なんの音も聞こえない
どうしたらいいんだろう
と、僕は思いながら、壁を軽く叩いてみた
壁は、予想に反して柔らかくて僕の拳を優しく柔らかく跳ね返した
1時間前、僕は、散歩がてら近くの大きな公園に行った
僕は、公園に着くまで知らなかったが、その日は この公園でカーニバルが開かれていた
僕は、ブラブラと公園のカーニバルの様子を眺めながら散歩をしていた
すると、突然、目の前にサーカスのテントようなものが現れた
なんだろうと思って、なんとなく立ち止まると
「ようこそ、謎ときの館へ」
という声が背後から聞こえた
驚いて振り向くと、ピエロが立っていた
「今なら、待たずに参加していただけますよ」
と、ピエロは、僕にその謎解きの館に入るように 促した
僕は その気はないと断ろうとしたけど、ピエロの無言の圧がすごくて、どうせ暇だったし、いいかと思ってピエロのいいなりに謎解きの館に入ってしまったのだ
謎解きの館に入ると、すぐに、一つの扉が見えた
ピエロは、私にその部屋に入るように促した
そして、その部屋にある紙に書いてある謎を解くと、この扉が再び開くと説明した
そのピエロの説明を聞きながら、僕は、一抹の 不安を覚えた
が、時はすでに遅く、説明を終えると、ピエロは 僕の許可もなく扉を閉めてしまった
僕は呆然とした
しかし、謎を解かなければ、扉は開かないとピエロが言っていた以上そうなんだろう
と思った
試しに扉の取っ手を回してみようと思ったが、僕の目がとらえたのは、ドアノブのない扉だった
本気で謎を解かないと、ここからは出れないことをその時、僕は悟った
そして、部屋の中を見回すと、壁にこんなことが 書いてあった
黄色いうさぎと邪悪な天使が腕相撲をしたら、どっちが勝つ?
僕は、何度もその文字を読み上げた
「さっぱり、意味がわからない
なんの謎々なんだよ?」
という自分の声が部屋中に虚しく響いて聞こえるだけだった
そして、壁のその謎が書かれた文字の下には、黄色いうさぎと書かれた下にブザーのスイッチが
そして、邪悪な天使と書かれた下には紐が壁から たらりと垂れているのが見えた
どうやら、正解だと思った方を押すなり、引っ張っるなりすると正解なら扉が開く仕組みになっているらしい
ということを僕は理解した
仕組みはわかったけれど、肝心の答えが全くわからなかった
壁に書かれた謎を眺めることしか僕にはできなかった
黄色いうさぎ?
邪悪な天使?
腕相撲?
そもそも、うさぎに腕はあるのか?
うさぎにあるのは、全部足なんじゃないの?
天使のくせに邪悪なの?
なんだよ、それ
いずれにしても、うさぎと天使なら天使の方が強そうだ
なんていったって天使だし
更に邪悪なんだろ?
強そうだ
と、僕は、訳の分からない理論を頭の中で展開した
そして、邪悪な天使と書いてある方の紐を引っ張った結果が今の状況だ
紐を引っ張った途端、僕の立っていた床が抜けて
僕は、今いる仄暗い狭い部屋に閉じ込められているのだ
扉が開かなくて、この部屋に落ちたという事は 黄色いうさぎが正解だったのか?
と、僕は誰とはなく問いかけた
が、答えは返ってくるわけもなく、謎のままだった
とにかく、ここから抜け出さなければ 
と、僕は肝心なことを思い出した
そして、絶望感に襲われた
紐を引く前なら謎を解けば、あの部屋から出られた
しかし、今の状況はどうだ?
出られる条件は知らされていないのだ
それに気づいた僕は、目の前が真っ暗になった
なんでこんなことになってしまったんだろう
と、気軽に適当に紐を引っ張った自分を責めた
座り込んだ僕は、愚かな自分への怒りで床をこぶしで叩いた
しかし、床も壁同様柔らかく優しく、僕のこぶしを跳ね返すだけで、音すら聞こえなかった
僕は、なすすべもなく、床に横になった
床は、柔らかくて暖かかった
慣れてくると、この仄暗さもほんのりとちょうどいい 
温かさも悪くない
と、僕は感じた
なんなら、このまま、ここにいても構わないとすら思い始めていた
黄色いうさぎと邪悪な天使が腕相撲をしたら勝つのはどっち?
僕は、うとうとしかけた頭で、さっきの謎をつぶやいた
腕相撲?
そもそも、うさぎには腕はないし
天使は、実態がないんだから、そもそも、腕相撲自体が成立しないじゃないか
と、ぼんやりした頭で僕は思った
すると、その瞬間、今まで無音だった部屋にゴーっというダムの放流のような音が聞こえてきた
なんだ、なんだと、うとうとしていた僕は、目を覚まして飛び起きた
飛び起きた瞬間、またしても僕の足元の床に穴があいて、僕は、真っ逆さまにその穴に落ちた
気がつくと、僕は、空を見上げて立っていた
相変わらず、公園では、カーニバルが続いていて
陽気な音楽が流れていて、行き交う人々の楽しげな声が響いている
しかし、どこを探しても、あのサーカスのテントのような謎解きの館の姿は見当たらず、むろん ピエロの姿もどこにもなかった
夢でも見ていたんだろうか?
と僕は思った
というか、そういう事にしておく事にした
楽しい話でもないし、誰かに話したところで信じてももらえなさそうな話だから、そっちの方が いいと思った
公園を後にする僕の横を赤いハート型の風船を持った子供たちが、たくさん楽しそうに通り過ぎていく
どこかで、風船を配っているらしい
子供たちは、楽しそうでいいな
と子供たちを横目に僕は、公園を後にした

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