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家賃大作戦~分割アタック

2023 1/18(水)
 
しばらく日記が滞っている。
こういう時は、昔、書いた文章を掲載するのがいいだろう。
ネットには載せていたものの、5人くらいしか読んでなかったエッセイである。
今回は、2014年に書かれたものだ。
当時住んでいたアパートで家賃を滞納していた時期に、ポストにこんな手紙が入っていた。
「117000円の家賃滞納分を払って頂けない場合、不動産屋を入れ、善後策を検討しますので、ご了承下さい」
差出人は、大家さんである。
果たして、無事に払うことは出来たのか?
俺は追い出されなかったのか?
前回の「家賃大作戦~銀行強盗」と合わせて読んで頂けたら、より分かり易いエッセイになっております。

家賃大作戦、その後 2014・8

あれから何人かの方に、「今も、住んでいるのか?」
と、かなり本気で心配された為、これより続きを書くという、素敵で、少々、億劫な機会を与えられたことに感謝する。
機会を与えられるということは、少し億劫なものである。
それは何故かと言われたら、機会を与えられるという事は、期待に答えなければいけないからだ。
では、とりあえず、続きを書くとしよう。
あのあと、俺は一銭も払えぬまま、なるべく部屋を離れていた。
だが、眠る為にはどうしても部屋へ戻らなければならない。
俺はホテルを取って泊まろうかと考えたが、ひらめく名案の直後に、その金がないから、こうなっているのだという、逃亡理由に涙した。
そして、当面は大怪獣のようなオーヤサンの怒りを最大限におさめるべく、俺はウルトラマンのように戦う覚悟で、少額づつ支払う「分割アタック」という必殺技を思いついた。
俺の「人生国語辞典」によると・・・
「分割アタック」とは、

1・広義に
賃貸の管理主が相手に対して待てる、貧乏人からの主観的時間の俗称。

2・狭義に
金銭の分割によってその都度、嘘丸出しのコミュニケーションをはかり事態の鎮静化につとめること。

例・「今月、俺、給料ヤバイし、マジで、分割アタックなんだよね」
など。

俺の「人生国語辞典」(絶版)より抜粋。

この必殺技を使うべく、まずは、現在、自分の財布の中を確認してみた。

ジャラジャラジャラ。
カキンカキン。
グスグスグス。

そこには紙幣は一枚もなく、ただただ、小銭が、おはじきのごとく一緒に入れてある家の鍵へ、数える度に何度も当っていた。
ちなみに最後の擬音は、小銭しかない為、「分割アタック」という技すら出せないことに気付いた、涙と鼻水の音である。
そんな技すら出せない状況が数日間も続く中、一つ目の奇跡は、突然やって来たのだった。
師匠の三遊亭円丈から、新作落語台本を依頼されたのである。
おお!奇跡!
これがいかに凄いことか、落語ファンなら一読して分かるが、そうでない方には、奇跡!と、なぜわざわざ、ビックリマークをつけて興奮しているのか、理由を説明をしょう。
三遊亭円丈は、落語の歴史の中で、現在、多くの落語家が作って演じている新作落語の入口を作った人なのだ。
演芸の歴史において「円丈以後」という区切りがあるのは、円丈が新作落語の作り方を広めた。
これはもう、仏教でいうなら、釈迦のような偉い偉い大天才なのだ。
そんな三遊亭円丈から、「新作落語の台本を書いてくれ」という。
本当にいいのか、俺でいいのかと疑ったが、師匠は以前、俺の出したネタ案、
「マクドナルド少年」が気になっていた。
それは、久しぶりに師匠の家に行った時に、三遊亭円丈の名作「グリコ少年」について、
「師匠、マクドナルド少年とか、牛丼少年とか、そんなのを、師匠だけじゃなくて、若手の落語家も巻き込んで、ウイダーインゼリー少年とか、サイゼリヤ少年とか、なんとか少年、ばっかり集めたライブはどうですかね?」
と話した所、
「サイゼリヤ少年って、お前、なんだよこれ、ひゃひゃひゃひゃ~」
と、いきなり爆笑され、
「ネタにするの難しいな~でも、マクドナルド少年と、牛丼少年は作れそうだな、お前、それで書いてみろよ、お礼は出すよ」
俺は突如、新作の神からの原稿依頼を受け、ない知恵をしぼりながら、ひたすら「怒られるのではないのか」という、ただならぬ緊張感の元、落語台本を執筆した。
しかも、アイデアが閃きやすいように、タイトル通り、マクドナルドで第一稿を書きあげた。
(マクドナルド豊島園店・1階の奥の、ゴミ箱から数えて2番目のテーブルで執筆。このテーブルは、のちに、あの名作が誕生した場所として語られるという伝説を妄想)
さらに、師匠の要望から、「牛丼少年」も同時執筆。
(こちらは、牛丼屋で書くには落ち着かなかったので、春なのに暑苦しい練馬の自宅で、深夜に牛丼の動画を見ながら、汗ダクダク、で執筆。)
こうして、二本の台本を師匠に渡すと
「くくく、面白いじゃねぇか」とニヤニヤしながらも、大幅に作り変えられ、「牛肉少年」という、ほぼ、三遊亭円丈オリジナルの台本として完成した。
発表後の反響は好評で、現在、多くの寄席などで発表されている。
家賃への奇跡の一歩となった台本を無事執筆し終え、俺は師匠から原稿料を頂いた。
バンザイ、これで家賃滞納が全部払える!
訳はない・・・やはり、117000円の壁は高かった。
世の中には、この金額を安い、と、とらえる人もいるだろう、一体、そんな金額で何を大騒ぎしているのだと。
そして、もちろん、世の中には俺の原稿料を安いと、とらえる人もいるだろう、だが、俺は売れっ子作家ではない。
貰えるだけでありがたい。しかも、この時期にである。
原稿料を頂いた俺は、ようやく「分割アタック」でオーヤサンを落ち着かせ、お祝いに、ビッグボーイでハンバーグステーキを食べ、ドリンクバーを何度も何度もおかわりしながら、残金の捻出に考えあぐねていた。
さて、残りの家賃、一体どうしようか。

2015年のエッセイである。
この後、続きを書いていなかったが、一体どうやって支払ったのだろうか。
記憶にないが、あれから8年後の今、こうして生きているのだから、まぁいいではないか。
人生はどうにかなる。
どうにかしたことを今、忘れてる位だから、どうにかなるものなのである。

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